8月15日(月)

 早起きは三文の得とはよく言ったものである。
夜が明けると同時に列車に乗り、日没でその日はおしまいにする。
鉄道で旅をするのにこれほど有意義なことはない。
しかし、今日は早起きしたら大雨であった。
景色のすばらしい道東を堪能する日であるのに残念だ。

 傘は必要になってから買えばよいと思うので、網走駅まで走る。
朝から雨に濡れるとは今日は大変な日になるかもしれないなと思う。
それでも列車は動く。雨でも旅はできる。

 駅にたどり着くと、札幌からの夜行特急オホーツク9号が到着。
札幌行の特急オホーツク2号の改札中でもあり、賑わっている。
その人たちに紛れて改札を抜け、2番線に行く。
夜行で来た人たちがけっこういる中、6時半頃にディーゼルカーが入線。
これから乗る6時41分発の釧路行普通列車である。

 乗り込んで席に座ると、改札から続々と人が走ってくるのが見えた。
早めに来ておいて正解である。満杯になったところで発車する。
2つめの石北本線に続いて、3つ目の釧網本線に入る。
紋別を走る名寄本線や、サロマ湖畔を走る湧網線、興浜北線などが
廃線によって失われたいま、道東を堪能できる貴重なローカル線である。

 網走の市街地を抜けて、桂台、鱒浦に停まり、オホーツク海沿岸に出る。
晴れていれば、オホーツクブルーと呼ばれる真っ青な海が
広がる場所であるが、今日は大雨。この先の景色も希望は持てない。
ネコが住みついて駅長扱いされていた北浜駅に着く。
“ニャンタロ”と呼ばれていたネコは1年前に他界した。
それでもなお、オホーツク海に最も近い駅として、
訪れる人があとを絶たない駅である。
駅舎内にある“喫茶・汽車場”もこの時間では開いていない。
晴れていれば下車することも考えただろうが、このまま進むことにする。

 海岸ではキャンプをしている人がいた。この雨では大変そうだ。
北浜を出ると原生花園、浜小清水、止別と停まる。
左手のオホーツク海との間の狭い砂丘が原生花園。
右手に広がる原野は、雨のせいで湿原のように見える。
斜里町に入り、知床への玄関口である知床斜里駅に到着。
5分停車の間にほとんどの乗客が降りる。
世界遺産の知床半島への観光客が多かったようだ。
その知床の山々も、まったく見えない。

 斜里岳の懐を抜けて清里町に着く。
北海道を旅すると、1日に一回必ず悪いことが起こる。
昨日は夜行列車で窮屈な思いをした。
前回北海道を旅したときには、実家のある福岡で地震があったり、
北浜駅に忘れ物をしたり、携帯電話をなくしたりと散々だった。
今日は大雨で時速25kmの速度規制がかかった。
車にも追い抜かれるスピードでゆっくりと進んでいく。

 札弦に15分遅れで到着。
そして30分遅れで緑に到着する。
だんだん遅れが広がっていくなと思っていたら、ついに運転抑止がかかる。
信号は赤のまま。
対向列車も同じように停車させられている。
乗客はこちらだけでも18人。
運転士が一人一人行先を尋ねながらメモをとり、
無線で運転指令に連絡して指示を待っている。
もしかしたら天候次第ではバス代行輸送になるやもしれぬ。
2日目にしていきなりのトラブルだ。

 運転抑止は初体験。
いつ発車するかもわからぬ列車に乗って待つのは変な気持ちである。
一番苦労している運転士どのには申し訳ないが、若干わくわくしている。
保線区の作業員がトラックで来た。知床斜里から来たらしい。
「管轄が違うからね。」と運転士に言って対向の網走行に乗っていった。
その対向列車に遅れること40分で、摩周から線路を見つつ
ここまで来たという作業員を乗せてこちらも10時前に発車した。

 規制区間を出る川湯温泉までの点検は終わったが、
規制は解除されていないので作業員が随行しなくてはならないのである。
徐行運転が続く。17km先にある川湯温泉に40分かけてたどり着く。
長い道のりであった。
今日の日程は完全に狂ったが、
まずは無事に通ってこれたことを喜ぶべきであろう。

