急峻な山肌にべったり貼りついて走っていたが、
四万十川がさらに蛇行していてやはり付き合いきれなくなったのか、
トンネルに入るようになった。開通が最も新しい区間に入ったらしい。
対岸の国道は見えないくらいに細かったものが、
バイパスの建設中だったりする。

 ポツンと走るディーゼルカーに揺られて、周りの風景に
圧倒され、お互いに小さな存在なのだと共感するようだ。
「お互いにちっぽけで冴えませんなぁ・・・。」と話しかけてくるようでもある。
母なる川はそばにある。安心していられる気がする。

 再び川に寄り添うようになると沈下橋が見えた。
これでいくつめだろうか。増水した四万十川の光景は想像を絶する。
母の怒りはどんなに恐ろしいもだろうか。ぼくはよく知っている。
その怒りに触れたのか知らないが、崩壊した沈下橋もあった。
予土線とて母なる川から恐れおののくしかないだろう。

 集落を鉄橋で渡って江川崎に着いた。
予土線の全通前の終点だった駅である。3人降りて2人乗った。
町らしい町なのだが、予土線の経営状況も思わしくないようだ。
江川崎からはこれまでの新幹線のような線路と違って、ローカル線の
趣が濃くなる。四万十川は中流域にまで達したようだが、
その表情は変わらない。むしろ険しくなったようで、岩肌はむき出し、
荒々しく削り取る水の力の偉大さを感じる。そして自然の造形美の深さも
感じられる。1両のディーゼルカーはただただ圧倒されるばかりだった。

 西ヶ方を出て県境を越え、愛媛県に入った。
いつのまにか四万十川と離れ、山間の里を走る。ゴトリゴトリと走り続け、
真土、吉野生、松丸、出目と停まっていく。本当に典型的といっても
いいくらいのローカル線の風景である。近永を出ると宇和島の都市圏に
入ったらしく、1人、また1人と乗客が増える。深田、大内、ニ名、
伊予宮野下と停まっても風景はそんなに変わらない。

 務田駅では甘い香りがした。
ホームに柿がぶら下がっていたのである。木からもぎ取って食べたくなる。
その願いは叶わず、無情にもドアが閉まる。落石がいまにもありそうな
斜面に貼りついて、ノロノロと宇和島の市街地へと下っていく。

 そういえば、四万十川にはロックシェッドがなかった。
落石などはあまりないらしい。12分かけてゆっくりと坂を下り、
15時18分に北宇和島駅に着いた。予讃線との合流点となる無人駅。
終点の宇和島まで行くのもいいが、予土線・窪川行の発車時刻と、
この宇和島行の到着時刻が同じなので窪川まで戻れず、
今晩の宿である中村着が遅くなる。明日には響かせたくないし、
明日の宿が宇和島なので北宇和島で折り返す。
6分後には窪川行が来た。同じ道を戻るのだが、
さっきと違って大雨になっていた。


10.四万十川

12.小京都・中村

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四国周遊切符の旅  11.冴えないひとりごと
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