8月16日

 北海道の風は心地よい。
が、丘といっても坂は坂。
広大な丘に登る坂は長くてしんどい。
ケンとメリーの木、セブンスターの木まで往復15km。
観光名所は目的地にするだけで、
本当はその途中の風景を楽しむことのほうがぼくは好きだ。
原動機は自分の足なので、顔がゆがんでしまう。
オートバイにも追い抜かれる。悔しいけど、
すがすがしさならこっちも負けちゃいないなと丘の上で思った。
自分の小ささを実感する丘の上で、深呼吸する。

 坂を下る途中で親から電話が入る。
十勝地方で地震があったらしい。
8時20分頃というと、ちょうど自転車を借りる頃。
まったく感知せず。
十勝地方は朝6時に脱出しているから、まったく関係なし。
我ながら悪運は強いらしい。
昨日も何だかんだで、
バス代行輸送とならずに釧路湿原を楽しめた。

 美瑛駅に戻ってくる。
商店のおばちゃんは笑って迎えてくれた。
「1時間で行ってこようとするからよ〜。」と言う。
ごもっともだが、“北海道で自転車をこぐ”
というのをやってみたかったのだ。
実際は1時間10分かかってしまい、
300円におまけしてもらった。

 1番線にすでに列車は停まっていた。
9時27分発の旭川行きである。
観光客と思しき人は1人もいない。
冷房付の車両であるため、車内保温の必要があるらしい。
ドアが1つしか開いていないのは、
先述の富良野駅と同様である。

 美瑛から旭川までのどかな風景の中を走る。
駅というよりは停留所と言ったほうが
正しいような小さな駅ばかり。
1両のワンマンカーは乗客がどんどん増えて満杯になりそうだ。
前回富良野線を訪れた時もそうであった。
そんな状況下で景色も楽しむ余裕もないまま、
旭川に到着。
向かいのホームには、
富良野行のトロッコ列車が停まっていた。
そそくさと改札へ向かう。

 1日目で入れられそうになった途中下車印を押してもらう。
うまいラーメン屋がいいのかなと思いつつ、駅の中で済ます。
1番線に停車中の特急<スーパーホワイトアロー12号>に乗る。
車内販売がないこと、
札幌から先は新千歳空港まで快速エアポートとして運転することが
くりかえし放送されている。

 乗客の面々を見る限りでは観光客はいない。
純然たるビジネス特急のようで、区間利用者も多いらしい。
しかし、家族連れの座席の使い方はどうであろうか。
向かい合わせにして子供2人が占領していたりとやりたい放題。
他の乗客に気を遣う姿勢というものを、親が見せるべきである。

 11時ちょうどに発車する。
電車特急は鋭い加速で走り出す。
石狩川を渡るとカムイコタンをトンネルで貫き、
17分で深川に到着。
さらに15分ほど走って滝川。
停車駅を絞ることもなく、こまめに停まるわりには随分俊足だ。

 滝川から先は石狩平野に入る。
水田がどこまでも続く。元は泥炭地であったこの土地を、
屯田兵が開拓して耕地にしたのである。
平野の山沿いには炭田があった。
11時56分、岩見沢に着く。

 石炭の集散地として栄えた中継地点・岩見沢。
砂川から伸びていた支線も石炭輸送が目的であった。
6番目の路線・函館本線を降りてこれからたどるのは
石炭輸送で栄えた7番目の路線・室蘭本線である。
広い構内は滝川も同じであったが、
使われていない線路が残る。
石炭の貨物列車用だったことは容易にわかる。

 12時47分、滝川方から2両編成の
ディーゼルカーがやってきた。
乗り込むとほどなくして発車案内放送が流れる。
冷房が付いていない車両なので、もちろん窓を全開にする。
走り出した普通列車に、特急列車にはない心地よさを感じる。

 栗丘駅からもう1つ線路が現れた。
“室蘭本線”と名が付いているだけに、かつては複線だったのだ。
その証拠に、細い線路のローカル線と違って、
大型蒸気機関車でも通れるような立派な線路である。

 その錆付いた線路が栗山から輝くようになった。
ここからは複線のようである。
しかし、夕張川を渡った由仁からは再び単線となった。
線路跡らしき空き地がずっと続いている。
そのまま追分に到着した。

 いまは石勝線との交差点であるが、
石勝線の開業前は夕張線の分岐駅であった。
“炭都”と呼ばれた夕張からの石炭と、
石狩炭田からの石炭が集まる場所であり、
追分機関区もあったほどである。
機関庫が消失したあとに石勝線が開業し、
石炭列車が待機していたであろう線路は
特急列車の通過線になっている。

 蒸気機関車が屯していた鉄道の街をあとにして、
勇払原野に入る。
道南の工業都市・苫小牧と積出港の室蘭へ線路は延びている。
14時11分、沼ノ端着。
室蘭本線と千歳線の分岐駅である。
3分接続で8つ目の路線・千歳線の普通列車に乗る。
定刻で動いてさえいれば、意外にあっさりと乗り換えられるものだ。

 いま走ってきた室蘭本線と分かれて北上する。
原野を走っていても人家はない。畑はたまに見える。
植苗、美々と、こんなところに駅があるのかという場所に停車する。
広い北海道、いろんな駅があるものだ。
14時27分、南千歳着。

