牟岐を出ると、国道が寄り添い始め、その向こうに海が見えた。
せっかく阿南室戸国定公園内を走りながら、肝心の海が
あまり見えていないのは残念だ。海に沿っても高台の上から
下りることはなく鯖瀬に着く。

 トンネルの手前の小さな駅である。
途中下車しようか迷うが、終点まで行って、本来の目的である
“乗ること”を達成してからにしたい。

 鯖瀬からはトンネルが再び連続する。
国道の土佐浜街道も含めてここは複雑な地形であり、
鉄道は小回りが効かないので海に沿ったとしても高台を走って
トンネルに入るか、内陸をトンネルで貫くしかないのである。
対岸の紀伊半島を走る紀勢本線とて同じことである。
ただし開通年はこちらがあとなのでトンネルが多いらしい。
少々残念ではある。

 浅川、阿波海南に停まる。
ローカル線なら牟岐で終わってしまいそうだが、
南に延びてきているらしい。そのまま終点の海部に着く。
高架橋の上にあってコンクリートばかりの無機質な駅。
終着駅と呼ぶにはあまり風情がない気がするが、
駅舎は下にあるらしい。

 牟岐線の終点はこの海部駅だが、線路はさらに延びている。
5分後にワンマンカーがトンネルから現れた。第3セクター
阿佐海岸鉄道のディーゼルカーである。駅は3つ、保有車両は
2両の小さな路線。降りてきた人は3人。
乗り込んだのはぼくだけ。貸切は寂しくもあるが、
ぼくだけの小さな旅でもある。

 イベント車両らしく、車両の中央にソファがある。
沿線人口はどれほどだろうか。13時17分、海部駅をあとにする。

 このあたりの地形が険しいことは室戸岬がストンと
太平洋に落ち込む様子を地図を想像はできる。
平地はほとんどない。入江が見えたかと思えば
トンネルに入り、高架橋の上から道路を見下ろす。
お遍路さんの姿もあった。
やはりああして歩いてこそのお遍路ではないだろうか。

 小さな車両基地がある宍喰に着く。
トンネルを抜けるといつも高架橋。踏切はないが見晴らしはいい。
その分、街からは外れている気がする。トンネルも多い。
4分で終点の甲浦に着いた。

 何もないといえば何もないのかもしれない。
地元の人がボランティアをする簡易委託駅であった。
売店で土佐みかん飴を買う。こういうところで売っている何気ない
土産品は好きだ。列車の折り返し時間は6分だが、
レンタサイクルをしていたので、1時間半後の列車に乗ることにする。
本当なら2時半までのレンタサイクルも、ぼくが遠方の客ということで
発車10分前まで待ってくれるらしい。ありがたい。
線路が尽きる甲浦駅だが、旅情をかきたててくれる人の温もりや
笑顔が尽きることはない。

 土佐浜街道の海を見ることがなかなかできなかったので、
海まで行ってみよう。地図をもらって気付いたが、甲浦駅のみが
高知県なのだ。室戸岬まで案外近いのではないかと思ったが、
50kmとあったので自転車で行くのはやめておく。
市場は山の向こうらしいが、とりあえず海岸を目指す。

 ダンプカーも走ってきた。
鉄道の旅をしているというのに車にはねられたとあっては
一生の恥。死にたくもないので気を付けながら避ける。
すれ違う軽トラックに乗った夫婦は何だか幸せそうに笑っていた。
線路から離れたところでも、日常から離れていれば旅情は
尽きないらしい。

 昼過ぎだったために小さな市場も品薄だった。
平日のため、定食屋もシャッターが下り、朝市は日曜らしい。
タイミングは悪かったようだが、観光客がいないのでぼく自身は
誰にも邪魔されずに済む。悠々自適だ。
この方がいいなと思う。

 道路沿いに干物が並んでいたが売約済。
砂浜の展望台にスロープがあったので自転車ごと上へ。
静かな砂浜だった。少しだけ日光浴をして甲浦駅へ戻る。
おばさんたちは笑顔で迎えてくれた。
うまいものは見つけられなかったが、胸がいっぱいだ。

 普通列車で海部まで戻り、牟岐線に乗り換え。
阿南まで戻り、特急<剣山9号>で徳島へ。宿で荷を解き、
早めに寝ることにする。23時就寝。

 2ヶ月前もこんな日々を送っていた気がする。


5.土佐浜街道はいずこ

7.吉野川ブルーライン

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四国周遊切符の旅  6.一人でも小さな旅を
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