南小谷からも姫川が寄り添う。
ゆっくりと川岸をたどり、千国、信濃大池、信濃森上に停まる。
この辺りから前方に北アルプスが見え始める。
うっすらと雲がかかっており、その高さを象徴するかのようだ。

 12時25分、白馬に到着。
乗客の半分が入れ替わる。ハイカーは皆降りてしまった。
その代わりに地元の人たちが大勢乗ってきた。

 白馬からは右手に青木湖が見えてきた。
湖面に山影が映る静かな湖である。
簗場、海ノ口も湖のほとりの駅であった。
これら仁科三湖と別れて信濃大町駅着。7分停車する。
その間に白馬行の特急<スーパーあずさ>と
南小谷行普通列車を待ち合わせる。

 信濃大町以南は元々私鉄が開業させた区間である。
国鉄に買収されたのち、大町〜糸魚川間を結ぶ路線として
開通させ、その名を大糸線としたのである。
いくつか小さな駅に停車しながら、有明に停まる。
ここでワンマン運転は終了で、車掌が乗務してくる。
ぼくが陣取っていた車掌室横のスペースも運賃箱が引き出され、
追い出されてしまう。車掌どのは冷淡な表情をしていた。
そんなところに陣取っていたほうが悪いので仕方あるまい。

 有明から穂高や豊科といった駅に停車し、乗客をかき集める。
私鉄として開業している区間は、線路規格が国鉄のものよりも
はるかに低い。国鉄では見たこともないような急カーブが
連続したり、駅間距離も非常に短く、10kmほどで8駅。
まさに牛歩であった。

 3分遅れて終点・松本駅に到着。
駅の改築工事中であった。元々狭いホームであったから
たまったものではない。人の流れも悪いし、ホームには
交通整理用の係員がいたりと大変である。
3分遅れたせいで乗換え時間が10分をきってしまった。
途中下車印をもらって早々に5番線に下りる。



 松本駅は改築中でホームの案内もわかりにくかった。
列ができてない場所に並ぶと、
係員に、そこはだめだという合図をされる。
狭いホームが本当に狭くなっているのだ。
14時26分発の長野行普通電車に乗り込む。

 あわただしく発車した電車は、大糸線が市街地のほうへ
と進むのに対し、市街地の尽きる山のほうへと進む。
明科、西条と停まるうちに車内は空いてくる。
しかし、車端部のロングシートにいたぼくは、横に座られてしまう。
これでは大事な場面で窓が開けられないではない。
もしかして、と危惧していたのだが、やはり居眠りをはじめ、
そのまま終点まで起きることはなかった。

 車内改札があった。
若い車掌どのは最長片道切符を見るや否や、
「うわぁ!すげぇ!」と声をあげた。
「感激しました。ご利用ありがとうございます。」
といって車掌室へと消えた。
おそらく鉄道が好きな人なんだろうなと思う。

 聖高原を過ぎ、視界が一気に開けて姨捨駅に着く。
右手に千曲川を擁する善光寺平を望む“日本三大車窓”の駅。
この雄大な風景こそ日本三大車窓。
根室本線・旧狩勝峠、肥薩線・矢岳越え、
そしてこの34番目の路線・篠ノ井線の信州・姨捨駅である。
黒姫山を除く戸隠(高妻)、妙高、飯綱、斑尾山の北信五山を望む。
はるか彼方に、今朝通ってきた妙高山が見えるのだ。
これからそこに下りようというのだから、わくわくしないはずがない。

 せっかく晴れているからせめて10分だけでも窓を開けたい。
でも起こすのは気の毒だ。それでもせっかくの雄大な風景だ。
声をかける。反応もなく、起きる様子もまるでない。
よく見たらヘッドホンをしている。自分の中でこんなにも葛藤が
あるというのに、風景に背を向けて熟睡している。
あきれ果てた。ヘッドホンをしているなら遠慮は要らない。
窓を開ける。善光寺平の風が吹き込んできた。
それでも起きる気配はない。
地元の人という感じではなさそうだが・・・。
この人はどんなことで感動するのかと思う。
ぼくが旅人とわかって話しかけてくれる人もいれば、
こんな人もいるのだ。
乗客といえども、車内は十人十色なのである。

 その姨捨駅で、特急列車との行き違いのため、
5分停車すると放送があった。対人運は恵まれていなくとも、
ここぞというときの悪運は強いような気がする。
しめた!とばかりにホームに出る。
拘束されたあとはいくらでも行動的になる。
先程の車掌に発車時刻を確認してから、反対側のホームへ。
「特急通過後に戻ってきていただいても大丈夫です。」
とまで言ってもらう。ありがたい。

 15時09分、ドアが閉まる。
三大車窓だけでなく、スイッチバックの駅としても知られる姨捨駅。
バックしながら本線を横切って折り返し線に入り、発車する。
今朝の信越本線・二本木駅と同じである。
車窓のすばらしさを見せてくれた善光寺平へ向けて、
その盆地の淵をぐるりと回りながら下りていく。
姨捨を通過する特急では味わうことなどできない、
鈍行列車の味である。

 善光寺平に下りると稲荷山を過ぎ、まもなく篠ノ井に着く。
長野新幹線開業前は信越本線だった、第3セクターしなの鉄道と
合流する。ここからは4度目の信越本線である。
が、川中島、安茂里と停車し、あっけなく信越本線最後の旅は
終わって終点長野に到着。



28.フォッサマグナ

30.碓氷峠

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最長片道切符の旅・11日目
29.姨捨駅
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