 反対側に網走行の快速<しれとこ>が停まっている。
待ちかねたという表情で10人ぐらいが乗ってきた。
運転士が140分遅れであることを伝えている。
こちらもこれからどうするかを考えねばなるまいか・・・。

 美留和に停まったあとの摩周では、さらに20人ほどが乗ってきた。
久しぶりの駅員配置駅であり、混乱はなかったようでもある。
川湯温泉からというもの、息を吹き返したようにエンジンが唸り、
心地よいジョイント音が続く。

 標茶を130分遅れで発車する。
遅れが少しずつ回復している。運転士どのに感謝だろうか。
標茶のあとはタンチョウヅルが飛来する駅として有名な茅沼駅を過ぎて
車窓には沼や川が現れるようになる。釧路湿原だ。
蛇行する釧路川と絡み合いながら、
塘路で<釧路湿原ノロッコ号>と出会う。
観光客でいっぱいだった。お盆であれば仕方のないところであるが、
警報機が鳴っているのに踏切を横断する人がいてなかなか発車できない。
マナーはきちんと守ってもらいたい。

 釧路湿原駅に臨時停車したあと、
並行する道路をオートバイが走っていたので手を振る。
応えてくれた。
遠矢から住宅も目立つようになり、釧路市街が近づいてくる。
いま走る釧網本線と4つ目の根室本線の結節点である東釧路を出れば、
釧路駅3番線に到着する。118分遅れであった。

 途中下車印を押してもらおうと改札に行くと、
駅員どのは目を丸くして最長片道切符を見つめている。
ちゃんと経由地に根室本線があるのを確認したのはいいが、
動揺したせいか、途中下車印は上下さかさまであった。

 駅を出てまっすぐ和商市場に向かう。
勝手丼で知られる市場であるが、目的はイクラである。
魚卵専門の田村商店のイクラがうまいことは去年仕入れた情報である。



 釧路からは最長片道切符のルートを外れて根室を目指す。



 釧路まで戻ってきて、今日のラストランナーに乗る。
18時42分発の札幌行特急<スーパーおおぞら12号>である。
釧網本線が2時間遅れたおかげで1本遅らせるはめになった。
余裕を持ってスケジュールを組んで正解であった。
本日中に新得まで行かねばならない。

 繰り返し放送する車掌の案内は丁寧であった。
ぐんぐん加速して釧路市外に出る。すぐに車内改札があった。
次の白糠まで15分。手早く済ませてしまう気らしい。
切符を見せると、「ありがとうございます。新得到着20時40分です。」
あっけなかった。というか、経由地を確認していない。
せっかく特急の専務車掌は白服で凛々しいのに、少々残念だ。
こんな切符を見せるほうが悪いのかもしれないのだが・・・。

 白糠を出ると変わった放送がある。
「これから先、線路上を横断する動物、特にエゾシカがございます。
やむを得ず急ブレーキを使用することがございますので、
お席を立たれる際には十分ご注意ください。」
よっぽど動物との接触事故が絶えないらしい。

 音別を通過すると太平洋が望めるはずだった。
本来乗る予定だった<スーパーおおぞら10号>なら、
17時前の通過になるので、ちょうど夕日が見られる頃だ。
大雨が多少恨めしくもなる。

 池田に停車したあと、帯広到着20時14分。
行き違いの列車が遅れていて、4分遅れている。
できれば帯広で名物の“豚丼”を食べたかったのだが、雨で夢と消える。

 帯広を出れば高架橋で市街地を抜ける。
気のせいか、帯広よりも釧路からのほうが利用が多いように感じる。
30分で新得に着く。単線とはいえ規格の高い線路を勢いよく走る。
ここで降りる。下車客はぼくだけだった。
夜の21時前ということもあって、駅前は閑散としている。
その駅前の小さな旅館に入って荷を解いた。
大雨のせいで疲れた体に、柔らかな布団が心地よかった。




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2.北見峠と常紋峠

  湿原と原野の根室半島

4.狩勝峠

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最長片道切符の旅・2日目
3.雨の釧路湿原
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