青森からは青函連絡船!
といきたいところだが、それは夢物語。津軽海峡線に乗り換える。
13時15分発の特急<スーパー白鳥7号>函館行に乗る。
2両しかない自由席は混むこと必至なので、最後尾のデッキに立つ。
高い位置にある運転台の下から展望が楽しめる。
丁寧に手動のワイパーも付いている。

 定刻に発車した<スーパー白鳥>は青森運転所の構内を抜けると
一気に加速して津軽線を疾走する。
小さな駅をいくつも通過して、右手に津軽湾が現れた。
最初の停車駅・蟹田で青春18切符の乗客を迎える。
津軽海峡線内は特急列車しか走っていないため、
蟹田〜木古内間は特例が認められている。

 いまが夏休みなのだと実感しつつ、青森で買った“しゃけいくら釜めし”を食べる。
青函トンネルの入口にある展望台に人垣ができていたのが見えた。
最高時速140kmでトンネルの最深部を通過して、吉岡海底駅に停車する。
海底駅見学客以外の利用は認めないこと、
降車ではなく乗車専用である旨が放送されている。
列車の音以外しないのだから、おそらく最も静かな無人駅だろう。
海底駅を発車すると再び暗闇になり、暗闇になる。
本州行きの列車とすれ違って、青いネオンが流れると外に出る。
北海道だ。

 本州と景色が同じに見えるが、どことなく山並みや植物が違って見える。
木古内で多くが下車すると、江差線に入って再び単線になる。
この辺りは本州との結びつきが強いらしい。
津軽海峡を見渡す丘の上を走ると、
先ほどまであの海の向こうだったのかという気持ちになる。

 五稜郭で函館本線に入り、終点函館到着のアナウンスが流れる。
スピードが落ちて、函館駅7番線に滑り込んだ。
青森同様に港町の香りがする駅。
「札幌行・特別急行<北斗15号>は向かい側です。」と案内される。
が、函館では一度も途中下車したことがないので
五稜郭からの運賃200円を払って、改札の外に出る。

 数日後、ここに来ることになる。
そのときのために、余裕がある今のうちに情報収集をしておく。
土産物売場で夕張メロンゼリーを売っているおばちゃんがひとなつこかった。
「お兄さん、試食していかない?」
って、夜の街の客引きみたいだ。
うまかったので買うことにすると、ゼリーをひとつ、手に握らせてくれた。
笑顔は振りまいておくものだなと思う。
その街の人情に出会えるから。

 8番線に戻って、アイドリングを響かせているディーゼルカーに乗る。
16時43分発の特急<スーパー北斗17号>札幌行である。
発車前の放送で、函館を出ると東室蘭まで停車しない旨が繰り返される。
6番線から大阪行の寝台特急<日本海4号>が発車すると、笛が鳴る。

 五稜郭からエンジンが唸りはじめ、減速することなくカーブに進入する。
振子車両はサーキットマシンのように走り抜けていく。
遠心力を打ち消すためにわずかに内側に傾くのがわかる。

 左に大沼が現れた。駒ケ岳は雲に隠れていて見えない。
道北・道東もすばらしい風景が随所にあるが、道南ではここだと思う。
千歳空港から北海道に入ったのでは見ることなどできない景色。
青森、函館を経てここを通過すると、「北海道だな」という気持ちになる。

 長万部を通過して噴火湾に沿って走る。
湾に沿ってぐるりと回るから、先ほどの駒ケ岳の裾野がかすかに見える。
停車駅が少なければ車内に動きがあるはずもなく、いつしか眠りに落ちていた。

 目を覚ますと東室蘭を出たところだった。
勇払原野を快走して苫小牧、空港が見えてくると南千歳と停車する。
釧路行の特急<おおぞら>や、空港行の快速<エアポート>の
案内が行なわれていて、終点札幌が近いことを感じる。

 南千歳から14分で新札幌に停車。
高架橋に上がって札幌の市街地を見渡しながら函館本線と合流すると
19時43分、札幌駅2番線に到着した。

 3時間ほど時間があったので“時計台”というラーメン屋でラーメンを食べる。
ススキノのお風呂には行かない。
デパートの地下でおもしろい食べ物はないかと探す。
天重が半額260円。夜食に買う。
待合コーナーでは巨人−阪神戦を放送していた。11回ウラで3対3.
こんな試合はビールでも飲みながら・・・と思うたびに、親父だなと思う。
まだ若いのに。

 再びホームに上がって荷物を持った人たちに紛れる。
22時48分、ヘッドライトを明々と照らして入線してきたのは
23時02分発の特急<利尻>稚内行である。
本当なら7号車の“ゴロ寝カー”を使いたかったのだが、
旅行会社がすでに抑えていたらしい。
指定券発売日に購入したのに買えなかったとはひどい話だ。

 残念な思いで普通車指定席に乗る。しかも満席。
利尻・礼文といった離島に行く人たちだろう。稚内まで動けないことを覚悟する。
増結された7両編成がパンパンになって発車した。
函館本線を走っているが、横の人が
テーブルを出したまま寝ているので身動きが取れない。
もちろんトイレにも行けない。
逃げ道は車窓だけ。やむを得ず寝ることにする。
滝川を発車後に減光された。

 翌朝起きると豊富を過ぎたところ。
もうすでにクマザサの茂る最果ての地。空は明るくなり、日は昇ろうとしている。
満席の車内は静まり返ったままだったが、
5時半過ぎにおはよう放送が入り、蛍光灯も元に戻る。
利尻富士を見渡せる丘の上で減速すると、車内がざわめきはじめる。
曇っていたので利尻富士が見えたわけではないが、“ようこそ稚内へ”とあった。
ようやく最北の地に来た。

 6時ちょうど稚内駅に到着。
<利尻>から吐き出された乗客のほとんどが離島フェリーターミナルへと消える。
線路が尽きているのが見えた。
最北端の線路である。
しかしいまのぼくにとっては、尽きる場所ではなく、はじまりの場所である。
はじまりの線路である。
ここから南へ向けて、遠い九州を目指して、
はるか12000kmの旅をはじめようと思う。



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