串本を出ると紀伊有田、和深などの駅を通過する。

 昨日は“熊野古道・伊勢路”が並んでいたが、この辺りは“熊野古道大辺路”である。
熊野三社を目指す古道は5つある。伊勢神宮からの“伊勢路”、
高野山からの“小辺路”、吉野からの“大峯奥駈道”、大阪から和歌山・田辺を経由して
内陸へ進む“中辺路”、海沿いを進む“大辺路”である。「紀伊山地の霊場と参詣道」
として世界遺産に登録されているから、いまだに坂が残っている。
踏切脇に看板があるところもあった。

 見老津を過ぎて周参見に着くあたりでうとうとする。
本当にこの時間はいつもいつも猛烈に眠い。はっと目を覚ましたのは、
白浜到着のオルゴールが鳴ったときであった。8時29分、白浜着。
“ようこそ南紀白浜温泉へ”とある。天王寺から特急で2時間なので、
関西のリゾート地であることは明白だ。この白浜以北は特急も1時間おきに増える。
その割には乗車は少なく、改札口に立っていた駅員も手持ち無沙汰の様子で
車掌に発車の合図を送っていた。

 白浜を出て朝来、紀伊新庄を通過すると10分で市街地の中にある紀伊田辺へ。
これまでで一番多い乗車があり、2人だった1号車も半分くらい埋まった。
車掌も1人から2人乗務になって、ローカル特急から幹線の特急らしさを取り戻す。
車内販売も乗り込んできた。

 紀伊田辺からは線路も複々線になり、一気にスピードが上がる。
イルカのような顔をしている独特の車両は、文字通り水を得たようにスイスイと
紀勢本線を駆け抜ける。これまで単線の細い線路で、思うようにスピードが
上がらなかったのとは対照的で、振子機能が生きている。

 海岸線を縫いながら海を眺める。
紀伊水道の南側なので、まだ太平洋である。しかしオーシャンアローとはよく名付けた
ものだと思う。北海道の氷雪の台地を駆ける<ホワイトアロー>とは対照的に
黒潮が流れる大海原に沿って駆け抜ける“矢”なのだ。あまりカタカナの名は
旅愁を誘わないから好きではないのだが、イメージがぴったり一致するものや
設計者の苦心や熱意が現れているものは好きである。

 朝顔の花が咲いていた南部の次は御坊で9時07分着。
ここでも多数の乗車があり、満席近くになった。駅弁も多数売られている大きな駅で、
積み込まれた“子安いなり寿司”を買う。500円と手頃な値段だった。
しかしいなり寿司は後にとっておいて、車内で食べるのは新宮駅で買った弁当。
名前はなかったが、さんま寿司とめはり寿司が入った小さなもの。
さんまかめはりか迷った挙句、どっちも入っているミニサイズを選んだのだった。
“めはり”とは高菜の葉のことで、おかかの混ぜご飯を葉でくるんであった。
はじめてあったがさっぱりしていて九州で味わってきた濃厚な高菜のイメージを
覆されてしまった。

 御坊から紀州鉄道の線路が分かれていく。
今にも草に埋もれてしまいそうな弱々しい線路だった。
御坊からは10分おきに停車駅があり、湯浅、箕島、海南と停まる。
県都・和歌山まで普通列車でも1時間の距離に入ってきたから
人の流れも活発になっている。

 そういえば、昨日の特急<南紀>もそうだったが、
こんなに余裕を持って指定席に座れたのは久しぶりな気がする。
自由席は席を移動できたりと、文字通り自由度が高いが、指定席は東日本エリアで
窮屈な思いをさせられただけに、かえって損をするのでは?と危惧していたのである。
何はともあれ、特急車両の余裕というものが味わえてほっとする。

 車内改札もあった。
最長片道切符と指定席特急券を見せる。和歌山では乗換え時間が3分しかないので
改札で途中下車印をもらえる余裕があるかわからない。和歌山車掌区のチケッターを
押してもらうと、「すごい切符ですな〜!」と快諾してもらった。
ここまでくると、「旅の思い出に」とでも言いたげな表情だ。ありがたい。
旅を続けよう。

 9時47分、和歌山着。
ここで71番目の路線・紀勢本線は終わりとなるので下車する。
ぼくと同じように降りる人が結構いたが、それを上回る人が待っていた。
新幹線への乗継らしき人もいる。
超満員で<オーシャンアロー>は発車していった。
時間はギリギリだったが、改札が目の前にあったので途中下車印をもらう。
そして大急ぎで7番線へ。
次は和歌山線だ。



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