佃を発車して土讃線に入ると、4分で終点の阿波池田に着いた。

 迷わず改札を出て駅舎に隣接する軽食屋に入る。
目当ては祖谷そばである。本来ならホームにある駅そばのスタンドは
なく、この喫茶店で扱っているのである。音威子府そばと同じくらい
好きなそばだ。これを吉野川の谷にあるこの駅のホームで
立ち食いできたらどんなに旅情あふれるものになるだろう。
立ち食い同然のスピードでかきこんでホームに戻る。

 4番線に停車中の高知行普通列車に乗り込む。
8時29分にワンマンカーは阿波池田駅をあとにした。
川は交通路の母という言葉があるが、四国では当てはまる路線が
2つある。1つはこの土讃線と吉野川、もう1つは予土線と四万十川。
どちらも切っても切れない間柄にあり、まさに血縁関係同然なのだ。
川あっての路線なのである。

 吉野川に沿う土讃線は、四国の地形の険しさが如実に現れている。
三縄、祖谷口と停まるうちにはっきりするが、非常に谷が狭くて深い。
両側は峻険たる山々。道路だって用地を確保できずに橋で渡る
箇所がいくつもある。鉄道は何とか用地を確保している格好であり、
道路よりも高いところを走るので用地確保はより困難だったとみえる。
断続するロックシェッドとトンネルがそれを物語る。
急峻な崖に沿って走るくらいならと対岸にも渡る。

 一方、母なる吉野川は奇岩が連続する景勝地・大歩危・小歩危へ。
川下りの舟が見えた。荒々しい岩肌の下には吉野川、
上には紅く色付き始めた木々がある。所々真っ赤に染まってはいる。
道路にはガードレールがあるから、列車からのほうがよく見える。

 急峻なはずの山の斜面には、民家があちこちにある。
山一つ隔てた祖谷渓と同様に四国山中には世界的にも珍しい光景が
広がっているのである。なぜこんなところに人が住んでいるのか
わからないと外国人は口をそろえて言うらしい。
本当かどうかわからないが、日本は神秘の国だという。
それほどに日本人は地形を克服することには長けた民族らしい。
もっとも、こんな斜面上に家を作ることを何とも思わない人たちと
解釈できないこともない。
祖谷渓には崖の上に小便小僧が立っていることで知られる。

 小歩危に着いて、5分停車する。
特急<南風6号>とすれ違う。気付いたら後ろの貫通扉が
開いていて、線路が丸見えだった。危ないところだった。

 さらに岩肌に貼りついて走ること8分、大歩危に到着。
この付近一帯の景勝地への玄関口となる駅だが、敷地の狭さゆえに
ロータリーは小さい。大歩危とは大股で歩くと危険だということが由来。
ならば小歩危は小股で歩くと危険なのだろう。それでは普通に歩くのが
一番安全ということになるが、どう見てもこの峡谷は普通に歩くだけでも
十分に危ないと思う。大股小股はあまり関係ない気がする。

 大歩危を発車した普通列車はさらに南下を続ける。
吉野川の上流に向かっていることになり、谷はさらに険しさを増している。
紅く色付く木々も増えた。小歩危の手前の阿波川口駅では
ホームの木が紅葉していたのでバラバラらしい。

 土佐岩原、豊永、大田川と停まり、乗客を少しずつ集める。
みな高齢者だった。ここもか、と思う。弱者のための鉄道がここにある。
大歩危を過ぎて徳島県から高知県に入っているので、人の流れも
変わったらしい。県境を越えてもサミットを迎えない。
さすがに川下りなどはできる状態ではない。大杉駅に着いた。


7.吉野川ブルーライン

9.静かな大杉駅

四国周遊切符の旅日記TOPへ



四国周遊切符の旅  8.四国三郎はおおぼけこぼけ
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送