総武線で踏切事故があったらしい。
運行状況を訊くと、千葉以東で起きており最大で75分の遅れという。
千葉までの各駅停車なら定時運行中とのこと。
幸いなことに今日のぼくは、千葉以東は総武線ではなく成田線である。
安心して総武本線・各駅停車に乗り込む。
対応はいたって丁寧であった。

 12時07分発の千葉行普通列車は定刻に発車した。
41番目の路線・総武本線である。浅草橋、両国、錦糸町と停まっていく。
乗客の数に変化はない。いろいろな人が乗っているが、
元気に笑っている人が少ないように思う。
疲れた顔をしているのだ。
やはり健脚、底知れぬ元気と朗らかさでは
田舎にはかなわないのかもしれない。

 はてさて写真も撮れるような状況ではないので席を譲ることにする。
ドアの横に立ってるほうが景色も楽しめるし。しかし、
「次の船橋で降りるので・・・。」と遠慮される。各駅停車だからだろうか?
短区間の利用ばかりで、通しで乗ってる人は少ないように思う。
「どうも、お心遣いをありがとうございました。」
と言ってくれた。こんな何気ない一言にさわやかさを覚える。
お互いに心遣いが感じられる瞬間が、
昨今では減っているように思われて仕方がない。
決して譲り損などではないのである。
本来なら譲ってあたりまえなのだ。

 気が付けば西船橋も船橋も過ぎていた。
思ったよりも時間の流れが速い。
それに合わせて人の動きも速まっているのかもしれない。
そんな力を感じる。
東船橋、津田沼、西千葉に停車しながら12時57分、千葉着。
いつのまにか昼過ぎである。

 途中下車印をもらう。
「いっぱい回ってきたねぇー。福島からもか。おぉー!」
と、忙しい中、丁寧に対応してくれた。すがすがしい。
やはり人同士のやりとりは、このように行なわれるべきである。

 昼食を買ってから9番線に上がる。
総武・横須賀線の直通列車がたくさん停まっている。
よそ者には、乗ってみないとわからないことが多いなと思う。
列車はまだ到着していないと思ってお茶を飲んでいたら、
ホームを間違えていたことに気付く。
反対側を見たら電車はすでに停車中。危ないところだった。

 13時30分発の鹿島神宮行である。
車内はもういっぱいだったので立つしかなさそうだ。
成田空港行の特急<成田エクスプレス>が通過してから発車。
東千葉、津賀、四街道、物井の順に停まって少しずつ乗客を降ろす。

 13時48分、佐倉着。
ここから総武本線と分かれて42番目の路線・成田線に入る。
列車はそのまま酒々井、成田と停まり、乗客を入れ換える。
成田では大勢の高校生が乗ってくる。
発車すれば左に我孫子方面の成田線と、
右に成田空港への線路が分かれていく。
佐倉の手前からそうであったが、
住宅地を抜けて水田が広がり始めている。

 成田の次の久住駅は無人駅だった。
どうやら線路も単線になったらしい。ローカル線の雰囲気が濃くなった。
下総神崎で上りの貨物列車とすれ違ってから大戸内、佐原に停まる。
その佐原で大多数が下車し、空いているボックスが目立つようになった。
ガラガラになったおかげで随分気楽だ。
ゴトリゴトリと分岐器を渡り、また水田へと駆け出していく。

 小さな無人駅の香取に着く。
ここで一旦、最長片道切符は途中下車扱いにする。
列車はそのまま、鹿島線に入り鹿島神宮まで乗っていく。
中断といってもそのまま乗っているだけ。
鹿島神宮駅で香取〜鹿島神宮間の運賃を支払えばよい。



 利根川下流と北浦湖畔の風景を楽しんでから、香取まで戻る。




 成田線と鹿島線の分岐駅なのに無人駅である。
無人の駅舎内に20人ほどが銚子行普通電車を待っていた。
退屈そうにしているそれらの乗客を吸い込んで18時12分に香取駅を
あとにする。今日は乗換えが多くて、
実際問題何が何だかわからない気もする。
時刻表でしっかりたどれるようになったのは千葉からである。
要するに昼間は、もはや列車に任せる他なかった。
急ぐ必要はないからそれでいいのだが、
ぼく自身としては乗れればいいというものではない。
自分が乗る列車のことは知っておきたい。
あとになって、“あぁ、この列車に乗ったんだな。”と思い返せるように
できればこれ以上の足跡はないのである。
ボックスシートに座って列車に揺られていると、そんな気になる。

 水郷という名の駅に停まる。
それはこの辺りが“坂東太郎”と呼ばれている利根川が作りだした
水郷地帯だからでもある。
おそらくそんな地域は他にないのではあるまいか。
あるとしたら“筑紫次郎”と呼ばれる筑後川下流・筑後平野だろう。
あの九州きっての穀倉地帯では用水路が網の目のように
張り巡らされているのだ。

 笹川、下総橘、下総豊里と続く。
下総という国名には馴染みがないなと思う。
東京に近いほうは上総である。
上総、下総と武蔵野を結ぶから“総武”本線と呼ぶことに気付いた。
今更ながらである。房総のことについて何も知らなかった自分に
思わず苦笑してしまった。

 車内改札があった。
首都圏は改札口も自動改札だし、無人駅は少ない。
こうしたローカル色の濃いところに来ると、はっとさせられる。
若い車掌どのは目を見張って、
「うわぁ〜すごい切符だなぁ。えーっと・・・成田線・・・あった!
ありがとうございます。」と、言ってくれた。
どこか機械的な日常が錯綜する首都圏を抜けてきただけに、
その何気ない確認作業は新鮮に思えた。

 その総武本線と合流する松岸駅に、18時47分着。
ここで今日の最長片道切符の旅は終りとなる。
が、銚子に宿をとっておいたのでこのまま銚子まで乗る。
ひとまず42番目の路線・成田線は終了である。
5分後の18時52分、終点・銚子に到着。
駅から歩いて10分の旅館で荷を解く。
東京からの若者が多く、夜遅くまで花火をしたり公園で騒いだりと
にぎやかな町だ。
街中を歩いてみると美味い店は多いようで、さすがに漁師の町。
利根川の河口も近い。利根川の堤防をちょこっとだけ歩いてから
風呂に入り、手早く寝ることにした。
明朝も早い。



35.混迷の首都圏

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37.房総半島は曇り空

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最長片道切符の旅・13日目
36.水郷と坂東太郎
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