3月14日深夜の名古屋駅は旅行客でいっぱいだった。
みな、ムーンライトながらの乗客である。
名古屋では最も知られている夜行列車だろう。
特に青春18切符旅行者にとっては
大府まで320円の乗車券があれば
1回分の18切符を午前0時からフル活用できる。

 ぼくもその一人。
快速のムーンライトは重宝する。
JRにとっては赤字だろうけど、
何より鉄道を利用してもらうことが大事である。
シーズンには臨時の81号も含めて満席になるムーンライトながら。
東海道本線という大動脈を駆け抜ける列車であるからだが、
全車指定席のわりに車内検札は浜松を過ぎるまでこなかった。
しかも検札は指定券だけ。
乗車券の拝見なし。
こういうところには秩序は存在しない。
実際、キセル乗車している人もいたようだ。
見るからに挙動不審。
そんな無秩序な状態を保ちながら、
4時42分、東京駅9番線に滑り込んだ。

 東京駅で乗り換える。
接続3分ということを忘れて改札で日付を入れてもらって
ホームに戻ってみると次の列車は20分後だった。

 大都会東京でこのような経験をすること自体稀有である。
しかも待つのは山手線だ。
予想だにしなかったことである。
反対側の京浜東北線が1分早めに来るようなのでそれに乗る。
忠実に東北本線をたどることにしたい。

 乗ったのは6扉の通勤車両だった。
通常の通勤型車両は片側4扉だからどのようなものか
と思えば座席がない。
ラッシュ時は立つだけの箱詰め車両ということか。
こんなものは世界でも東京だけではないだろうか。
これでは旅を楽しむどころではない。
乗っている時間がもったいなく感じられる車両とはこういうものだろうか。
9時30分まで使用不可とある。
東京発5時02分。
希望も虚し。
神田、秋葉原、御徒町の順に停まる。
街に人影はあまり見当たらない。

 5時09分、上野に到着。
降りた人たちはいっせいに走り出す。
東北本線・各駅停車の宇都宮行まで乗換え時間1分。
走って走って階段を渡る。
とにかく猛ダッシュ。
こんな強引な乗換えが出来るのも若いうちだけであろう。
愛称で宇都宮線と呼ばれる5番ホームに行くと、
宇都宮行は10両編成で停まっていた。
真ん中に2階建てグリーン車が2両連結されていて異彩を放っている。
ベルが鳴って、5時10分、定刻に発車した。

 上野を出て尾久、赤羽と停まり、いつのまにか埼玉県・浦和に着く。
東京と埼玉の区別がつかない。
ビルが減ったかなぁ、という程度である。
ぼくのような田舎者には埼玉も東京も同じに見えてしまう。
さいたま新都心に停まって大宮に到着する。
人が増え始める。
なんだかわからないままに高崎線と分かれて進路を北にとる。
車窓は見事に住宅地へと変化した。
東京の下町の風景とはまったく趣が異なる。
その住宅地の向こうが少しずつ明るくなり始めた。
時計は5時半を回っている。
人々もそろそろ起きはじめたころらしい。

 横座りのロングシートで7人分腰かけられるのであるが、
その7つが2+3+2で区切ってあって、窮屈な思いがする。
7つのうちの1つに大きめの体の人が座れば、小さめの女性が
残りの6つのうちのどこかに座って帳尻が合うものである。
変に区切ってあっては空間が有効に生かされずにかえって狭く感じられる。
広い車内空間なだけに乗客が少ないとかえって寂しくも感じられてしまう。
大きな窓の向こうには、にわかに田園風景が広がり始めた。
上野を出て30分なのにこの建てこみ方の変わりようは極端である。
林立するビルディング→住宅地→田園。
北関東に入りつつあることがよくわかる。

 朝日が完全に昇った。
新白岡駅では停車中にニワトリの鳴き声が聞こえてきた。
東武日光線と並ぶ栗橋を過ぎる。
朝日はまぶしいが、車内は寝ている人も多く、まどろみの中にある。
古河を過ぎると、餃子の看板が目立ってきた。栃木県らしい光景だろうか。
思わず笑ってしまった。
両毛線と水戸線が十字に交差する小山を過ぎると20分で宇都宮である。
小山からは新幹線の高架が寄り添う。
右手の太陽が動かないから、まっすぐに北を目指しているのだ。

 宇都宮駅に到着する。
改札口に消える人、乗り換える人、半々ぐらいである。
9番ホームへ向かうと立ち食いうどん屋から勢いよく湯気が出ていた。
いい匂いがする。
並んでいたので食べようかどうしようかと迷っていると、
背後から威勢のいい声が響いてきた。
「べんっと〜っ!べんとべんと〜っ!」
おっちゃんが声を出して駅弁の立ち売りをしていたのだった。
宇都宮は駅弁発祥の地。
乗換え時間、停車時間の短縮による高速化の波の中で
このような光景はいつしか見られなくなった。
在来線の長距離列車が減少したのもその要因の一つである。
いまや駅の外で食料を調達するのが一般的になりつつある。
そんな中で伝統を守る貴重な駅が残っているのは喜ばしいことである。



みちのくは雪深く

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