久留米からは88番目の路線・久大本線へと足を踏み入れる。

 昨日の<はやとの風>と同じように観光特急である
<ゆふいんの森>が発車していった。あれに乗るとまた場違いな
気分に苛まれるのだろう。ハイデッカーで床を高くして
眺望をよくしているわりには窓が小さい。
何を意図した列車なのだろうか。

それにしても、なぜ久留米駅のホームの
端には孔雀が飼われているのだろうか?

 13時52分発の筑後吉井行普通列車がやってきた。
発車すると西鉄大牟田線と交差して鹿児島本線と分かれ、
南久留米に停車。次の久留米大学前で学生がみな下車して
静かになる。御井、善導寺で買い物客が降り、水田の中を走る。

 筑後草野に停まったあとは、田主丸に着く。
カッパの形をした駅舎が迎えてくれた。
いまは周囲の景観に融け込むかどうかよりも、
地域の特色をアピールしたりするほうが大事らしい。

 筑後川は“坂東太郎”の利根川、“四国三郎”の吉野川とともに
“筑紫次郎”の名で知られる暴れ川である。
筑後川流域から筑後平野にかけては九州きっての穀倉地帯だし、
水田が多いのかと思っていたらそうでもない。
むしろミカン畑が多い気がする。
福岡のポンジュースはここで栽培されたものとわかる。

 終点の筑後吉井駅に着いた。
階段を渡って改札に行くと、駅長どのが迎えてくれた。
「ん!?こんな切符、何年か前に見たことあるぞ〜。」
と言ってくれた駅長から途中下車印をもらう。
「うわぁー!すげぇなぁ。これからどこ行くの?」
という具合に会話が続く。何だか空気が和む駅だ。
ここもきれいに花が咲いているのだなと思う。
九州にはこんな駅が多いらしい。

 15時ちょうどの日田行普通列車を待つ。
さわやかな秋晴れの天気。
猛暑の鹿児島と違って残暑のかけらもない。
北九州では彼岸花が咲く頃なのである。

 駅長どのに見送られて発車する。
仲のいい助役と駅長だと思った。やりとりの間に笑いが絶えず、
列車を見送るときには駅長が助役の制帽をかぶっていた。
制服の色と制帽の色が違っていたが、
そんなことを指摘しても笑って流されてしまいそうだった。

 うきは、筑後大石と停車したら、筑後川が近づいてくる。
筑後平野の東端に来たらしい。ミカン畑からブドウ畑に変わり、
「筑後名産富有柿」の看板があった。ブドウ畑と柿畑である。
これは珍しい。田主丸付近ではミカン畑の手前で
一面の植木畑になったりして、ツツジ、ソテツが多かった。
ツツジは福岡の県花である。
見渡す限りが苗木の原だった。
ソテツなどの亜熱帯性植物は、沖縄から鹿児島、次いで宮崎と
順に移植して苗をならし、田主丸まで北上させたという。

 筑後川を渡ると右手に青緑色の夜明ダムが広がる。
この付近は星もきれいだ。一度、夜に来たことがある。
トンネルをいくつか抜けて夜明駅に着く。
ホームは砂利の部分もあり、花が咲いている。
誰かが手入れしているのだろうか。
駅舎も木造のままだった。

 向かいのホームに停車中の日田彦山線・田川後藤寺行に
乗る。この夜明で20分停車時間があるらしく、動く気配はない。
乗ってきた日田行普通列車とすれ違いで、
博多行特急<ゆふDX>が駆け抜けていった。
そのあとの15時33分に日田からの普通列車の接続を受ける。
しかし、到着した列車の日田発は15時20分、
乗る列車の日田発が15時03分。
同じように日田始発なのに追いつかれてしまうとはのんきなものだ。

 15時35分に発車した田川後藤寺行普通列車は、
89番目の路線・日田彦山線に入る。
夜明駅から大きく右にカーブして北に進路をとる。
筑後川の谷から一気に上っていき、杉の美林に囲まれる。
秋田、木曽と並ぶ日田杉の産地に入ったらしい。

 今山駅にはホームいっぱいに赤い万寿紗華が並んで咲いていた。
水田の周りに咲く彼岸花は、鹿児島・宮崎では少なかった。
熊本以北では白い万寿紗華もあり、久大本線沿線では
黄色いものもあった。あまり東北では見かけなかった花である。
水田の土手が崩れないように植えられている花なので、
古代の昔から稲作で栄えてきた西日本の人々の
知恵なのだろうか。
米の味こそうまいが稲作の歴史が浅い東日本では
あまり見ることがなかった花である。

 県境を越えて宝珠山、大行司、筑前岩屋と停まる。
福岡の山奥と言えばこの地方のことである。日田行普通列車と
すれ違ったあとに、さらに山間を分けすすむ。
もうこれ以上登れませんとばかりに警笛を鳴らして
釈迦ヶ岳トンネルに入る。昭和30年に開通したトンネルで
全長4378.6m。九州新幹線の紫尾山トンネルなどを除けば、
九州では最も長いトンネルである。
このトンネルによって筑後川中流の日田と北九州とが直結したが、
落盤事故によって多数の死傷者を出した。
筑前岩屋駅には慰霊碑が建っている。

 小さな谷を跨ぐ鉄橋がある。
地面に映る影から連続アーチ橋とわかる。
アーチ橋は鉄骨やコンクリートと違ってその土地の土砂を使うことが
できるから、建設費用などの面でコストが安く済む。
同じ理由で北海道には旧国鉄士幌線にもアーチ橋群が存在する。
廃墟と化しているのだが、水かさが増える6月頃から湖面に沈み、
水かさの減る1月頃から凍結した湖面に再び姿を現すことから
幻の橋と呼ばれている。士幌線とは少し違うが、現役の橋梁は
列車が上を走ることでそれなりに見ごたえがある。

 筑前岩屋でサミットを越えて下り坂に入ると彦山駅に着いた。





106.不知火の海は遠く

108.ボタ山の見える駅

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最長片道切符の旅・32日目
107.筑後吉井駅
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