22時過ぎの札幌駅の8番線は混んでいた。

 見るからに流氷観光だぞと言わんばかりの人もいれば、そうでない人も
いるようである。北海道フリー切符(グリーン車用)を持っているので
B寝台に宿泊し続けてきたが、これから乗る特急<オホーツク9号>
網走行はあいにく満席であった。これも観光客のせいである。

 やむを得ずのグリーン車とは甚だ贅沢だが、
おかげで車窓は窓一つ自分のものである。入線してきた列車に乗る。
1人掛けのシートなので隣の人はいらず、気兼ねという言葉は無縁。
のんびりしていようと思う。22時25分に発車した。

 札幌を出て早速だが、夕食を食べる。
増毛のスーパーで買った魚の切り身である。海苔と醤油を合わせて
手巻き寿司にする。これがうまい。貧乏臭さが漂うのはご愛嬌。
これも安く旅をするための知恵である。特にスーパーの鮮魚コーナー
などには、地元の人が好んで食べるものが置いてあることが多い。
そういうものに触れてこそのたびだと思う。もちろん魚屋で買ってもいいが
それでは魚をさばく場所がない。便利な世の中を旅先でも実感してしまう。

 江別、岩見沢、美唄、砂川、滝川、深川と主要駅に停まる。
座席車も連結する夜行列車というのは、発車時間が遅いだけに概して
通勤客の帰宅列車になりがちである。このときもそれぞれの駅で
自由席から降りていく人が目立った。

 石狩平野を走って、再び神居古潭をトンネルで抜けると
0時16分、旭川に着いた。ここで25分停車する。時間調整なのは明白だが
乗客の休憩時間のような意味合いもあるらしい。<オホーツク9号>には
車内販売はおろか、自販機もない。2時間兵糧攻めに遭った乗客たちは
ホームに出て何がしかの自販機の前にいる。ぼくも缶コーヒーを買う。

 雪が降っている。
ブリザードではなく、深々と降る雪だ。発車時刻を迎えて動き出しても
止む様子はない。外にいれば視界が前後左右で真っ白になるだろう。
北海道の雪は粒が小さく、湿り気がないので舞い上がりやすい。
五里霧中になるのである。

 それとは対照的なはずの暗闇もずっと続く。
上川を出た列車は北見峠にかかる。石狩山地の中、人跡未踏の
土地である。そこには漆黒の闇がある。白と黒の世界が共存している。
この黒さは表現しがたいものがある。

 人類が何千年にもわたって恐れおののいた闇がすぐそこにある。
黒を何度塗り重ねたとしても闇を描くのは不可能ではあるまいか。
人間は闇を前にして、死の世界に包まれる思いがするのである。
背後を振り返るとゾッとするだろう。

 闇が美の世界かと問われると、そうでもないと思うが、
黒という色の美しさの極限ではないかと思う。列車から漏れる灯りが
雪を照らしている。それがモノクロの世界を演出していて吸い込まれそうだ。
これが夜行列車に共通の車窓なのだと改めて思う。

 目を閉じて自分自身が作る暗闇などたかが知れているのだが、
そうしないと眠ることはできない。切り離せないものである。
少しだけ眠ってしまおうと思う。





神居古潭

氷雪の常紋峠

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夜行特急オホーツク @
モノクロの世界
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