9月2日(金)

 9月になってしまったので
旅の続きを小刻みにしていこうと思う。
豊橋までたどり着いて3日経ったが、
最長片道切符が途切れたわけではない。
金山発7時ちょうどの<ホームライナー豊橋2号>に乗る。
乗車整理券は自分で最後だった。

 金山を出ると車掌が乗車整理券を拝見していく。
名古屋地区のホームライナーには初めて乗るが、
整理券には列の番号しか書いておらず、席までは指定してない。
あくまで座席定員制という枠を出ないつもりらしい。
だが乗客の半分近くは整理券なしで乗ってきており、
それは先頭のほうに並んでいた人だった。
整理券を並んで買うぐらいなら早めに着席して
車掌から買ったほうがよいということか。
むちゃくちゃ自分勝手である。
席を指定してないから整理券を持っていても、
「そこは自分の席だ」と主張できない。
整理券を正しく買っておきながら理不尽な思いをする。

 大府、刈谷、安城、岡崎、蒲郡と停まり、
豊橋到着前に乗車整理券の回収があった。
車掌が一度しか回ってこなかったから、大府〜蒲郡間のみの
利用者は整理券なしでも乗れるのではないだろうか・・・・。

 豊橋に着いたので1番線に向かう。
3番線のみが名鉄で窮屈そうだ。飯田線が1・2番線で、
4番線からは東海道線。なぜ名鉄をJRが挟んでいるかというと、
飯田線が元々私鉄だったからである。
甲府駅に乗り入れていた身延線もそうであった。

 8時12分発の天竜峡行普通列車が入線してきた。
これからハイキングに行こうという人の姿が目立つ。
定刻に豊橋駅を発車すると、東海道本線とは別の複線上を走る。
一見、名鉄本線上を走っているようにも見えるが、
名鉄と飯田線が線路を共有しているだけのことである。
豊川を渡ると名鉄は左に分かれていって小坂井に停まる。
牛久保を過ぎて名鉄豊川稲荷駅の横を通ると豊川着。

 高校生は降りていく。豊川からは単線になったみたいだ。
富士から富士宮まで複線の身延線によく似ている。
建設背景が同じならその沿線も同じような人の流れに
なるということだろうか。次の三河一宮でも多く下車し、
立客はほとんどいなくなった。

 それにしてもである。
車内を見ていてハイキングに出かける人が多いのはわかる。
しかし、これから自然の風景を楽しもうという人たちが、
太陽がまぶしいからとブラインドを全部下げるのはどうかと
思ってしまう。おでかけをしているはずなのに、
早く目的地に着いて欲しいと急ぐものだろうか。

 野田城に停まったあと、新城に停まる。
駅間距離は短いらしく、3分おきに駅がある。
時速40km以下で走る区間が多い。
朝6時に起きるといつもこの9時前の時間が眠い。
鉄道で旅をするときは自然災害と事故の次に、
この睡魔が天敵となる。
長時間乗っていればなす術もなし。
結局、茶臼山までは覚えていて
意識が戻ったときには本長篠や湯谷温泉を過ぎて
三河川合であった。
都会を離れているのに人里が尽きることはない。

 池場、東栄を過ぎれば静岡県に入り、
出馬、早瀬、下川合と続く。静岡県浜松市とあった。
昨今の市町村合併により、思わぬところで
思わぬ地名に出くわすことが多くなったなと思う。

 10時03分、中部天竜着。
ここで27分停まる。乗客にとっても車掌にとっても
息抜きにはちょうどいい。
噴水代わりにがホースが立ててあって水が噴出していた。
涼しさを感じる。夏休みらしい光景だ。
この間に特急<ワイドビュー伊那路1号>飯田行が
やってきたので天竜峡行普通電車は道を譲る。
この特急に乗り継げば2時間時間短縮ができるのだが、
谷を吹く風と緑とローカル電車が
「特急になど乗るな」と言っているかのようだった。

 ドアは開きっぱなしなので車内に虻が飛び込んできた。
乗客がびっくりしたようなので車掌が夢中になって
追い出そうとしている。駅前に置いてあったオートバイにも
興味津々だったので人懐っこい性分のようだ。
車掌と乗客が一緒になって笑っているのを見ることなど、
新幹線はもちろん、特急列車でも
なかなか見られるものではない。

 途中下車印をもらっておく。
「すごいなぁ」と言われながら快く押してもらった。
構内に隣接する佐久間レールパークは休館日。
少し期待していたのだが。
待合室の座席は0系新幹線の座席だった。
一見してベンチではなく展示品にも見える。

 特急では味わえない停車時間を満喫して発車する。
左側に佐久間電力所を見て天竜川を渡る。
谷は深くて狭い。佐久間ダム完成時に水没する旧線に代わり
水窪川に沿う新線となったのは、昭和30年のこと。
旧線と分かれ、佐久間に停まると長大な峰トンネルへ入る。
佐久間ダムの湖底に沈んだ旧線には、
豊根口、天竜山室、白神などの駅があった。
いずれも駅名を見ただけで“秘境”という文字が浮かぶ。
旧線と今走る新線との間には矢岳山があり、
谷が違うのである。

 峰トンネルを抜けると相月、城西、向市場、水窪と停まり、
手前の水窪川に沿って遡上する。地図を見ると
その山の向こう側の谷がやけにきれいな直線になっている。
これが西日本を貫く中央構造線そのもの。
構造線に沿ったところに 「ケルンコル」 という部分がある。
これは断層により尾根が崩れコル状(鞍部)になった部分を指す。

 中央構造線、ケルンコルと面白い地形があるが、
ここで飯田線もこの地質ゆえの離れ業を見せる。S字橋である。
別名を“渡らずの橋”といい、これが城西を出ると現れる。
もともと、ここはトンネルで抜ける予定だったが、
掘削したトンネルが断層の強い力によるグズグズの地質のため
片っ端から崩れてしまい結局、橋で川に出て、
対岸に渡るところで思い返したように元の左岸に戻る
長大な橋で、この使えないトンネルを迂回したそうだ。

水窪を出ると大原トンネルを抜け、大嵐で旧線と合流する。

 大嵐で7分停車する。
この駅は駅の両端がトンネルにかかっており、駅の明かり区間は
100mもない気がする。地形の険しさを感じる。

 小和田駅は愛知、静岡、長野の3重の県境に位置する小さな駅。
この辺の駅は多くが無人。駅舎もないものがほとんどだ。
平岡を出ると再びダム湖が現れる。湖に沿って
短いトンネルをいくつも抜ける。天竜川のかなり上流のようだ。
トンネルと鉄橋の繰り返しである。

 湖を過ぎると渓谷のようになり、谷は深さを増す。
天竜峡らしい。峡谷も鉄橋で渡ると11時56分、終点の天竜峡駅着。
大半の乗客とともに向かい側に停車中の普通列車に乗り込む。



47.浜松にて

49.アルプスに囲まれて

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