それにしても、特急“オホーツク”とはいい名前である。
北海道で乗りたい特急列車は何かと聞かれたら、
真っ先にこの石北本線の<オホーツク>と、
宗谷本線の<サロベツ>を挙げるだろう。
最も北海道らしいと思うからである。
釧路への<おおぞら>もいいが、
いまはすべて<スーパー>になっているのでいけない。
旅情を演出するのにこの2つは十分である。
同じく九州らしい特急といえば<にちりん>、
四国らしいのは<南風>、<しまんと>、<うずしお>。
列車名と行先ががっちりかみあう列車は特に好きだ。
他にも<出雲>、<くろしお>、<いなほ>、<とき>、<日本海>、
<かもめ>、<きたぐに>などなど。
いい名前だ。
市街地が続いたのでうとうとしかかっていると
12時01分、上川到着。ラーメンで町おこしをした町である。
乗降はあまりない。層雲峡への玄関口でもあるが、
この時期はやはり少ない。
上川を発車すると、北海道の屋根と呼ばれる石北峠にかかる。
石狩山地を越えなくてはならないのだが、石北本線には駅がない。
上川の次の駅・上白滝まで、34kmもある。
これはJRの駅間距離では最も長い。
高度を上げるにつれて、窓に氷が付くようになる。
しばれる雪景色が外にはある。
ますます旅情はかきたてられる。
川だけがそばを流れる人気のない谷で、列車が停まる。
旧奥白滝駅のあった信号場で、特急<オホーツク4号>と
すれ違うのだった。
オホーツク4号とすれ違った信号場は、
かつて奥白滝という名の駅だった。1日の乗降客数が0になり、
JR北海道が廃止を決めた駅である。
駅間距離34kmの峠道には人の気配はまったくなく、
人跡未踏の地なのではないかと思うくらいだ。
次の上白滝駅もそうである。
1日1往復しか列車は停車しない。
やっと駅らしいものが見えたときには白滝駅だった。
そこでは北見行きのコンテナ列車が待っていた。
凍てつく峠路を避けて、秋から春にかけて運転されるもので、
北見地方に物資を供給する列車。
本来の鉄道が持つ役割を十分に担う列車である。
上白滝に続いて、旧白滝、下白滝も停車列車の少ない駅だ。
下りは1本、上りは3本と、極端に少ない。
この区間だけで、白滝と名の付く駅が4つ続くが、
単にこれはもともと土地の名前がなかったからでもある。
白滝の前後にある駅と解釈するのがよさそうだ。
丸瀬布に停車した後、15分で遠軽に到着する。
西側には瞰望岩がそびえている。
これが遠軽の地名の由来“インガルシペ=見張りするところ”の
意味に直結している。
この瞰望岩からは、遠くオホーツク海も見えるという。
このオホーツクの到着にあわせて、
駅弁の立ち売りの姿も見られた。
遠軽の駅弁といえば“かにめし”。
特急オホーツクの車内でも予約によって入手可能となっている。
2分停車し、進行方向を変える。
本線では珍しい、スイッチバックの駅でもある。
遠軽からはかつて、名寄本線が分岐していた。
歴史的にはこちらのほうが歴史は古く、旭川方面への線路を
計画した際、地形状の制約を受けて石北本線を通しで
運転される列車は、スイッチバックを余儀なくされるに至った。
したがってY字型の駅構内の先には、名寄本線の廃線跡がある。
その名寄本線も湧網線、渚滑線、興浜南線を分岐する幹線で
あったため、起点となる遠軽は交通上の要衝となった。
その名残が名寄本線跡側にあり、
蒸気機関車用ターンテーブルが残っているが、雪に埋もれている。
巨大な扇形機関庫も今はない。
遠軽で方向転換した特急<オホーツク3号>は、
安国、生野と軽快に進む。
生野は遠軽方面の普通列車が1日1本という駅。
この地方はそんな駅が珍しくないようだ。
生田原に停車して、急勾配にかかる。
常呂と紋別の群境を越える“常紋峠”である。
人家も稀な深い自然に囲まれた山中を、雪煙をあげながら駆ける。
列車の速度は目に見えて落ち、エンジンは高らかに唸る。
急勾配に急カーブ。鉄道が最も苦手とする線形だ。
エンジンを唸らせ続けた<オホーツク3号>は、
タイフォンを鳴らすと、トンネルに吸い込まれた。
標高345mの常紋峠のサミット・全長507mの常紋トンネルである。
常紋トンネルは「タコ部屋」に従事した強制労働者によって
掘られたトンネルである。
非人道的な扱いを受け、逃亡に失敗してリンチを受けたり、
病死したり熊に襲われる者も多かったという。
この常紋トンネルの建設工事で出た犠牲者は百数十人。
遺体は穴を掘って埋められたり、盛り土の下に葬られたりした。
中には見せしめのために人柱となってトンネル内壁に生き埋めに
なった人もいたようだ。
レンガ壁の影から人骨が発見されたのこともある。
その手作業で建設されたトンネルを抜けると進行方向の右手に
信号場が見えた。
スイッチバック式の常紋信号場である。
常紋信号場も、2000年に廃止になった。
スノーシェッドに囲われ、蒸気機関車撮影のメッカだったところ
であるが、除雪もされずに雪に覆われたままとなっていた。
サミットを過ぎたのであとは下り勾配。
軽快に駆け下りて留辺蘂に停車し、
18分でこの地方の中心都市・北見に到着する。
乗客の半分以上が下車していく。
ホームの端には貨物列車発着用ホームもあり、
先ほどとは別の貨物列車が付け替え作業中であった。
音威子府駅
凍てつく鉄路
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