長万部は函館本線との分岐駅で、交通の要衝であるが
天然ガス試掘の際に湧いた温泉があるくらいで格別の町ではない。

 公衆電話から母に電話をかける。
家の状況を聞く。家も受難続きだと途方に暮れてしまうが、
ギリギリの予算で北海道に来ている以上、動けないのである。
とりあえず、北海道を自分なりに楽しんで帰ることしかできない。
無念だ。

 駅付近には毛ガニの看板が多い。オシャマンペは
「カレイのいるところ」の意だというが、毛ガニを宣伝するところに
なっている。13時ちょうど発の函館行普通列車に乗る。

 中ノ沢、国縫、北豊津、黒岩、山崎、鷲ノ巣と停まる。
左に有珠山と頂に雲をかぶった羊蹄山、右には海から噴き出した
ような駒ケ岳の全容が車窓から一望でき、列車はそれらの火山に
囲まれた内浦湾に沿って走る。この湾は“噴火湾”の別名を持つが、
江戸末期に来航したイギリス船の船長が「ヴォルケノ・ベイ」と
言ったことに由来するという。

 八雲は明治に入って開拓民としてこの地に移ってきた旧尾張藩主
徳川慶勝が開いた酪農の先進地で、地名は「八雲たつ出雲八重垣
つまごみに」に因むそうで、町の中には出雲町、八重垣町などの
地名があるらしい。北海道でも南部まで来ると歴史の香りがしてくる。

 八雲を発車すると山越、野田生、落部、石倉、本石倉、石谷、桂川
の順に停車しながら、噴火湾に沿う。海岸段丘上を走るので眺めが
すばらしい。いつのまにか真正面に駒ケ岳が移っており、左車窓の
海の対岸は先ほどいた長万部だと気付く。その右側はおそらく室蘭
であろう。14時19分、森に到着した。

 ここで改札の外に出て、いかめしを買う。
いかめしを食べたいがためだけに普通列車を選んでいるようなもの。
そうすると売店のおばちゃんが言うには、釜の調子が悪くて、
いま煮込んでいる最中なのだという。何分かかるかたずねると
わからないとの返答があった。今日はあきらめるしかないらしい。

 森から砂原線に進入する。
函館本線は森〜大沼間で新旧2つの経路に分かれている。
駒ケ岳の西麓を急勾配で登るほうが旧線である。しかし、蒸気機関車
は勾配に弱いので、この区間は輸送力の障害となっていた。
重い石炭を積んだ貨物列車などは短い編成に組み替えないと
登れなかったのである。そこで遠回りではあるが、勾配の緩い線路が
駒ケ岳の東麓の海側に敷かれた。砂原町を通るので“砂原線”と
呼ばれるが、正式名称はこれも函館本線なのである。

 現在は技術革新著しく、特急・急行列車はすべて旧線経由で
普通列車のみが旧線経由と砂原線経由とに分けて運転されている。
今日は晴れていて海の眺めがよさそうだから砂原線に乗る。

 列車は駒ケ岳の裾を大きく巻きながら緩い勾配をぐんぐん登る。
左窓に対岸の室蘭を望み、駒ヶ岳のなだらかな山腹を走るので
なかなか爽快である。裾の美しい貴婦人のような駒ケ岳の全容を
眺めるには旧線の方がいいが、こちらの車窓も捨てたものではない。

 大沼駅に着いた。
ここで2分停車する。相変わらず駒ケ岳が見えている。美しい山だ。
北海道へ渡る旅客の9割以上が飛行機を利用するようになり、
函館本線の車窓からこの山を眺める人は少なくなってしまったが、
形のいいことでは駒ケ岳が一番だなと思う。荒々しさも険しさもない。
ただただ、美しい山である。

 大沼を発車すると右手に小沼が現れる。
白樺の林に囲まれた高原風景で、とても函館の郊外とは思えない。
函館と東京の緯度差は約6度。1度につき平均気温は6度下がる。
標高差にすれば900mで、軽井沢あたりの平均気温と同じらしい。
北海道南端の函館ですらこれだから、驚かずにはいられない。

 この1週間見続けたポプラやサイロを見るのもこれで終わりかと
思い始めた頃に七重に着き、市街地が広がり始める。
10分も走れば五稜郭で、もう観念しなくてはならない。
これでほぼ北海道の旅は終わりといってもよい。乗り残しとして
江差線があるが、これはまたの機会としてとっておこう。

 16時03分、定刻に函館駅に着いた。






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