8月27日(土)

 昨夜は兄の同僚の方にお呼ばれして酒を飲んだ。
しかしである。酒は好きだが弱い。悲しい話である。
実らぬ恋ではないか。返って迷惑ではなかっただろうか。
血の出る傷にも涙の出る傷にもアルコール消毒は必要らしい。
こんなぼくに優しくしてくださって感謝だ。

 小山まで兄に車で送ってもらう。3泊もしてしまった。
2週間で北海道から寄り道してこれるといえばそうだが、
もっと楽しもうと思えばいくらでもそれは可能である。
ぼくは1日の濃度が濃ければ十分だ。のんびりしてもいいが
だらだらしたくはない。先へ進もうと思う。

 小山駅15番線に停車中の電車に乗る。
水戸線・勝田行普通電車であるが、403系電車と呼ばれる
2世代前の車両だった。九州では10年以上前に姿を消した
世代である。本当に懐かしい古さを感じるボックスシートだ。
7時33分に発車する。ガクンという衝撃も
ガタガタと振動するのも懐古という言葉に集約される。
もはや淘汰寸前の車両ゆえ、このまま廃車になるということも
考え始めると、他の言葉にはならないのだ。

 交直転換のデッドセクションを抜けると
小山市街を出て黄緑色の絨毯の上を駆ける。
台風の爪跡も所々に見られるが、被害は小さいようだ。
遠くには雲から頭を突き出した筑波山が見える。

 山々に靄がかかっているのは美しいが、雨が降ってきた。
昨日が台風一過だというのに重々しさを感じずにはいられない。
8時38分、友部駅に着く。
ここから最長片道切符のルートに戻る。
3度目の常磐線、いよいよ首都圏である。
正念場か・・・・。

 今日から2,3日は通勤電車にはいくらでも乗ることになるので
特急に乗ってみようと思う。タイミングよく10分接続で、
特急<フレッシュひたち14号>上野行に乗る。
さすがは関東。特急列車も11両編成と長い。
11両編成と14両編成とでドアの位置が違うらしいので、
11両の乗車位置案内に並ぶ。停止位置もよくわからない。
しかし、他の乗客は別の位置で列を成している。
おかしい。

 やってきた11両編成の<フレッシュひたち>は、
ぼくの位置にドアはなかった。他の人たちは心得ていた様子。
なんということか。しかし改めて確認すると、足元には
確かに“フレッシュひたち・11両・8号車自由席”の文字がある。
わけがわからない。
しかも乗ってみると超満員だった。首都圏は恐ろしい。
土曜の朝だというのにこの混雑は何なのだ?

 人より荷物の多い自分には、この混雑はきつい。
一言でいえば、たまったものではないのである。
車両そのものは悪くない。揺れが少ないし、車体の裾が
エメラルドグリーン、オレンジ、黄色、朱色など編成によって違う。
新鮮で清潔感にあふれている。
しかしいまのぼくにとっては全然フレッシュではない。
運よく着席できたとしても、途中下車できるとは思えない。

 デッキに立つ。
押しつぶされそうになる中で、何とか時刻表を開く。
すると、次の土浦で上野行普通電車を捕まえることができる。
しかも<フレッシュひたち14号>を降りる予定の柏駅では
14分しか差がない。この14分がこの先の明暗を分けるかどうか
その可能性は否定できないが、元々首都圏のダイヤなど
“ホームで待てば来る”から詳しく調べる必要がない。

 土浦着9時08分。
ここは一つ、割り切って行き当たりばったりで下車する。
柏までの自由席特急券はもったいないが、
何より旅を楽しむことを優先したい。
向かいのホームに停車中の上野行普通電車に乗る。
ボックスシートだった。
やはりこうでなくては旅はおもしろくない。
常磐線も少しは楽しめそうだ。

 超満員の<フレッシュひたち>を見送ってから
9時12分に土浦駅をあとにすると、荒川沖、ひたち野うしく、
牛久、佐貫と停車して乗客を集めていく。
民家が建て込んできているので住宅地のようだ。
マンションも目に付くようになってきた。

 次の藤代を出ると電気が消える。
デッドセクションである。日本各地にけっこうあるものだと思う。
これまでで交直転換は、羽越本線・村上、北陸本線・糸魚川、
東北本線・黒磯、水戸線・小山と4ヶ所あった。
したがって5度目である。
この先いくつあるのか、通る度に数えてみよう。

 取手では常磐緩行線の快速電車を追い抜く。
乗換駅の新松戸へ行くにはこれに乗る必要がある。
しかし、乗り換えずにこのまま乗ろうと思う。実は確信がない。
どこかでまた追い抜くかもしれないし。
不慣れな路線は常に大なり小なりの不安が付きまとう。

 取手を出ると流域面積日本最大の利根川を渡る。
筑紫次郎の筑後川、四国三郎の吉野川とともに、
坂東太郎と呼ばれながらたびたび氾濫を繰り返してきた川だ。
河川敷でゴルフをしている人たちがいた。
天王台を過ぎて電車区の横を抜けると我孫子に着く。
ここで降りることにする。

 勝手がわかっている駅ならば乗換え時間が1,2分でも
楽々と行けたりするものだが、あたふたしてしまう。
どうやら先程取手で見たものは快速電車だったらしい。
危ない危ない。行き当たりばったりは体によくない。
割り切ってしまわねば追い詰められてしまいそうだ。
焦らず行こう。

 常磐緩行線の列車は6番線に停車中だった。
発車時刻まで余裕があったので途中下車印ももらっておく。
有人改札の駅員は、“何だこりゃ?”のような顔をして、
何も訊かずに途中下車印を押してくれた。
“通勤通学の乗客に紛れて変なのが来たぞ!”とでも
言いたそうな雰囲気だった。
変な目で見られようとも、平生を装わねばならない。
まさにアウェイ、敵地のようなものである。
東京という街の冷たさを、田舎者のぼくは感じ始めた。



33.草萌ゆる水郡線

35.混迷の首都圏

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最長片道切符の旅・13日目
34.大混雑・フレッシュひたち
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