尾鷲からは鈍行列車に乗り換える。
途中下車印をもらってから2番線に渡り、新宮行普通列車に乗り込む。
2両編成のディーゼルカーでのんびり行けということである。
特急<南紀84号>名古屋行の到着後に、少ない乗客を乗せて発車した。

 尾鷲の市街地を少し走ると、今度は峠ではなく海に向けて走る。
ここから先、熊野市までは71番目の路線である紀勢本線の中で
最も地形が険しく、そのほとんどをトンネルで克服しているために、
最後に開通した区間である

 大曽根浦、九鬼と停まりながら尾鷲からの買い物帰りの人たちを降ろす。
三木里、賀田と停まったあとに二木島という駅がある。この駅とその周りの
集落が好きだ。山の斜面のわずかな土地に家が建ち、海には漁船が並ぶ。
大きな幹線道路もなく、鉄道の開通を地元の人たちが心待ちにしていた
陸の孤島である。地形そのものは三陸海岸によく似ていると思う。
鉄道も同じように入江をつなぐ形で敷かれており、海に突出した半島部は
トンネルで越えている。そのため各駅間には必ず長いトンネルがあり、車窓を阻む。
駅の前後のみ視界が開けるが、そこからでも素晴らしい車窓だ。

 こういった地形の中では珍しく砂浜を持つ新鹿海岸の最寄り駅・新鹿に着く。
そこを過ぎると急斜面の途中に貼りついたようなホームの波田須駅へ。
紀勢本線はツヅラト峠、荷阪峠も含めて“熊野古道・伊勢路”に寄り添い、
波田須には“波田須の坂”、そしてその北には、伊勢の神と熊野の神が出会う場所
という由来を持つ“逢神坂峠”といった難所がある。“蟻の熊野詣”と呼ばれた
熊野古道は歴史も古く、信仰心も厚い人たちが多かった。実際に歩いてみると
わかるが、苔が至るところに生えていて人工の道なのに自然の道のようである。
昨年、吉野や高野山などの紀伊半島の霊場を含めて世界遺産に登録されて、
一躍脚光を浴びるようになった土地である。

 大泊を出ると、山々が後退して16時22分に熊野に着く。
大きな駅が1分停車。10人が降りる。熊野市から南は七里御浜と呼ばれる
海岸が続いていて素晴らしい眺めであるが、線路は残念ながら海岸から1km
離れた内陸を走る。有井、神志田と停まっていく。

 防風林が続いていてあまり車窓に変化がない。
せっかく海が見られると思ったのに残念だ。三重県最南の駅・鵜殿に着く。
ここから紀州製紙の工場へと貨物線が伸びており、1日1往復の貨物列車が
運転されている。鵜殿を出れば次は新宮で、乗換え案内の放送が流れる。

 トンネルを抜けて左へ大きくカーブを切ると、熊野川を渡る。
右手には遠く熊野の山々、左手には熊野川の河口すなわち熊野灘が見えている。
長い鉄橋を渡り終えると切り通しを抜けてホームが現れ、分岐器を渡って
新宮駅2番線に16時57分着。

 途中下車印をもらう。
「うわぁ、すごいなぁ〜。」の一言をいただいて3番線の紀伊田辺行普通列車に乗る。
新宮は和歌山と三重の県境にあたる熊野川の河口に発達した都市。
JR東海と西日本の境界駅でもあり、電化・非電化の分かれ目である。
列車が変わるだけでなく、地形、風景、人の流れも一変する。
新宮を通り越して走るのは特急<南紀>だけである。

 先ほどの鵜殿駅のそばにあった紀州製紙からの貨物列車が機関車の
入れ替え作業中だった。留置整備用の側線が何本も隣接するホームから
発車した。新宮は和歌山県南東部の中心都市でもあるから、夕方は人が
流れ出す方向にあり、普通列車はいっぱいであった。
この新宮市には熊野三社の一つ“熊野速玉大社”があり、
ここまでが“熊野古道・伊勢路”なのだろう。しかしそういった観光客は
あまり見かけず、おそらくはマイカーを使っているのだなと思う。

 満員の車内で日も暮れてきた。
せっかく熊野灘が見えているのに堪能できないとは残念だ。
今日の宿は紀伊勝浦にある。紀伊勝浦から特急で和歌山に向かおうと思っていたが
明日の一番列車で新宮に向かっても、そこから同じ列車に乗れる。
新宮から紀伊勝浦の間は風光明媚だとわかったので明朝にとっておこう。
紀伊勝浦を通り過ぎて串本まで行き、そこからもう一度普通列車で紀伊勝浦まで
夜の海を見ながら折り返した。
 民宿で風呂上りにテレビをつけると阪神対広島の試合を中継していた。
さすがに関西だと思うが、それよりも旅の宿でテレビをつけると阪神の試合に
遭遇することが多い気がする。なぜだろうか。しかも21対2で阪神が勝っている。
今日は朝から忙しかったのでさっさと寝てしまおう。
選挙関連のニュースばかりでもあるし。
投票に行けない以上、結果についてしか考えることはなさそうだ。



53.ワイドビュー南紀

55.捕鯨の町

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最長片道切符の旅・19日目
54.黒潮の路 神々の里
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