沼津駅2番線で待つ。
長い編成の貨物列車が通過し、東海道は大動脈だなと思う。
そのあとに入ってきた13時09分発の浜松行普通電車に乗る。
今日は青春18切符らしき旅行者が少ない気がする。
もう8月も末だからだろうか。
それとも月曜日だからだろうか。

 片浜、原、東田子ノ浦、吉原と停車する。
岳南鉄道の車両も見えた。なかなか古色蒼然としている車両だ。
この東海道本線は、何度も乗ったことがある路線だから
他の路線と比べると感動はさほど大きくない。
だが、駿河まで南下してきたのだなという感慨は深い。
飛行機で飛んではいけない。列車に揺られて
南下してきたからこそ味わえる、遠くから来たありがたみである。

 13時29分、富士に着く。
ここで下車する。途中下車印をもらうと平仮名で“ふじ”であった。
なぜだろうか?富士は製紙・パルプの町である。
富士の山は絶景以外にもいろいろなものを恵んでいるものと知る。

 13時40分、2番線に3両編成の短い特急電車が入線してきた。
特急<ワイドビューふじかわ7号>甲府行である。
この列車で55番目の路線・身延線へと足を踏み入れる。
発車すると東海道本線と分かれて、複線の線路を走る。
線路改良などは施されておらず、どうも揺れる。
急曲線も連続しているので、大糸線と同じく元々私鉄のようだ。
柚木、竪堀、入山瀬、富士根、源道寺と通過する。

 10人ほどが下車した富士宮を出ると、単線になった。
山が迫ってくるのでトンネルに入るのかと思いきや、
急カーブで避けて民家と竹林の間に入っていく。
すぐそこは軒先だ。しかものろのろと走る。
こんなところを走る特急もこんなスピードで走る特急もはじめてだ。

 やがて谷に分け入っていき、左側の眺めがよくなる。
日本三大急流の一つ・富士川の織り成す谷である。
結構広いが、河岸段丘はない。つまり、河原がほとんどを占めていて
斜面も急だから道路や線路が通れるスペースはほとんどない。
西富士宮から沼久保を通過し、芝川で特急<ふじかわ8号>と
すれ違う。時速30kmほどでゆっくりと通過していった。
こんな急カーブを特急のスピードで通過しては、網棚の荷物が
落ちてしまうからだろう。ただでさえ揺れるのに・・・。

 14時28分、内船着。
下車客から車掌が乗車券と特急券を回収している。
完全にローカル特急である。通過する駅も、小さな停留所というか、
登山鉄道みたいな駅ばかりである。急勾配や峠のようなものはなく、
急流といえども川に沿って走るだけであるが、
県境は越えてしまった。
車輪の軋む音ばかりが止むことなく続き、
最高時速も60km/hを超えることはない。

 甲斐大島を通過して身延に着いた。
次の下部温泉でも同様に、下車より乗車のほうが目立った。
甲府に出れば新宿行の特急に乗り継げる。ところが富士だと
東海道新幹線に乗り継げないことを知っている様子だ。
身延が山梨県で、甲府の経済圏にあるからかもしれないが。
太平洋側のほうが不便というのも珍しい交通事情である。

 その反面、線路事情が変わることはなかった。
甲斐岩間、市川大門と10分おきに停まりながら、少しずつ谷が開けて
甲府盆地に入る。南甲府に停車すれば右側に中央本線の線路が
現れて15時29分、甲府駅に着く。
55番目の路線である身延線の旅は終りである。
この身延線用6・7番ホームは外れにあったので、
元々私鉄であったことは間違いなさそうである。

 さて途中下車印をもらう。
もう押すところもなくなってきたが、切符の料金欄に押されてしまった。
これはちょっと失礼ではないか。
あとで不都合が起きなければよいがと、思わず眉をしかめて
ホームへ戻る。押されてしまっては取り返しなどつかないし。

 最長片道切符のルートはもう一度東京へ戻る。
したがって今夜も狛江に泊めてもらうことになっている。
ありがたい。せっかくなので桔梗信玄餅の2ヶ入を買う。
210円と手頃だし、山梨に来た時はいつも買うほどに好きである。
と、時刻表上で気にしていた駅弁“元気甲斐”を見つける。
時刻表上で気になっていた駅弁である。買おうか迷う。
が、やっぱりやめておく。
多少なりとも路銀の残りが気になってきた。

 3番線で待っていると、高尾行普通電車が入ってきた。
甲府で11分停車し、新宿行の特急<あずさ24号>に道を譲る。
半分ほど座席を埋めて、16時05分に発車した。
5分で着いた酒折駅で、6分停車する。
甲府で特急に追い抜かれたばかりというのに、ここでも6分停車して
特急<かいじ116号>に道を譲るのである。
なんとのんびりしていることか。
それが鈍行列車のよさでもある。

 何事であれ、追い抜かれるのは愉快でないはずだが、
鈍行列車の客になってみると、そういった俗世間の煩悩すら
超越してしまうように思う。普通電車の放つコンプレッサーの音だけが
聞こえる山間の小駅にたたずんでいると、時が静止したようになる。
そこへ突然、特急が突っ込んできて、あわただしく走り去っていく。
そんなに急いでどこへ行く?抜かれるのもまた楽し!
という気分になる。
高尾行普通電車は、2駅連続で特急列車に追い抜かれたことなど
関知してないかのごとく、ゆっくりと本線へ踏み出した。



 

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44.甲斐路は暮れて
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最長片道切符の旅・15日目
43.富士川に沿って
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