ふっと目を覚ました。
どこかの駅に停まったみたいだ。時刻は2時15分。
糸魚川のようである。
天険・親不知を過ぎて北陸本線の真っ只中。
発車すると2度目のデッドセクションを通過して、再び電気が消え交直転換。

 海の近い青海川、トンネルの中にある筒石を通過した。
漆黒の海の中に漁火を見ながら、2時47分、直江津に到着する。
運転士が交代しているのが見えた。
JR西日本と東日本の境界駅。
車掌も息抜きとばかりにコーヒーを買っている。

 丑三つ時のホームには空調の音が響く。
乗客は家族連れが多く、車内が静かになるまでは動きづらかった。
三段寝台の狭い印象を余計に強めていると思うが、
一時代前まではこれが普通だったのである。
それぞれの寝台のカーテンの裏で、思い思いの夜を過ごしていた。
なのに昨今は、早起きして新幹線に乗る、新幹線で寝るのが普通である。
物事を考える暇がないのは言うまでもない。

 寝る前は乗客でいっぱいだったサロンカーに行ってみる。
三段寝台に“閉じ込められた”状態が続いていたからありがたいフリースペース。
天井が高く、他の車両と違って開放感がある。
三段寝台が窮屈だからと、ここで寝ている人もいる。

 これからの行程の長さに思いをはせる。
時刻表の地図上で最長片道切符のルートはオレンジ色に塗っておいた。
幹線上のルートは、急行<あおもり>と重複する部分が多い。
それが途切れ途切れなのは、一筆書きの妙といえる。
東日本は行ったことのない土地がほとんどなので、初めての路線が多い。
どういう旅になるかはたどってみないとわからない。
それとは対照的に、西日本は行ったことのある土地がけっこうある。
そこでぼくが何を思うのかはわからない。
どこで何に出会うのかはわからない。

 サロンカーで考え込んでいたら長岡を過ぎた。
もう十分に日常を抜けている。
高速で走る新幹線だと身体だけ動いて心がついてこない。
夜行列車は心地よいスピードで走ってくれる。
朝起きたら違う土地。夜行列車の醍醐味はそこにある。
鉄道旅行の魅力がそこに、長距離列車に集約されているとぼくは思う。
自分の寝台で休むことにする。
起きたらどこにいるのか、と思いながらいつしか眠りに落ちる。



 目覚めると海が見えた。
おはよう放送が流れ、あと15分で酒田に着くという。
にわかに車内が動き出した。
降りる準備をしているみたいだが、どう見ても通路が狭いらしい。
通路には靴とスリッパが散乱し、上段・中段いたるところから
顔が出たり足が出たりしていて、三段寝台の狭さに苦戦しているようだ。

 酒田では駅弁を売っている旨が告げられて、ドアが開くと一斉に外へ出る。
弁当のケースは2つともみるみるうちに売り切れて、キヨスクにも列ができた。
下車客も多く、3分停車も6分に延び、遅れて発車した車内は静かになった。

 ササニシキで有名な庄内平野を駆ける。
あいにくの雨のせいで鳥海山は見えない。
8時を回って象潟、羽後本荘と停車。
単線の羽越本線は貨物列車も多く走っていて、対向列車も遅れがちらしい。

 3分延のまま、鉄道唱歌が流れて秋田に到着。
大半が下車して空っぽに近い車両もある。
遅れのせいで5分停車のはずが2分停車で発車する。
車掌どのも大変な様子で、ホームに睨みをきかせている。
弁当を買えなかった乗客もいるようだが、9時19分、定刻に発車する。

 秋田平野の水田が広がって、少しずつ晴れてくる。
羽後本荘から乗ってきた寝台解体の係員がやってきた。
しかし、一画を解体しただけで別の車両へ移っていった。
どうやら各車両に相席できるスペースを均等に作っているらしい。
いまだカーテンを閉じたままの寝台もあるのでそうならざるを得ない。
 梯子とカーテンを外して落下防止柵を折りたたみ、
ガチャリと中段をたたんでしまえば窓が現れる。
下段も座面をスライドさせてしまえば向かい合わせのボックスシートが完成する。
効率を求める世においては、こういった車両が本当は望ましいはずと思う。

 秋田から1時間弱で東能代に着く。
単線であること、臨時列車であるゆえに、小刻みに停まるのをくりかえす。
東能代で五能線と分かれて内陸を目指す。
県境の碇ヶ関を越えて、大鰐温泉に到着。

 ローカルムードが漂う中、秋田を離れたと感じたのは、
おそらく車窓にリンゴ畑が広がったからであろう。かなりの規模だ。
山に入って大釈迦を越えると青森平野に下りていく。

 鶴ヶ坂、津軽新城、新青森と過ぎて、
オルゴールとともに、終点青森到着の放送が流れる。
左側から津軽線が寄り添ってきて大きく左にカーブすると
東北本線と並んで青森駅5番線に足を止めた。




プロローグ・スライドへ

月光型電車・夢一夜Tへ

乗り継ぎ乗り換え最北の道へ

最長片道切符の旅TOPへ





最長片道切符の旅・旅立ちT
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送