 外側に函館本線と石勝線、
内側に札幌・新千歳空港方面の快速エアポートが発着する。
14時39分発の快速エアポート122号に乗る。
6両編成のうち、4両目が指定席のuシートになっている。
快速と呼ぶにふさわしい速さで走りぬけ、
千歳、恵庭、北広島、新札幌と停まるうちに満杯になる。

 南千歳から30分ほどで札幌到着のアナウンスが流れる。
白石で函館本線と合流し、これが9つ目の路線といいたいが、
2度目ということで、まだ8つ目である。
そして札幌に到着。
到着した2番線から4番線に移る。

 15時28分発の快速ニセコライナー・長万部行に乗る。
発車まで15分あるので、途中下車印をもらいに行く。
岩見沢以来、もらっていないのである。
もどって席に着くと、大量に人が乗ってきた。
2両編成のディーゼルカーなどすぐにいっぱいになってしまう。

 定刻に発車すると、順調に加速して市街地を抜ける。
桑園で学園都市線と分かれてから琴似に停車。
降りる人なし。
乗る人だけであった。
さらに10分ほどで手稲へ。
隣接する札幌運転所では特急列車が休んでいる。
寝台特急<北斗星>の姿もある。
宮城県で発生した地震の影響で運休が決まっていると
南千歳駅で案内があった。
宮城に達するのは数日後になるが、この旅もどうなるのか・・・。

 手稲で乗客の半分が降りてから軽やかに走る。
ほしみ、銭函を通過して石狩湾に出る。
久しぶりに見る日本海ブルーである。カモメがたくさん飛んでいる。
警笛を鳴らしてもピクリともしない様子。
鉄道というものが安全なものだとわかっているようにも見える。
砕け散る波は飛沫を上げて荒々しいが、遠くは穏やかに見える。
線路まで波をかぶっている様子はない。

 小樽の市街地が見えてきて、
海水浴をしている砂浜を過ぎれば小樽築港に停車。
さらに、南小樽に停車して高架橋に上がると小樽である。
18分停車の間に途中下車印をもらう。
後続の快速エアポートを待つようだ。

 改札にいた見習いの駅員どのは
やはり経由地を確認しないまま下車印を押す。
面倒な切符でも、向き合ってくれないのはやはり悲しくもある。
アサヒビールの経営する喫茶店に
“ビールまんじゅう”なるものを見つけたので、
買おうか迷ったが、やめた。

 快速エアポートが到着すると、20人くらいが乗り換えてきた。
“普通列車”に表札を変えて発車する。
市街地を山肌に沿って抜ける。
蘭島、余市、然別と停車してだんだん車内は閑散としてくる。
この函館本線は、函館〜札幌間の都市間輸送が室蘭本線に
重きを置くようになってからというもの、寂れてしまった感がある。
走っている列車はすべてローカル列車。
沿線人口の少なさゆえに急行列車も廃止され、
シーズンに観光列車がニセコまで走るのみである。

 人家もないようなあぜ道を走り、倶知安に到着。
“蝦夷富士”と呼ばれる羊蹄山が見えている。
町の中にいても圧倒されてしまいそうだ。30分停車するらしい。
途中下車印をもらい、散歩もかねて駅横にあるスーパーへ。
とりあえず土地のものを手に入れるにはスーパーが手っ取り早い。
こういった長時間停車はありがたいなと思う。
が、倶知安は山の中ゆえに、あまり海の幸はなかった。

 30分停車は対向列車の行き違いと、
高校生の帰宅時間に合わせるための時間調整もあったらしい。
戻ってくると帰宅途中の高校生でいっぱいになった。
ホームにある倶知安そばの店はシャッターが下りたままだ。
都会の路線並みににぎやかな列車となって、18時ちょうどに発車。

 羊蹄山の北をぐるりと回りながら走る。
美しい山である。冬や春先には雪化粧、夏はきれいに緑色。
沢の部分は茶色になっているのがよくわかる。
18時08分、比羅夫に到着。
ここで下車する。降りたのはぼくだけだった。

 今日の宿は駅から数歩のところにある。
というか、駅舎そのものが民宿になっている“駅の宿ひらふ”
早速ホームでバーベキューが行なわれていた。
荷物を下ろして部屋に案内される。
コテージが2棟あるが、駅舎に泊まるなら相部屋となる。
迷わず相部屋へ。
ライダーハウスのようだ。

 先に風呂に入ると、丸太風呂だった。
初めてだったが気持ちのいい風呂。
風呂上がりにホームで夜空を眺められるなど、
そう経験できるものではない。
旭川で買った駅弁“海鮮いか壷”を開けると、ネコが寄ってきた。
この駅に住みついている“しま太郎”である。
膝の上で寝るのが好きらしく、誰にでも寄ってくる。
ホームの上で寝そべるしま太郎に、黒ネコが近づいてきた。
メスらしい。
そのままついていってしまった。
ありゃりゃ・・・。

 相部屋に戻ると、青春18切符で大阪から来たという高校生と
100名山を制覇せんと羊蹄山に登りに来たおじさんがいた。
今晩限りの出会いと、焼酎をいただく。
静かな夜。今日も布団が心地よかった。



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4.狩勝峠

6.噴火湾と駒ケ岳

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最長片道切符の旅・3日目
5.美瑛の丘
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