8月29日(月)

 狛江の夜は静かだった。
銚子よりも東京都内のほうが静かとは意外である。
よって5分ほど寝坊してしまう。
とは言っても、余裕を持って乗ろうとしていた小田急線の列車が
8時07分発の本厚木行から8時16分の向ヶ丘遊園行になるだけ。
なるほど都会は便利である。

 狛江の駅まで歩くのに、近道があるということは知っていたが
どれだかわからない。人の流れがそっちに向かっているのはわかる。
でも、迷ったら時間を食ってしまう。
確信が持てなければ危険なので、わかりやすいほうを選ぶ。
昨日と同じ道を歩くと、狛江駅に出た。

 新宿行の急行電車は通勤客を満載している。
これが東京という場所なのだろう。混んでても人は乗ろうとする。
外国の人から見れば、日本人というのは不思議な人種であろう。
そうまでして始業時間に間に合わせようというのだから。
ぼく自身は8時16分発の向ヶ丘遊園行に無事乗り込み、
8時20分に登戸に着いた。

 JRホームへと乗り換える。
ここからが今日の最長片道切符の旅となる。
改良工事中の登戸駅。通路も階段も妙に迂回していて
係員が立っていてもこれは混乱してしまう。
駅の時刻表を見ると8時台は16本あり、2〜3分おきに発車している。
それだけ人が多ければもうどうにもならないであろう。
日本は狭い国だというが、それは局所的なものだと思う。
東京近辺にこれだけの人がいれば、狭く感じて当たり前である。

 8時27分発の川崎行に乗る。
昨日に引き続いて南武線であるが、あれよあれよという間に
満員になる。身動きがとれない。
車窓は住宅地ばかり。自由は封じられ、
人々の観察などできる状態ではない。荷物の多い自分には地獄だ。
これでは早く目的地に着きたいと思うのも当然である。
そうやって鉄道は、楽しむものから単なる移動手段になっていく。
そんな中でできることと言えば、歯に挟まった朝食のレタスを
取り除くことぐらいだった。これはこれでしぶといのであった。

 オフィスの始業は9時か9時半だろう。
途中で降りる人もいたり、乗ってくる人もいる。そんな人々の混雑が
一段落したのは、東急東横線と接続する武蔵小杉駅だった。
1人分のスペースが空けばそこに1人入り、ドアが開くたびに
圧迫されるという状態は終わった。
通勤ラッシュと言うか、痛筋ラッシュであった。
早くローカル線でのんびりしたいと思う。
最長片道切符は本当にいろんなものを見せてくれるなと思う。

 8時57分、終点・川崎着。
何駅あっただろうか。登戸から久地、津田山、武蔵溝ノ口、武蔵新城、
武蔵中原、武蔵小杉、向河原、平間、矢向、尻手とあって計10個。
30分は結構長いものだと思った。
50番目の路線・南武線を終えて、9時03分発の京浜東北線に乗る。
東海道本線に乗ってもよかったが、15両編成の電車が超満員なので
やめた。五十歩百歩とは思うが、通勤型車両を使用している
京浜東北線のほうがまだマシだと思ったので、そっちに乗る。

 満員でも身動きがとれないほどではなかった。
少しありがたく感じる。蒲田、大森、大井町を過ぎ、12分で品川着。
どうやら9時半の始業時間に突っ込んだらしい。
おそらくこれ以上ないタイミングだと思う。とんでもない人の数である。
ただ、流れが不規則なのはコンコース中央付近のみ。
あとは一方通行なのではないかと思うくらいきれいに流れている。
昨夜の立川駅とは対照的に思われる。

 途中下車印をもらい、14番線に下りる。
大きな流れに逆流して足を踏み入れていく。
携帯電話をいじりながら歩く人もいるからぶつかりそうになる。
ものすごい勢いで走ってくる人もいる。
そしてみんな疲れた顔をしている。足取りも重そうだ。

 14番線に停車中だった普通列車に乗る。
これから乗るのは51番目の路線・横須賀線である。
ホームの電光掲示板では“9時23分・久里浜”となっているが、
列車側面の行先は“逗子”になっている。どういうことだろうか?
しかし、これで大船まで行けるのは確実なので乗り込む。

 東海道新幹線と絡み合いながら西大井に停車。
さらに、先程乗った南武線と立体交差する。最長片道切符のルートは
同じ場所を二度通ってはいけないが、線路が交差する場合は
そこに駅がなければOKである。南武線と横須賀線の交差点に
駅がないのがミソになっているのである。

 新川崎を出ると、次は横浜である。
線路と人が一気に集まる場所だ。その横浜を発車すると
「次は保土ヶ谷」と案内されて、大きなミスに気付く。
横須賀線の列車に乗っていてはダメなのである。
横浜から根岸線に乗って遠回りをしなくてはならない。
東海道本線が並行して走っていて気付くとは情けない。
やむなく保土ヶ谷で折り返す。
余裕を持って出てきて正解だった。

 横浜駅で途中下車印をもらう。
「どこに押してもいい?文句言わない?」
と言う。とんでもない話だ。こちらは旅をさせてもらっている身ゆえに
途中下車印さえもらえれば、文句などあるはずもない。
むしろ忙しい中、不満も漏らさずに下車印を押してくれる駅員どのに
感謝したいくらいである。
途中下車印をもらってから、本来乗るべきであった根岸線こと
京浜東北線のホームへ向かった。

 京浜東北線ホームに上がり、10時03分発の大船行に乗る。
京浜東北線というのは路線名ではなく愛称なのであって、
大宮ー大船間を結ぶ列車のこと。東北本線、東海道本線、根岸線を
合わせていうことをすっかり忘れていた。3度目の京浜東北線である。
そうすると、横須賀線は51番目ではなく川崎→品川の東海道本線が
51番目、横須賀線が52番目、これから乗る根岸線が53番目と
いうことになる。









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