「33列車・運転士さんどうぞ。」
 「こちら33列車・運転士、どうぞ。」
 「33列車・発車!」
 「33列車・発車ー!」

 車掌と運転士の無線交信が聞こえてきた。
客車列車の場合、発車の合図は車掌が出さなくては
ならないからである。ドアが閉まれば“走行ランプ”点灯する
電車とは趣が違うのである。

 ここまでめまぐるしい眺めを楽しんできたが、日豊本線は
出入の激しい海岸線との応接に見切りをつけ、
佐伯から山間に入る。佐伯から延岡にかけては九州で最も
普通列車が少ない区間で日豊本線きっての
難所・宗太郎越えである。

 上岡、直見、直川と杉林の薄暗い谷を30分ほど走る。
山中の小駅・重岡を通過すると、サミットを越えて宗太郎駅を
通過する。「重岡宗太郎」などという剣士の名前のようだ。
宗太郎駅の1日の乗降客数は2人。
廃止にならないのが不思議だ。

 宗太郎を出ると宮崎県に入り、これまでと変わらず
杉林の谷に沿う。しかし南面しているので大分側とは違い、
車窓が明るい。豊後と日向の違いだろうか。
市棚、日向長井、北延岡を過ぎて9時21分、延岡着。

 南宮崎行の普通列車を追い越す。
右から現れた第3セクター高千穂鉄道の線路は
錆びついたままである。先日の台風で鉄橋が橋脚ごと流され、
復旧の目処が立っていないらしい。
このまま存廃問題にまで発展してしまいそうで心配である。
立席特急券での乗車が大量にあり、満席になる。
車掌どのは「こんなことははじめてだ。」と驚いている。

 氾濫跡の痛々しい五ヶ瀬川を渡って南延岡着。
ここでも10人以上が乗ってきて、文字通りの立席となる
人が多い。車掌どのは本当に忙しそうだ。
旭ヶ丘、土々呂、門川を通過して高架工事中の日向市に着く。
天気がいい。
すっきりとした青空が地平線・水平線いっぱいに広がっている。
ここは「日向(ひゅうが)の国」なのだという思いを強くする。

 財光寺、南日向、美々津と通過し、耳川を渡る。
神武天皇が船出したという美々津海岸へ向かう川で、
線路は左へと緩やかなカーブを描いている。
美々津とはいい響きであるし、
当て字だとしても素晴らしい名である。

 まもなく左側にリニアモーターカーの実験線が見えてきて
日豊本線と7kmに渡って並行する。いまは山梨で
長期視野的な実験が繰り返されているというが、
いつになったら実用されるだろうか。
いずれその日が訪れるとして、その頃の日本の交通体系は
どうなっているのかと思う。この<彗星>は1週間後には
時刻表から消える。ぼくの好きな夜行列車が時代遅れの
乗り物となっているのか、それとも息を吹き返しているのか。

 もっとも、いつになったら実用化されるのかわからない
状況なのだから、自分が生きているのかどうかも
本当は怪しいのではないかと思う。
実験線の向こうにはきらめく太平洋が広がっていた。

 都濃で実験線が尽きると高鍋川を渡って10時13分、
高鍋着。ここで数人が降りる。
やはり記念乗車の類が多かったらしい。
混雑はいいが、地元の人が迷惑するのはいけない。

 日向市から宮崎にかけては洪積台地が続いている。
水田はなく、荒地と乾いた畑の眺めが続き、
広々と閑散としている。西日本にしてはめずらしく
大らかなところである。このあたりは特に見るものとてないが、
時折渡る川の水と河原は清潔で、
車窓を見入っていても目を惹くものがある。

 宮崎県の川というと、延岡の五ヶ瀬川や宮崎の大淀川が
名高いが、椎葉村を源流とする耳川、小丸川、米良荘からの
一ツ瀬川なども意外に川幅の広い大きな川である。
日豊本線はそれらの川を次々に渡りながら宮崎へと
向かっている。いずれも水がきれいで、平家落人伝説のある
椎葉や米良荘といった秘境に降った雨は、汚れを知らぬままに
左窓に広がる日向灘へと流れ込んでいるのである。

 自分の寝台に戻ると、向かいの人が話しかけてきた。
「どこを回られているんですか?」と言う。
仕事で乗車しているらしく、マニアではないが旅が好きなので
三脚とカメラと時刻表を持っているぼくのことが
気になったのだと言う。そこからかなり話が弾んでしまい、
気付けば宮崎駅を発車していた。

 大淀川を渡り、終点・南宮崎に到着。
南宮崎とは長距離列車の終着駅にふさわしい名である。
宮崎ではなく“南”が付くことで趣がよくなっている。しかし、
ホームは家族連れでごった返しており、どうも階段へ進めない。
乗り継ぐ予定の西都城行普通列車が入線してきた。
おだやかな南国の終着駅であるのに、にぎやかすぎる。

 もうちょっとゆっくりブルートレインを見ていたかったが、
それではどうも間に合いそうにないので途中下車印も
あきらめる。人々は去り際にだけ注目を集めて惜しみ、
反対の声も上げる。そうでないものには自分の都合を
優先する。当たり前のことなのかもしれないが、
それだけではただの身勝手である。

「普段からこれだけ乗っていれば廃止にならずに
済んだんですが・・・。」
と言っていた車掌どのの言葉が印象的だった。
それは運行する側の本音なのである。
痛しかゆしではないか。




101.蒼天のブルートレイン

103.霧島連山

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最長片道切符の旅・31日目
102.日向路
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