9月16日(金)

 早朝4時半の富山駅に行く。
こんな朝早くに友人を起こしてしまった上に、駅まで送ってもらった。
感謝の一言に尽きる。頭が上がらないなと思う。

 1ヶ月以上に及ぶ旅の中でさえ一期一会。今日の旅も明日の旅も
まったく違うものであり、それは日々の生活の中においても同様であろう。
自分自身の旅に意味があるのかどうかなど、今の時点ではわからない。
意味などはあとからついてくる物であろう。この最長片道切符に無効印が
押されるとき、その意味を故郷が教えてくれるはずである。
教えてくれなくとも自分で考えればよいだけのことだ。

 早朝の富山駅は富山地方鉄道方面へと人の流れがある。
立山・黒部への登山客であろうことは荷物といでたちを見れば一目瞭然。
同じよそ者でも、まったく異なる姿をしているとは興味深い。
お互い朝は早いものだ。

 早起きはやってみると気持ちいい。
なぜこれまで朝寝坊ばかりしていたのかと思うほどに損をしていた気分になる。
通りには人が少なく、優越感すら湧いてくる。

 改札を抜けるときに
「ほほぉ〜見事な切符ですね。富山・北陸本線・敦賀。はいどうぞ。」
と言ってもらった。ホームに入るときに確認してもらえることはやはりいい。
こちらもこれからどこへ行くのかわかる。お互い確認できるというわけだ。
よく考えてみたら、入場の際に確認されたのははじめてであった。

 2番線にいく。
富山の朝は寒い。が、どこか心地よさがある。雪国だからだろうか。
天を仰げば星も見えている。空気が澄んでいる証拠なのだろう。
4時50分ごろ、魚津方から6両編成の特急電車が入線してきた。
1番列車となる特急<サンダーバード2号>大阪行である。

 富山といえばここでしか見られないものが多い。
昨日の雨晴海岸から見た、海を挟んでのアルプスの光景もそうである。
他には富山湾の蜃気楼、黒部峡谷のトロッコ列車、世界一のスイッチバック
と呼ばれる立山砂防軌道、砺波平野の散村風景、五箇山の合掌集落。
食べ物ならホタルイカ、ますのすし、氷見ブリ。
北アルプスと能登半島にはさまれた富山湾が恵むものが多い。
能登半島のある石川県もそうだが、北陸は情緒豊かである。

 それにしても夜行列車にも乗らずに、
朝5時前に旅を始めるというのは自分の中でも前例がない。
このおかげで今日一日はすこぶる長いのだろうなと思う。早起きが
三文の得となり得るのは、おそらくこんな事情があってこそだろう。
4時55分、北陸の要衝・富山駅をあとにする。

 神通川を渡って呉羽、小杉、越中大門を通過するが、
どの駅のホームも蛍光灯が消えたままである。まるで夜行列車に
乗っているかのように、町も駅も眠ったままだ。10分で高岡に到着。
各車両とも4、5人が乗ってきたようだ。

 少しずつ空が白んでくる頃に石動を通過する。
倶利伽羅峠である。源平の時代、平家の軍勢と木曽義仲の軍勢が
ぶつかり合ったところであり、富山・石川の県境に当たる。峠には違いないが
かつては難所であっても、最新鋭の特急電車は難なく上っていく。

 倶利伽羅トンネルを抜けると倶利伽羅駅を通過する。
旅愁をそそる名の駅名が数多くある北陸本線の中でも群を抜いて
響きのよい駅だと思う。北陸なのに福岡という名の駅もある。

 右から単線電化の七尾線が近づいてくると、津幡を通過。
西津幡、東金沢と過ぎるうちに工事中の北陸新幹線の高架橋が現れて
金沢駅に5時31分、滑り込んだ。ここで後ろに3両、7〜9号車を連結する。
8分停車するので、“金沢”と書かれた途中下車印をもらおうかどうしようか
迷う。というのも、下車したことにすると特急券が無効になってしまうのである。
前途無効になってはいささかしこりが残るのでやめておく。

 金沢の駅弁屋はまだ開いてなかった。
さすがに5時半を回ったばかりでは無理もないだろう。駅そばのスタンドも
同様なのは言うまでもなかった。貨物列車が通過する横をゆっくりと3両編成が
近づいてきた。停車中の車両の10m手前で一旦停止。作業員が乗り込んで
連結器の角度を確認しながら貫通扉を開ける。あとはソロリソロリと近寄って
ガチャリとつながる。

 5時39分に北陸の小京都・金沢をあとにする。
市街地をぐんぐんと加速し、トップスピードになったところで平野を駆け抜ける。
太陽は昇り、空は明るくなってきた。雲は黄金色に染まる。
夕焼けだと雲は赤く染まるのに、朝焼けだと金色なのはなぜだろうか。
朝日そのものは夕日と同じオレンジ色だというのに。

 15分で小松に着く。
ここで下車する。実は小松〜加賀温泉間を普通列車にして、加賀温泉〜
敦賀間を特急<雷鳥>に乗ることにした。富山〜敦賀間の特急料金は
2100円、富山〜小松間1150円、加賀温泉〜敦賀間1150円。
200円余計に払うだけで、もう一つ別の特急列車に乗れるのである。
落ち着いた旅とは言い難いが、この際、いろいろな列車に乗ってしまおう。

 改札で途中下車印をもらう。
「うわーなんですかこりゃあ!稚内、新旭川、・・・」と、経由地を確認し始めた。
「名古屋で発行したんですか?何日かかりましたか?こんなすごい切符は
すぐには無理でしょう?」と、駅員どのは言う。
なかなか興味津々だったようで、恐縮だ。
「通行手形ですな。お気をつけて!」
と言う。まったくその通りで、それでこそ愛着が湧いてくるというもの。

 <サンダーバード2号>を降りて15分後の6時13分、
敦賀行普通列車がやってきた。直江津から糸魚川に行くときに乗った419系
という車両。元寝台特急型電車であった。1つのボックスは広々としていて
肘置きもあり、足元もゆったりしている。さすがに元特急型だと思う。

 粟津、動橋と停まり、6時26分に加賀温泉着。
朝日は完全に昇っていて、すがすがしい朝の時間である。
このために早起きをして列車に乗っているといっても過言ではない。
今日も旅をしているのだと思うと、心は晴れ晴れとしてくる。

 が、ここで重大な過ちを犯してしまう。
旅日記を普通列車の中に忘れてきてしまったのだった。




68.猪谷駅

70.憧憬の国鉄特急

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最長片道切符の旅・23日目
69.倶利伽羅峠
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