村上駅で途中下車印をもらう。
経由地を確認している様子はない。
別にVIP待遇を望んでいるわけではないが、
この駅員と車掌の差は何なのだろうかと思う。
駅員は改札の流れを詰まらせないようにしなくてはならないからか?

 集札に没頭する駅員を尻目に、新潟行の普通列車に乗る。
この旅を稚内からはじめて最初の直流電車だった。
だいぶ南下しているのがわかる。

 12時22分に村上をあとにすると、今度は新潟の穀倉地帯を走る。
コシヒカリであろうか。今日だけでもあきたこまち、ササニシキ、
コシヒカリ。米が食べたくなる。
窓を開けたいが、如何せん冷房が効いている。
全開というわけにはいかないが、吹き込んでくる風は心地よい。
エアコンからの風と違って、さわやかな気分にしてくれるから好きだ。

 12時36分、坂町駅に着く。
ホームでは大勢乗客が待っていたが、ここで下車する。
村上までが新潟の都市圏であるらしい。
改札では駅員どのが“坂町”の文字を経由地に確認してくれた。
やはりよくわからない。
結局のところ、駅員といえど十人十色ということか。

 駅の外に出ると、コンビニは休業中の張り紙があった。
遠くの信号に見えたローソンに行こうか迷ったが、ホームに戻る。
先程の駅員どのが、「米坂線の列車なら、もう多分乗れますよ」
という。降りたときに見るとドアが閉まっているように見えたが・・・。

 4番線に行くと、列車は半自動ドアであることに気付いた。
まだ誰も乗っていない。しかも前の車両は冷房が入っていて、
後ろは非冷房。迷わず後ろの車両に乗る。なぜなら、
非冷房のほうが混雑しないし、窓を開けるのに遠慮せずにすむ。

 ついでに、今朝乾かすことができなかった洗濯物を干す。
さすがに特急列車では無理だが、普通列車なら普段着でも大丈夫。
Tシャツは網棚にぶら下げ、靴下はホームのロープ、パンツは・・・
タオルに見えるようにハンガーに引っ掛ける。
「外国ならよくある光景だよ!」みたいな表情で発車を待つ。
恥ずかしさなど通り越して、旅をしている気分が高揚する。
乾かなくては着るものがないのだ!
裸でいたり、シャツが臭いほうがよっぽど恥ずかしい!
と開き直る。

 13時33分の発車まで40分ある。
十分に乾くだろう。ホームに到着した特急列車の乗客が
「何を乾しているのか?」という表情でこちらを見ている。
「靴下だよ。」とは言わずに、手を振る。
ぼくの人生で、この先会うようなことなんてあるはずがない人たち。
一期一会だ。
人目なんて気にせず、彼らの記憶に鮮烈な印象を残して
ぼくは旅を続ける。
だが、正直なところ、この旅に連れ添う人がいなくてよかったと思う。
そんな人がいたらかわいそうだ。

 隣のボックスにきれいなおねーさんが座った。
ぼくが旅人っぽいのに気付いていたかもしれないが、
パンツを干していることには気付かなかったらしい。
さすがにそれは不味いかもしれないと思って、パンツだけはしまう。
あからさまに不愉快な顔をされてしまいそうだから・・・。

 発車時刻になる。
いよいよかと思って席に戻るとドアが閉まった。
が、気付いた時には遅かった。
靴下をホームのロープに干したままである。
もってきた4足のうち、2足と今生の別れ。。。
あぁあぁ〜!というぼくの心の叫びは、
無情にもディーゼルエンジンの音にかき消されてしまった。

 靴下と別れた列車は19番目の路線・米坂線をたどる。
水田地帯を抜けて左手にダムが現れる。
少しずつ出羽山地へと分け入っていくようだ。
この風の心地よさならシャツも乾きそうである。
「なんか、セッケンの匂いがしたよね?」という女子高生がいた。
「それはTシャツだよ!」と言いたいくらいだ。
意外と気付かないものだろうか。

 2駅目に越後下関という駅があった。
日本の鉄道の特徴といえば、
旧国名が付いている駅が多いことにある。
駅名に地名が付くのは普通だが、路線の開通時期が異なるために
後に開業したほうには旧国名が付くようになっている。
おかげで自分が旅をしている実感が持てる。
旧国名の響きというのは旅愁をかきたててくれる。
ありがたいことだ。

 越後下関を過ぎて越後片貝を出ると、いよいよ山は深くなる。
ダムのような荒川が山襞に沿ってずっと伸びている。
線路はその上を鉄橋で何度もまたぐ。
新潟と山形の県境の駅・越後金丸で
最後の高校生が降りていってもそれは続いた。

 トンネルでサミットを越え、国道と絡むようになる。
オートバイツーリングをしている夫婦が国道から手を振ってくれた。
窓を開けていたぼくは返事をする。
米沢行普通列車は軽快に下って14時15分、小国駅に着いた。
6分停車。ゆったりとした時間が山間の駅に流れていた。



12.いなほは揺れて

14.豪雨の山形

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最長片道切符の旅・7日目
13.米坂線の洗濯物
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