釧路からは6時発の快速<狩勝>に乗る。

 夜行特急<まりも>で釧路に着いたのが5時50分なので、
わずか10分の釧路滞在ということになる。何をしに釧路に来たのかと
問われれば、この<狩勝>に乗りたいがためと答える。あと、強いて言えば
「宿が釧路行だったから」である。

 もはや旅を棲家としている。

 そう言わざるを得ないだろう。
それもまた潔し。乗り放題切符の使い勝手のよさを逆手にとって、
予定は未定の状態からでも、ひたすら日程の調整をする。
ただ、一週間以上も旅をしているので、日常の土台であった
「生活」も多少は鞄の中にある。洗面具などはもちろんだが・・・。

 <狩勝>は発車した。
わずか1両のワンマンカーだが、なんと300km以上離れた滝川行である。
こういった長距離鈍行列車に乗るのもいいものだ。大きな製紙工場が
濛々と白煙を上げて湿原の中に社宅が並んでいる。左窓には港に停泊する
船が見えてくる。新富士、新大楽毛に停まり、馬市で知られた大楽毛を
過ぎた。

 なかなか寝不足である。
まだ<まりも>の寝台にいたい気持ちでもある寝ぼけ眼の左側が
急に赤くなった。思わず目を開けると反対側の釧路湿原まで続く
横一文字の地平の上に、黄味帯びた大きな赤い玉がのっかっている。
まだギラギラしていないのに光線が強い。さすがに北の大地の太陽は違う。
大都会では見れない本当の太陽を久しぶりに見た気になった。

 車内に人はほとんどいないに等しいので窓を開けた。
こういった眼の覚めるような景色を見たら、車内の寂しさを嘆くよりも
感動するものに眼を向けるべきである。空気は冷たいのに陽光は強い。
列車は素寒貧とした湿原の中を走る。

 庶路、西庶路に停まって白糠出ると右が湿原、左が海となる。
立枯れの大樹が点々とあり、戦場のようだが、ワンマンカーが走る様は
無雑作にも思えてくる。古瀬の次、音別からは湿原の中を走って
尺別に停まり、直別から再び太平洋に出る。

 だだっ広い海原の上に太陽が輝いていた。
紺碧の空と真っ青な海である。これまた見応えのある土地である。
車窓が変化に富むといっても過言ではない。線路について言えば曲線あり
直線あり登りも降りもありで、どこの鉄道線路もそうなのだが、それらの
間隔が長からず短からず現れる。帯広まで3時間かかるが、車窓風景が
自分の出番を心得たように出没してその時間をうまく演出してくれている。
特急だったら1時間半と、倍の速さである。各駅に停車してくれるから、
次の車窓のための休憩時間のようにすら思えてくる。

 海の風景は素晴らしいが海岸は寂しさを感じさせる。
厚内で寂しい海岸線は終わり、雑木林に入る。明るくなって牧場が現れ、
鬱蒼としたエゾマツかトドマツかの大木だけの林になる。上厚内を過ぎて
白樺の林になると浦幌である。樹林の多様さには眼を見張るものがあった。

 新吉野、豊頃、十弗と停まり、池田に着く。
すると、前方から北海道ちほく高原鉄道のワンマンカーが近づいてきて、
連結された。ここから帯広まで連結されるらしい。昨日途中下車した
陸別からのディーゼルカーであった。

 池田を出ると利別、幕別、稲士別、札内に停車しながら
利別川などの大きな川を渡る。さすがに十勝平野で、スケールが大きい。
その平野の中心都市である帯広に8時58分着。
これまでの景色がウソであるかのように、大きな町である。
22分停車し、釧路を1時間半もあとに出た特急<スーパーおおぞら2号>に
追いつかれてしまう。増結されていて長く、1両のこちらとは対照的だった。

 9時20分、時刻表上ではここまで普通列車だったが、
快速<狩勝>として十勝平野を走り始めた。




朝早き道東へ

狩勝峠を越えて

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快速<狩勝> @
紺碧の空と神々に魅せられて
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