深川からは留萌本線に乗る。

 深川は函館本線の駅でいま降りたように特急も停車する駅だが、
日中は構内も閑散としていて広い構内に風が吹き抜けていく。
この駅からは増毛まで66.8kmの留萌本線の他に、名寄への
深名線が分岐していた。

 深名線は豪雪地帯を貫く路線であった。
木々の根元は斜面をずり落ちる雪の圧力で押し曲げられ、釣り針が
山肌を引っ掛けたような形になっていた。完全に雪に負けて倒れた
ようにひれ伏し、わずかに小枝の先だけを空に向けているものも
多かったという。朱鞠内湖の北岸の白樺林や湖面に点々と残る
切株の眺め。冬季には全面通過となる白樺駅と蕗ノ台駅には
行ってみたかった。客の代わりに雪だけが訪れる。いまはおそらく、
ホームは崩れて駅の遺跡のようになっており、自然の一部と化して
いるのだろう。もはや夢物語である。

 本線と名の付く線区は数多くある。
“本線”というと、いくつかの支線をしたがえた幹線の意味である。
したがって、“ローカル線”とは反対の意味の言葉である。しかし、
そうした基準やイメージも北海道ではだいぶ怪しく、日高本線や
宗谷本線は「あんたそれでも本線かね?」とでも言いたくなるような
わびしさを時刻表上でも漂わせている。これから乗る留萌本線も
その一つである。

 定刻の13時に発車して函館本線と分かれると、
石狩平野の穀倉地帯を走る。最初の駅“北一已”に停まる。
“きたいちやん”と読む。元々は“きたいちゃん”であり、イチャンは
アイヌ語で「鮭が産卵するところ」の意。

 次の秩父別は「われらが越える川」の意味であり、
この駅の先で雨竜川を渡る。石狩川の支流となる川で、この先から
広がるのが雨竜原野である。

 かつては札沼線の分岐駅であった石狩沼田に停まる。
札沼線は新十津川で尽きているが、札沼の“沼”は石狩沼田に
由来している。それも部分廃止の憂き目に遭い、こうしてただの
通過駅に成り下がっている。ただし乗降客は割と多い。

 石狩沼田で平野は尽きてしまい、峠越えにかかる。
雨竜原野と日本海を分かつ分水嶺であり、ディーゼルカーはエンジンを
唸らせながら登っていく。石炭産業を背景にして開業したので、
峠越えも勾配を緩めるためにカーブが多い。

 短いトンネルで分水嶺を抜けると川の流れが変わる。
列車の進行方向へ流れる川に沿って下っていく。これが留萌川で
「潮の静かな川」の意である“ルルモペツ”に由来する。川なのに潮と
なっているのは、河口で流れが滞留し、海水が逆流してくるかららしい。
滞留するまでもなく、列車はその流れを追い抜いて走る。
要衝駅である留萌に着く。

 留萌からは羽幌線が北へ向けて延びていた。
宗谷本線の幌延まで、141.1kmを全線日本海に沿って走る路線
だったが、ご多分に漏れずすでに過去のものとなっている。
なかなか北海道には開拓の歴史を支えた鉄道が残っているとは
言い難いのかもしれない。稲作の北限地・遠別もこの先にある。

 晴れていればオロロン鳥の群れる天売島や焼尻島の島影が
見えたり、海蝕崖のしたの海際を行くようなローカル線だったのだが、
と、ぼやいても仕方のないことぐらいわかっていても、
やはりぼやいてしまう。羽幌線廃止の直接の原因は羽幌炭田の
閉山である。ススの出ない良質の家庭用炭を産出していたらしいが
石炭不況に圏外などなかったらしい。

 留萌を発車すると右窓に日本海が開ける。
羽幌へと北上せずに西へと進路をとっているからである。海上を厚い
雲が覆っていて、白波も立っている。北辺の日本海はいつ見ても
明るくはないが、この場所から見る夕日の美しさは想像に余りある。

 線路は海岸段丘の下に敷かれている。
その段丘の切れ目から何本もの小さな川が勢いよく流れ出している。
このような地形の下を走る線路は、やはり北海道ならではである。
川の流れ下る先には廃屋となったニシンの番屋は民家があり、それらを
かすめて日本海に流れ出している。

 小川のほとりには乗降上のような小さなホームがある。
礼受駅であった。木張りで10mぐらいしかなく、1両のディーゼルカーも
停まれないほどに短い。前側のドアしか開かないとしきりに告げている。
一人のおばあさんが降りた。かつぎ屋といった感じではないが、
この人にとってはなくてはならない交通手段である。

 右窓に増毛の町が見えてきた。
ホーム片側1面だけの増毛駅に着く。貨物用の引込み線が延びて
いたりせず、見るからにこれ以上先へは進めないと言わんばかりの
「終着駅」であった。こんな風情の駅に停まるディーゼルカーは
哀れに見えて仕方がない。これを哀愁というのだろう。

 増毛はアイヌ語で「カモメの多いところ」の意だという。
魚の多いところに集まる鳥だから当然である。増毛はニシンの好漁場
だった。本当にここは魚のよく獲れるところらしい。スーパーに行くと、
鮮魚コーナーにはホッケにタラ、アジ、ソウハチ、タコ、ツブ貝・・・。
ソウハチとは小さなカレイの仲間である。
ニシン以外なら何でもありそうだ。

 ここで何を食べようか迷うが、刺身の残り部分を集めた
切り身パックを買う。お茶漬け用に使われるもので、これがけっこうな
量にもかかわらず250円。さすが増毛である。
それと海苔、醤油。これで手巻き寿司が作れる。
今日の宿となる夜行列車で食べよう。

 15時49分発の深川行で折り返した。





これもまた旅

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留萌本線の旅
終着駅へ行ってきます
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