今日2度目の長野駅。
昨日の新潟駅といい、長岡駅といい、駅員に変な目で
見られやしないか心配だ。しかし最長片道切符など
持っている時点で十分変だということに気付く。
途中下車印をもらおうとすると
「おぉーすごい切符ですね。どこに押してもいいんですか?」
と言われた。“長の”という下車印。
どうして“の”だけひらがななのかと訊くと
「さぁどうしてでしょう。わかりやすくしたんじゃないでしょうか?」
と返ってきた。たしかに上の考えてることなんて、
現場ではわからないことのほうが多い。

 新幹線改札を抜ける。
自由席特急券を渡し、乗車券を見せると
「うわぁ〜なんですかこりゃあ!私は確認できませんよ!」
と、業務放棄されてしまう。困らせてしまったと思って、
“長野・長野新幹線・高崎”の文字を見せて改札を通してもらう。
一応、確認する意志はあったらしい。
なら、悪いのはわかりにくい切符を持っているぼくのほうだ。
丁寧な対応をしてくれる駅員を辟易させたくはない。
申し訳ないし、肩身が狭いなと思う。

 長野からは35番目の路線・長野新幹線に乗る。
16時10分発<あさま562号>東京行は11番線に停車中だった。
一見、東北新幹線<はやて>と同じ車両に見えるが、
山岳新幹線用に特殊なブレーキを装備しているらしい。

 県都・長野を発車すると、市街地を貫いて犀川を渡る。
善光寺平とはすぐに別れてトンネルを抜け、上田に着く。
さらにまたトンネルで台地を貫いて、佐久平へ。
速い。信州の景色など楽しむ余裕がない。
あっけなく過ぎ去る風景をもったいなく思う。

 佐久平から10分で別荘地・軽井沢に着く。
どの駅からもけっこう乗車があるものだ。信州一帯は
高原リゾートゆえ、新幹線開業はよほど効果があったものと見える。
外は霧になった。新幹線は踏切もなく安全だが、
風景を見るに、霧というよりも雲の中にいるような感じである。

 家族連れが席を探しながら一番前まで来た。
すると、中学生の子供がぼくの隣の席にいた人のビールを
こぼしてしまう。それに気付きながらも謝ろうとしない。
おい!とか思ったが、床にこぼれる前にティッシュを差し出す。
人に謝ることすらできぬとは、親の躾がなってない。
母親は気付かぬ様子、当の子供は知らん顔で着席している。
非常に腹が立った。

 軽井沢を出ると下りに入る。
日本の鉄道史において、最難関として道を険しくし、
100年の歴史が刻まれてきた碓氷峠である。
信州の高原地域と関東平野の境界にあたり、
中山道の時代からの難所として健在なのだ。
信越本線としてつながっていた頃は軽井沢と麓の横川の間は
“横軽”と呼ばれて66.6‰(1000m進む間に66.6m登る)の
最急勾配が存在した。そこに専用の後押し機関車2両を連結して
上ったり下ったりを重ねてきた峠である。
新幹線とて例外ではなく、異例の33‰の急勾配が連続している。
山岳専用の車両でしかここは通過できない。

 その碓氷峠を新幹線はブレーキを利かせて下りていく。
先頭車両に乗っているが、一気に下っているのがよくわかる。
スピードを抑えているのも十分伝わってくる。
しかし、どこかあっさりしている気もする。
高速で走る新幹線の車窓は映画を早送りするような感じだ。
尾根に沿って勾配を緩和し、トンネルで下る。
碓氷峠という場所の険しさ、刻まれてきた歴史の重みや
ありがたみなどが拾われることなく過ぎ去ってしまう。
何ともったいないことか。
軽井沢までの間に浅間山を見ることすら叶わなかった。
それは台地をトンネルで貫いてしまっていたためである。
浅間山の麓をめぐるには、旧信越本線こと、
第3セクターしなの鉄道に乗るしかなさそうである。

 車内販売のワゴンが来た。
なんと横川駅の駅弁“峠の釜めし”を積んでいる。
購入するべし。碓氷峠用の機関車を横川駅で連結する停車時間に
入手するのが通例であった。そういった旅情は失われたが、
駅弁が健在なのはうれしい。

 安中榛名を通過して雲の中に垣間見えた関東平野へと
下りていく。すると左からは上越新幹線が近づいてきて、
長野新幹線の上り線はそれをオーバークロスする。
先程までいた上高地、妙義山を見渡せる高い位置にある。
上越新幹線と合流したら、17時ちょうどに高崎到着。
ここで下車。35番目の路線・長野新幹線は終りである。

 乗換えついでに途中下車印ももらう。
が、わかりにくい。新幹線改札口を探しても存在しない。
改札を出て途中下車印をもらうには、在来線への乗換え口を
通らなければだめなのだ。逆もまた然り。
新幹線ホームに上がるのにも、在来線改札を抜けねばならない。
一言でいえば不便なのである。

 有人改札を抜けたあとに
「すっげぇ〜切符だったな〜。」と話す声が聞こえた。
経由地の確認をせずに特急券だけ受け取ったから、
券面を見てないのかと思ったが、内心驚いてたのか、と思った。

 高崎からは2度目の上越新幹線である。
9日目の東北新幹線・仙台〜白石蔵王〜福島間と同様に
これから乗る上越新幹線・高崎〜上毛高原〜越後湯沢間も
在来線とは別線扱いとなる。つまり最長片道切符にとっては
上毛高原駅はありがたい存在なのだ。

 12番線から発車する、<とき325号>新潟行に乗る。
高崎といえば駅弁“だるま弁当”が有名。
だが長野新幹線の車中で“峠の釜めし”を衝動買いしたので
やめておく。定刻に発車した<とき325号>は、長野新幹線を
左に分けて、北関東と日本海沿岸の境界“上越国境”を目指す。

 窓側はすべて埋まっていた。
それでも席を探すのに苦労する東海道新幹線と違って、
通路側は空いているから、程よく乗っている感じである。
ただ、新幹線で通路側に座ると車窓に目を向けるなど叶わぬこと。
ちょっとびっくりしたのは、車内販売のワゴンを押していたのが
長岡〜新潟間で乗った<とき303号>のワゴンと同一の
女性だったことである。毎日仕事として東京〜新潟間を
片道2時間とはいえ、太平洋岸と日本海岸を往復しているとは
恐ろしい話である。

 気が付けば上毛高原を通過していた。
新幹線は情緒がないなと思う。山も海もトンネルで越える。
下手をすれば市街地ですら地下に潜る。
その方が安全なのだが、移動手段としてしか成り立たない。
汽車旅12ヶ月という日々の中では、優先順位が低い。

 18時38分、越後湯沢着。昨日の朝以来になる。
コンコースは賑わいを見せており、駅弁もたくさんある。
いつもどおり途中下車印をもらう。
遠く離れた土地へきたという感覚がない。
国境を貫く大清水トンネルにも気付かなかった。
あっけない越境だった。



29.姨捨駅

31.上越国境を越えて

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最長片道切符の旅・11日目
30.碓氷峠
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