木次線の旅を堪能してから宍道に戻る。

 島根県西部での大雨の影響により、米子行の快速<アクアライナー>が
50分遅れているという。心配になって改札で三江線の運行状況を訊く。
今日のスケジュールの要となる路線だからである。
幸い遅れているとの知らせはなかった。

 10時28分発の出雲市行普通列車が6分遅れてやってきた。
上りはもちろん、下りも遅れているらしい。単線だから仕方のないことだろう。
その普通列車を見送って1番線で待っていると、ベンガラ色に二つ目玉の
ディーゼル機関車DD51形が引っ張る客車列車がやってきた。
今回の旅で最も乗りたかった第3列車・寝台特急<出雲>である。

 よく考えてみたら、これだけ列車に乗っておきながら
機関車牽引の客車列車にガタゴト揺られていない。少なくなったからという
のは確かにそうだが、もとより選んでなかったからかもしれない。

 青い客車のブルートレインに乗り込む。
やはりこのデッキの雰囲気は何度乗っても異空間の匂いがする。
これこそ“非日常への浪漫”ではないだろうか。夜ならば“夜汽車”。
こういった「汽車」の趣を残す列車もかなり少なくなった。
ピョーという独特の警笛を鳴らして発車する。

 この寝台特急<出雲>は香住から寝台料金不要の
立席特急券での乗車が認められている。空いてる寝台なら座ってもいいが、
やはり5号車のフリースペースに行こうと思う。元々は食堂車だった車両で
椅子もテーブルもある。調理室も小さなシャンデリアもそのままである。
天井を見上げると星空を模してある。これが国鉄末期に改造された
グレードアップ改造をされた車両であることを知る人は少ない。

 ただ、テーブル4つ分は片付けられてソファが置かれ、テーブル上の
ランプシェードはそのままである。だが、ブルートレインの食堂車は
全廃のときに親父に立席特急券で連れて行ってもらって以来になるから
14年ぶりである。何か食べたくなるけど、出雲市まで15分しかない。

 静かに外を眺めていると“ピィィー”という警笛が聞こえてくる。
ブルートレインをはじめ、客車列車に乗ることは旅の醍醐味だと思っている。
特に長距離夜行列車はそうである。だから旅立ちも三段寝台にした。
この<出雲>の食堂車でくつろぐのは楽しみだった。

 右後方にわずかに宍道湖の水面が見えた。
対岸は島根半島の山々がいっぱいに広がっている。平野部は整然と
刈り込まれた松の防風林が衝立のように点在する。畑の中にあるのは
農家だろうが、白壁の立派な構えの家が多い。

 車内改札があった。
立席特急券を見せたあとに最長片道切符を見せると
「うわぁー!すごい切符ですな。」
と言ってくれた。長距離夜行列車の乗客のもつ乗車券でも、
ただの長距離ではなく“最長”の切符だからかもしれない。
自分もいろいろ乗りたい、羨ましいですと言ってくれるが、ぼくにとっては
ブルートレインの車掌ほど憧れる存在はない。

 いろいろ話していたら、“ハイケンスのセレナーデ”のオルゴールが流れた。
終点・出雲市到着を告げるオルゴールである。車掌どのと別れの挨拶を
してから外を見る。薄茶色の砂を含んで水量豊かに流れる斐伊川を渡る
ところであった。10時54分、出雲市駅に着く。

 耕地も農家も川も、そして駅までも清潔。
かつ広々としており、やはり出雲はただの田舎ではないと思う。
天候は陰気でも、しっとり落ち着いているのが出雲地方の特徴である。

 15分といえど、一期一会であった。
やはりブルートレインに乗ったら最後まで見送りたい。幼少の頃から
ブルートレインを見て歩んできた自分を思い返し、しずしずと動き出す
列車を見送る。かつては偉大なローカル線と呼ばれるほどに
旧型の客車列車が数多く残っていた山陰本線の最後の客車列車である。
健気だがいつまでも走り続けてほしいと思う。








 出雲市ではちょっと寄り道をして出雲大社に行ってみよう。

 電鉄出雲市駅から一畑電鉄に乗る。
古い電車で、ぼくの実家のそばを走る西鉄宮地岳線を思い出す。
ンンゴ〜ンゴ〜とモーターが唸っていて、よく似ているのである。
川跡駅で出雲大社行に乗換え、出雲大社駅に着く。
国鉄大社線が残っていればなぁ、と思う。

 出雲大社まで強歩で歩く。
列車に乗ってばかりで運動不足だから、足が攣ってしまわないか心配だ。
しんどいが、折り返し列車は29分後である。

 露店のおばちゃんが話しかけてくる。
「ごめんなさい、急いでいるから〜!」
というと、本当に急いでいるように映ったらしく、
「青い屋根のバスに乗りなー!」
という声が返ってきた。歩きながら大声で礼を言う。

 参拝後にバス停を探す。
しかしわからない。それなのに時間は非情にも過ぎる。
手っ取り早く、来た道を戻る。あと10分しかない。すると、
「戻ってきたんかー!せっかく安い方法教えたのによ〜!」
と、先ほどの露店のおばちゃんが言う。
ごめんなさい!と思う。でも迷うわけにはいかない。

 何とか間に合って、出雲市駅へ戻る。
田んぼの真ん中をゴトリゴトリと走るその姿に、何か懐かしさを感じる。
露店のおばちゃんには悪いことをしたかもしれない。
決して無碍にするつもりはなかったのだが、わかってくれただろうか・・・。




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89.星空の食堂車
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