9月10日(土)

 午前中の用事を済ませてから旅の続きをしよう。
午後になったばかりの名古屋駅12番線に向かう。
これから乗る特急<ワイドビュー南紀5号>紀伊勝浦行が入線してきた。
昨日乗った津までこれに乗り、そのまま尾鷲まで行くのである。

 せっかくのワイドビューだから、前面展望を楽しめる1号車1D席をとっておいた。
運転室後ろの最前列である。なんとも開放感があり、客室の床部分は
通路よりも一段高くなっている。窓も広くてまさに“ワイドビュー”だ。
名古屋に4年以上住んでいるが、この前の特急<しなの>の383系電車同様に
このキハ85系にもはじめて乗る。こんな話をすると皆意外な顔をするが、
乗った路線は多くとも乗った列車は少ないケース、何回も乗ってる路線だから
いろいろな列車に乗ってるケースなどさまざま。要するに偏っているのだ。

 隣の11番線から同僚の特急<ワイドビューひだ>高山行が発車していくと、
13時06分に発車ベルが鳴り、ドアが閉まる。機能とは風景の見え方がまったく
異なるので心拍数が上がっている。はじめて乗る路線のようだ。
背筋がぞくぞくしてしまう。

 八田を通過すると全速力で春田を通過する。
弥富を過ぎて木曽三川を渡る。列車前方に現れる大きな河川を鉄橋で渡るのは
気持ちのいい眺めだ。桑名を出て単線の関西本線を進む。
コンビナートへ出入りする石油輸送用タンク車の列を見ながら四日市駅へ。
こういった貨物列車を見るたびに、列車という言葉の妙を感じる。
車が列になっているから“列車”なのである。響きがいい。

 四日市駅を発車して内部川を渡ると、上下線の間に関西本線が“分岐”して
第3セクター伊勢鉄道線に入る。特急<ワイドビュー南紀>がこの路線を
経由するせいで、昨日津までを乗っておく必要が生じたのである。
が、旅は何度でもかまわないと思うので恨めしくもなんともない。

 伊勢鉄道は旧国鉄伊勢線であるが、津・松阪・伊勢方面への
バイパスルートとして開業時期が最近であるため、踏切が一つもない高速路線。
一気にフルノッチに入れて最高時速120kmで駆け抜ける。
架線もなくてすっきりした線路だが、田園風景が広がるとローカルムードが漂う。
鈴鹿、鈴鹿サーキット稲生、中瀬古などの駅を通過して、津に到着した。
昨日、亀山経由でたどったのとは時間もスピードも違いすぎる。

 津からは最長片道切符のルートに戻る。
県都だからだろうが、自由席には30人くらいが乗った。
津の市街地を抜けて阿漕駅を通過する。この辺りの海岸は阿漕浦といい、
“阿漕な人”の語源になったところでもある。

 高茶屋、六軒と通過して近鉄線をくぐると、右からか細い線路が寄り添ってくる。
名張までのつながる夢がついえた名松線である。左に近鉄線が再び現れて
市街地に入ると松阪である。弁当予約を受けていた車内販売員が
“松阪牛肉弁当”を業者から受け取っている。

 紀勢本線はローカル線にかなり近いが、レールを太くしたりしていて
高速化に近い工事が行なわれている。
ただのローカル線というわけではなさそうだ。
松阪を出て再び市街地は尽きる。

 徳和を通過すると、鉄橋を渡って多気に到着した。
運転上の分岐点であり、紀勢本線からは伊勢・鳥羽方面の参宮線が分岐する。
ホームには紀勢本線と参宮線の普通列車、名古屋行の快速<みえ>が
停まっており、にぎわっていた。

 1分停車の間に乗務員が交替する。
運転士にとっては慌しい停車時分だ。バタバタと引き継いで運転室に座ると
後ろのほうから車掌が笛を鳴らすのが聞こえた。運転士は苦笑いして
「ちょっとまってくれ〜」とでも言いたげな表情だった。

 発車して参宮線と分かれる。
こちらはぐぃーっと右へカーブするから、直進する参宮線のほうが歴史は古そうだ。
元々は参宮線は複線だったというし。志摩半島の付け根を横断しているらしく、
人家は途絶えてローカルムードが一気に高まる。

 佐奈、栃原、川添を通過しながら国道が寄り添ってくる。
紀勢本線とともに紀伊半島を回る国道42号線である。トラックが多く、
すれ違うものの中には丸太を満載しているものもある。森林資源が豊富な
紀伊半島の産物を運んでいるらしい。

 車内改札があった。
経由地をちゃんと確認していたので、伊勢鉄道経由で津までの乗車券も
一緒に見せると「了解いたしました。」と一言添えてくれた。
特急乗務のある白服はやはり凛々しい。子供たちにとっては親しみやすさよりも
憧れの対象となるものだろう。

 三瀬谷駅に14時41分着。
特急<南紀6号>名古屋行とすれ違う。
そしてぐいぐいと高度を上げながら滝原、阿曽、伊勢柏崎を通過する。
この辺りは伊勢と紀伊を分かつ峠である。伊勢神宮と熊野三社を結ぶ
“熊野古道・伊勢路”があり、ツヅラト峠として山を越えている。

 “大内山牛乳”の名が知られる大内山を過ぎると梅ヶ谷を通過。
トンネルが連続する山深き路をたどり、右手に一瞬だけ海を臨む鉄橋の上に出る。
これがもう一つの峠・荷阪峠である。南下しているのだから左手に熊野灘が
見えなければおかしいのであるが、紀伊半島の地形が険しくて入江が奥深くまで
入り込んでいるからである。そしてその急峻な地形を、線路は大きく迂回して
Ω字にカーブを描くため、深い山々の谷と美しい入江とが隣り合わせになっている。
こういった地形は紀伊半島ならではのものである。

 連続する下り急勾配をエンジンブレーキをかけながら降りていくと、
入江に発達した市街地に入って15時08分、紀伊長島着。30人くらいが下車。
熊野灘臨海公園内に位置し、“マンボウの里”と呼ばれる町である。

 紀伊長島を発車すると、海沿いを走りながら再び峠越えにかかる。
険しい地形は外の土地との流れを遮断するが、海に面していれば天然の良港に
恵まれる。その証拠にこの紀伊長島には大型船舶のドックもある。
そのドックの横を<南紀5号>は抜けて、エンジン音も高らかに坂を上る。
全体を通して平坦な区間が非常に少ないのも紀勢本線の特徴である。

 三野瀬、船津と海らしい駅名が続くと、熊野灘が見える相賀を通過して
高架線を走ると15時29分に尾鷲到着。社会や地理の教科書に度々登場する
日本最多雨地域にある都市だ。東海エリアでは最も運転抑止がかかりやすい。
40人くらいの下車客に紛れて降りる。



52.ジャンクション

54.黒潮の路 神々の里

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最長片道切符の旅・19日目
53.ワイドビュー南紀
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