12時08分、高田発。
すぐに東へ進路をとり、金橋に停車。奈良盆地の東の端を進んでいるようだ。
古代史で有名な飛鳥地方よりは北側である。

 奈良はJRよりも近鉄が縄を張っている。
JRに乗っていればわかるが、至る所で複線の幅が広い高架橋で上を跨ぎ、
こちらを圧倒してくるのである。名古屋で名鉄に圧倒されているように
感じなかったのは、おそらく東海道本線、中央本線が大動脈であるのに加えて
新幹線もあったからだろう。昨日の関西本線に続いて、和歌山線、桜井線ともに
単線であり、近鉄に比べれば何とも健気に走っているではないか。

 和歌山線の高田以北は和歌山線にはじめて乗ったときに王子から乗った。
あのときも思ったし、この桜井線でも思うのだが、奈良盆地のローカル線には
独特の響きを持つ駅名が多い。畝傍(うねび)、香久山(かぐやま)、
巻向(まきむく)、帯解(おびとけ)、京終(きょうばて)。よくこんなにうまく漢字を
当てはめられたものだと感心してしまう。

 右手の山々は生駒山地だろうか。
奈良には大和三山もある。畝傍山(うねびやま)、香久山(かぐやま)、
耳成山(みみなしやま)を総称して大和三山と呼ぶ。
いずれも200mに満たない低山であるが、三山の絶妙の位置関係、
それぞれの姿の美しさを古代人は畏敬し、愛し、さまざまな思いを重ね合わせた。

 この地方に来るといつも思うことだが、奈良盆地の山々は低くなだらかでも
他の土地とまったく異なる趣を持っている。古代史の世界だからだろうか。
自然の険しさ、造形の深さや美しさを感じない代わりに、古くからの営みを感じる。
小さな丘も古墳に見えてくるから不思議だ。実際そうなのかもしれない。

 桜井線の中心駅・桜井に着いても、その15分後の天理でも乗客は多くなかった。
そんなこんなで12時52分、終点・奈良駅1番線に到着。
73番目の桜井線は終わりである。ホームの端でカメラを構える駅員がいた。
運転士だろうか。あまり制服で私事をしないほうがいいように思うのだが。

 奈良駅は以前と大きく変わっていた。
旧ホームはなくなり、新たに4つのホームが設けられて配線を変更し、
新しく高架橋が出現していた。駅舎も改築中で、跨線橋には係員が配置されて
乗客の案内・誘導をしている。

 途中下車印をもらって2番線に下りる。
ここから2度目の関西本線に乗る。入線してきた13時ちょうど発の大和路快速・
大阪行に乗る。昨日とはまったく違う路線のように見える。
関西本線には3つの顔がある。1つは昨日乗った区間(名古屋〜亀山)で、
近鉄に押されながらも単線電化でがんばっている顔。2つめは大阪近郊路線
(JR難波〜天王寺〜加茂)で、今乗っている“大和路快速”が走っている。
JR難波〜天王寺間は、盲腸線のような扱いを受けがちだが、利便性は悪くない。
3つめが今日の最後(亀山〜加茂)に乗る区間である。

 奈良を発車すると、福島県の“郡山”ではなく、大和郡山の“郡山”に停まる。
ぼちぼち乗客があり、大和小泉、法隆寺と停まるうちに座席はすべて埋まる。
法隆寺の五重塔もわずかに見えた。和歌山線と接続する王子ではついに立客が
出るほどに混み始めた。王子を出ると久宝寺まで停車しない。
“○○寺”という駅名が多いのも関西本線西部の特徴である。

 深い谷を刻む川が寄り添ってきた。
おそらくは木津川であろう。だが川に寄り添って右へ左へとカーブするわけではなく
橋で一気に川を渡り、川を楽しめるのは橋を渡るときの一瞬だけである。
大都市へ向けて猛スピードで駆ける路線の悲哀を感じずにはいられない。

 さらに悲しいことに睡魔に襲われる。
この時間も眠くなることが多い。なぜだろうか?
まだ昼ごはんも食べていないのにである。うとうとしていたら東部市場前を通過する
ところであった。阪和線との連絡線が合流して、天王寺駅17番線に到着。

 天王寺駅は大阪ミナミの中心駅として機能しており、
2階にある1〜9番線は櫛型のホームで紀勢本線、関西空港線を含めた阪和線の
天王寺始発・終着列車用ホーム。11〜14番線が大阪環状線。15〜18番線が
関西本線と関空快速、紀州路快速、紀勢本線の特急、関空特急用である。

 改札で途中下車印をもらうと女性駅員は快く押してくれた。が、
「乗車券は?
という。最長片道切符を見せると
「あっ!稚内から肥前山口。失礼しました!下車印に埋もれてわからなかった・・・」
ごもっともである。もはや券面は起点も行先も字が薄れており、途中下車印ばかりが
目立っている。まるでスタンプノートのようではないか。特別補充券でなければ
発行できないような切符など、ほとんど存在しないのであろう。

 ここからは大阪環状線に乗る。



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59.大阪環状線

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