新横浜を出て15分で小田原に着く。
あたふたしたり、乗り間違えたりした昨日とは雲泥の差である。
<のぞみ>退避のため、5分停車するという。
しめた!とばかりにホームに出ると、米原駅同様の駅弁屋が
予想通りあった。

 弁当を見ると、聞いたことのある名前がある。
アジ寿司やタイ寿司は、昔から東海道を行き交う人々に
親しまれてきた駅弁である。相模湾で獲れる海の幸である。
沼津や富士だと駿河湾の海の幸ということで、桜えびが加わる。
アジかタイで迷っていたら、もう一つ“金目鯛寿司”というのが
目に留まった。これにする。

 購入して席に戻る。
停車時間があるのなら立ち売りか、ホームに駅弁の売店がある
との放送を流してもよさそうである。
駅弁は乗る前に買うものとは限らない。
ワゴンサービスといえども“のぞみ弁当”やサンドイッチが中心。
小田原の駅弁の存在を知らない人が少ないはずはない。
停車中、窓の外を駅弁売りが立って歩いていたら、
食指が動きそうなものだが・・・。

 <のぞみ>の後を追いかけて小田原を発車すると
10分で熱海に着く。急斜面にあるため、待避線がない。
乗降客の安全ために柵が設けられ、<こだま>発着時以外は
閉鎖されている。家族連れが降りていった。

 熱海からは新丹那トンネルを抜ける。
東海道本線の丹那トンネルと並行しており、出口付近には
“新幹線”という地名がある。それが最初に開通した新幹線の
歴史を物語る。“新幹線公民館”なるものもある。

 すると愛鷹山の山麓にさしかかる。
この山は富士山型の火山だったそうだが、何千万年後かの
今日ではすっかり浸食されていて、山裾は皺だらけになっている。
<こだま>はめまぐるしく交互に現れる尾根と谷を横切って走る。
“切り通し”と高架橋が続くのだ。それらが10秒単位で交錯し、
計4分続くから、車窓を眺めていると目が回りそうになる。
新幹線の醸し出すある種の虚無感に通じるようなリズムである。

 新幹線は味気なくてつまらない、と言った。
そうだと思う。同じ意見の人は多いはずである。
乗客自身も新幹線に乗ると味気ない人たちになるから
相乗効果もある。
「新幹線なんか乗り飽きている!」
と言わんばかりに、せっかくの窓側でブラインドを下げて
週刊誌など読む人もいる。
そんな人たちは、窓の外ばかりを見たがるぼくを蔑みの目で
見るのだろうか。別に見られてもかまわない。
ぼくは今楽しんでいるのだし。
だがそのような人たちは乗る頻度が高いのである。
同じように、あるいはそれ以上に頻度が高くてもローカル線の
乗客からは感じられないことでもある。

 新幹線の車窓からの眺めは、トンネルの多いこと、
沿線人口の密度が高くて“自然”に乏しいこと、速度が速いこと、
駅をはじめとして施設が画一的であることなどなど、
悪条件が多いのでとても景色のよい線とはいえない。
しかも何かと乗る機会の多い路線だから、鮮度もすっかり
落ちているのである。

 けれども、新幹線の車窓にもよさはある。
高架橋や盛り土からの眺めがそれである。
新幹線は新しく敷設された鉄道であるために、在来線をはじめ
既成の施設と交差する場合はその上をまたぐ。
ときには地形の関係で下をくぐることもあるが、大体は上である。

 さらに、踏切全廃の英断によって田園地帯でも
高架橋や盛り土の上を走る。名古屋市内には高さ16mの
高架区間もある。ただ、騒音問題を伴うので、
眺めがいいと喜ぶだけではいけないが、新幹線の車窓には
在来線にない高所からの眺望がある。

 周りはビジネスらしき人が多い。
そんな中で駅弁のフタを開ける。“金目鯛寿司”である。
新しい東海道の楽しみを見つけた気がする。
新幹線・在来線を問わず、こうやって列車の中で
駅弁を食べるたびに
「飛行機なんかクソクラエ!」
と思う。駅弁がどれだけ汽車旅を盛り上げてくれることか。
次にここを通ったときは、<こだま>に乗って“アジ寿司”を
賞味してみよう。その次は沼津で“桜えび寿司”でも・・・。

 車内改札があった。
ベテランの方のようで、駅弁を食べながら乗車券を見せると、
「恐れ入ります。」
と一礼してくれた。恐縮である。
「おぉー。これはこれは。いやすごい切符ですな。えー新横浜・
東海道新幹線・静岡、ありました。ありがとうございました。」
と、丁寧であった。あまりに丁寧で時間がかかったため、
周りから注目されてしまった。空いているからだろう。
<のぞみ>ほど視線が多くないからいいのだけれど。

 晴れていれば富士山が姿を現す場所だが、
今日は頂が見えていない。昨日に続いて今日もである。
ただ、裾だけを見せていても異様ではある。
この旅には日本を代表する美しい山は登場しなかった。残念だ。
愛鷹山の裾をめまぐるしく走ってきた後だけに、ぐんぐんと
全容を現してくる富士山登場の演出は、新幹線ならではのもの
であるのだが・・・。
 
 熱海から10分ほどで三島に着く。
5分停車。たどる距離以上にかかる時間が長いのかもしれない。
しかし、牛歩というよりは土地の一つ一つを確実に結んでいる
という感じがする。<のぞみ>ではわからない東海道の魅力だ。
二階建新幹線が残っていれば、ぜひグリーン車の2階で
楽しみたかったと思う。食堂車で食事ももちろんである。
スピードを追い求め、時間とお金ばかりを節約する世の中に
なってからで、何が見出せるだろうか。
新幹線とて味気なさが増しているようにさえ思う。

 在来線を高架橋で越えると新富士に着く。
この交差地点は東海道新幹線のハイライトの一つであり、
今日より曇天の日でも、富士の裾が円錐状にぐるーっと
丸くなっているのがはっきりとわかる。
視点の高低差はわずか10mぐらいであろうが、
在来線の車窓からは円錐型には見えない。

 新富士を発車して富士川を渡る時にも富士山は見える。
すっきり見えているこの場所もハイライトのひとつ。
トンネルばかりが続く他の新幹線と違って、開通時期の早さから
東海道新幹線はいろいろと見所があるものである。
市街地が増えてくると、13時22分に静岡に着く。
ここで降りる。




47.浜松にて

45.セミの声の中で

最長片道切符の旅・16日目
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46.こだまの五十三次
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