高徳線から向かい側に停車中の牟岐線普通列車・
海部行に乗り換える。

 2両編成だが、後ろ一両は回送扱いで締め切られている。
だったら2両で運転すればいいのにと思うが、
ワンマン運転だと不自由するのだろう。
2両以上は車掌が乗務するみたいだし。しかもご丁寧に
「後ろの車両は回送扱いです。ご乗車になれません。」
という自動放送まである。10人という少ない乗客数で発車した。
1両で十分である。

 牟岐線は終点となる海部の先の第3セクター阿佐海岸鉄道
甲浦までを含めて“阿波室戸シーサイドライン”の愛称が
与えられている。四国の東海岸、特に阿南から南は土佐浜街道
であり、地形に準じた独特の風景が広がる。
一度、オートバイで室戸岬に行ったことがあるが、
海岸線に沿ってひたすら山が続き、山と海に挟まれたわずかな
平地に人々が暮らし、そこに駅もあった。

 地蔵橋で市街地を抜け、ローカルムードが濃くなる。
南小松島で5人が降り、閑散としてくる傾向に歯止めが
かからない。立江からは四国でしかお目にかかれない
乗客が乗ってきた。お遍路さんである。
四国島内八十八ヶ所にある霊場を巡るものだが、
鉄道を使っていいものなのだろうか。
四国でしかお目にかかれないから歓迎はしているのだが。

 羽ノ浦で数人降り、阿波中島を過ぎれば那賀川を渡る。
阿南市内を流れる川で、最近はアゴヒゲアザラシが
現れたとかで話題になった川である。那賀川を渡り終えて、
11時21分阿南着。

 さすがに空腹に耐えられなくなってきた。
高松で讃岐うどんすら食べぬままである。が、時間もないので
パンで済ませる。こんなところまで来て、何を急がねば
ならぬというのか。だが体調とて万全でもない。
10分停車してのんびりぼくを待っている普通列車に、
言い訳がましく再び乗り込む。

 阿南からは内陸に入る。
蒲生田岬のある半島の付け根を通過するのである。
見能林、阿波橘に停まり、桑のでは10人前後が降りた。
このくらいの人数でも大きな駅のように思えてしまうのは
不思議だ。半島の峠道をトンネルで抜け、海の香りが
しはじめると由岐に着く。山と海に囲まれた町で、
ここでまた20人近くが下車する。

 どうも高齢者が多い。東北の比ではない。
道路を走るマイカーではなく、鉄道が足となっている
人たちである。列車に乗っていてこんな人たちにめぐりあうと、
鉄道は老若男女を問わず平等な乗り物のように思える。
もちろん料金を払わねばならないが、交通弱者にとっては
必要な交通機関なのだ。

 臨時乗降場のある田井ノ浜を過ぎ、
海に沿って走ったかと思えば木岐に停車。由岐と同じく、
山と海に囲まれた集落であった。海に沿って走るが、
地形の険しさは変わらない。しかも海沿いに出ることは
ほとんどない。先程の田井ノ浜付近だけであり、
あとは山の上をずっと走っている。
もう少し見えてもよさそうだが・・・。

 北河内を過ぎて日和佐に着いた。
お遍路さんも降りたようだ。日和佐は海がめの産卵が
見られる海岸でもある。いま垣間見える海は、
紀伊水道ではなく、太平洋なのだと実感できる。
日和佐を発車した列車は、山河内、辺川と停車し、
トンネルでサミットを越えて牟岐に到着した。

 牟岐駅は沿線の中枢駅だがホームは1本。
その2つののりばだけでやりくりしている小さな駅である。
階段もない。高齢者の利用が多いローカル線では、
阿南駅のようにバリアフリー対策を施した橋上駅よりも、
こうして線路を渡る駅のほうがいいのかもしれない。
雨の時など多少の問題はあるが。

 10分停車の間に後ろの車両を切り離す。
ホームで待っていた人たちは皆後ろの車両に吸い込まれた。
見ると、“徳島行”になっていた。


4.鳴門線の短い旅

6.一人でも小さな旅を

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四国周遊切符の旅  5.土佐浜街道はいずこ
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