特急<つがる16号>で到着した八戸駅。
新幹線の駅としては最北。乗換え客に紛れて新幹線ホームに向かう。
青森の人たちは、新幹線によって東京・仙台へと流れていることがわかる。
八戸の手前では、さらに北へ延びる東北新幹線の真新しい高架橋もあり、
新青森、函館まで開業する日もそう遠くはないのだろうかと思う。

 乗換え改札口を抜けて、11番線に降りる。
最長片道切符は自動改札に対応しない乗車券ゆえに、
都会の駅の改札口、混みやすい新幹線の改札口では難儀してしまう。
これからさき、こういう機会が増えるのだろうなと気持ちを準備しておく。

 12時54分発の東京行<はやて16号>に乗り込む。
東北新幹線・はやて用に青森のりんごをあしらったロゴが印象的。
先頭部は高速列車らしい肩のでっぱりが特徴的だ。
“全車指定席の10両編成、盛岡駅で秋田からの<こまち>を連結”
と、案内されている。帰省からのUターン客を吸い込んで定刻に発車する。

 停車駅は、いわて沼宮内、二戸、盛岡、仙台、大宮と停車駅が少ない。
東海道・山陽新幹線のように大都市間を結ぶのと違って、
東京への一極集中という形をとっているのが特徴的である。
走り出すと軽やか、スピードが出ても揺れないのはさすがに新幹線。
ただし、ひたすらトンネルなのはよくない。
本来なら東北本線を行くべきだが、第3セクターに分断されてしまい、
最長片道切符のルート上に、やむを得ず新幹線があるのだ。

 9分ほどでいわて沼宮内に着く。
ほたて弁当の蓋を開ける。炊き込みご飯のうえにホタテが10粒。
それに錦糸玉子と漬物、煮物とりんごにさくらんぼである。
どこか荒々しさばかりが目立つ北海道の駅弁と違って素朴だった。

 駅弁を食べる間じゅうずっとトンネルであった。
速くて時間がかからず、便利で乗り心地がいいのは確かにすばらしい。
人間の本能のままに追求されてきた結果である。
だがそれが、これまでのものと同じ魅力をくれるかというとそうではない。
車窓がつまらない。実は失われているものも多いのだ。
この車内では窓側も通路側も同じだろうと思う。

 ローカル線を日本の原風景にたとえるのなら、
新幹線はまさに現代の日本人を具現化したようなものである。
はたしてそのようなものばかりに頼っていていいのかと思ってしまう。
ちょっと乗っただけでこのように感じてしまうのは、
最長片道切符そのものが“新幹線”というものと対極にあるからだろう。
はっきり言って、ローカル線三昧だからである。
新幹線は速すぎる。速すぎるし、乗り心地も利便性もよすぎるのだ。
と、考えているうちに盛岡到着の案内放送が流れる。
13番目の路線・東北新幹線の旅は終わった。

 13時33分、盛岡着。
後ろのほうで、秋田新幹線<こまち>の連結作業が始まっていた。
盛岡で下車する乗客はぽつぽつといたが、
乗換え口に向かったのはぼくだけだった。
4番線に降りると、2両編成のディーゼルカーが停まっていた。
13時46分発の快速<リアス>宮古行である。

 昭和は遠くなったと思っていた。
だが、この列車に使用されているのは現役最古参の車両である。
塗装が所々はがれて、しかも車内に冷房はなし。
1世代前ではなく、2世代前の古色蒼然たるディーゼルカーで、
岩手の山中に分け入ることになる。
定刻にベルが鳴り、ブルルンという身震いとともに動き出す。
半自動ドアの車内、非冷房、東北訛のズーズー弁。

 北海道が寒かったのに対し、東北は涼しい。
心地よい風が窓から入ってくる。
市街地を走って、マンションに囲まれた小さなたたずまいの上盛岡。
さらに狭いホームの山岸に停まると市街地を離れて
山里に分け入っていく。

 14時01分、上米内に着く。
ここまでは盛岡からの区間利用者もいるらしく、
それは時刻表上でもわかる。心なしか線路が細くなったような気もする。
エンジンを唸らせて、右へ左へ山襞に沿ってカーブをくりかえし、
川も線路と複雑に絡み合いながら蛇行している。

 大志田、浅岸と、一軒くらいしか民家の見当たらない駅を通過して
いよいよ山は深くなる。長いトンネルを2つ抜けて、
エンジンにこもりがなくなると区界駅を通過。
その名の通り、ここが境界らしく、一転して下りとなる。
渓流のように狭かった川幅が松草、平津戸と通過するうちに
少しずつ広くなる。

 川を眺めながら走っているのだが、どうにも道路が邪魔である。
護岸コンクリートとガードレールのおかげで景色が台無しだ。
鉄道は景色に溶け込むから、道路側から見れば景色を崩さずに済む。
これでは不公平ではないか。
しかも鉄道だと肝心なところでトンネルに入ったりもする。

 渡らずの橋があった。
左にカーブしながら右岸から左岸へ渡らず、ただ川面を跨いだだけ。
トンボも頭に当たった。びっくりしてしまう。
床の上でひっくり返って起き上がれない様子だったので、
戻してから窓の外へ返してやった。
車内にいながらにしてできる田舎探訪だ。

 陸中川井に着いてから15分で茂市に着く。
切符を集めるためにホームに降りた車掌に、
最長片道切符を見せてから途中下車する。
ここから乗りたい路線がある。
岩手の山奥、秘境と呼ばれた岩泉線である。



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 秘境・岩泉線

7.津軽海峡を越えて

9.陸中海岸

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最長片道切符の旅・5日目
8.古色蒼然たるディーゼルカー
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