車での来訪が多い下灘駅から“たった一人の乗客”として
16時33分発の宇和島行普通列車で旅立つ。

 いい雰囲気の駅だったので17時53分の普通列車まで待っても
よかったが、列車に乗りながら伊予灘に沈む夕日を見たい。
そう思った。それに、やってきた普通列車が、今朝と同じく
国鉄急行型ディーゼルカーだったからである。キハ65形という。
普通列車としては全国でもこの地区でしか走っていない。

 伊予灘に迫り出した。
山の斜面に貼りついて走るので沖合いの島々まで見渡せる。
串に停まった後、喜多灘に停まる。ここも線路跡の敷地がある。

 太陽はいよいよ傾いて水平線から頭上まで、オレンジから
青へときれいにグラデーションがかかって変化している。
この列車に乗って正解だったようだ。国鉄型の古い車両を
太陽が照らし、海もきらめいている。
挽歌を歌っているようだ。

 工場が現れて伊予長浜に着く。
ここまで灘という駅名が続き、この伊予長浜までが海の地名。
この次からは伊予出石、伊予白滝と内陸の地名になる。
伊予長浜で高校生が30人ほど乗り、5人しかいなかった車内が
にわかに活気付いてきた。

 列車は内陸に向かい、肱川に沿う。
県道も並行してトラックが多い。人名のような春賀、五郎という
駅に停まる。その五郎駅で高校生が乗り遅れて急停車した。
人騒がせな話だが車掌はにっこり笑っている。
これが予讃線の普段着なのだろう。

 伊予大洲に着く。
いよいよ日は暮れてしまい、夕焼けも山の向こうである。
ここで内子経由の短絡ルートも合流しているので、この先は
特急列車の間に割り込みながら走る。3〜4分の停車が多い。
終点の宇和島まで伊予平野、八幡浜、双岩、卯之町、立間、
北宇和島と6つもあった。かなりの牛歩である。

 そういえば伊予白滝でも13分の停車時間があった。
列車の外に出るとホームの脇に柿の木があり、食べようかと
思ったが憚られた。手が届かなかったのである。包丁もないし。

 八幡浜で20分停車し、アンパンマン列車の特急
<宇和海17号>に追い抜かれる。愛媛西部の主要都市だが、
普通列車に乗り降りする人は少ない。
主役はあくまで特急列車なのだろう。

 四国から九州へ向かって突き出る佐田岬半島の付け根を
通過する。地形は険しいままらしい。暗闇にほんのわずかだが
浮かぶ山影は途絶えることがない。

 伊予吉田を発車すると漁港を見渡せる丘に出た。
早朝はきっと賑わうのだろう。急斜面の途中に線路はあり、
右側が海なのだが左側はみかん畑のようだ。
窓を開けていると柑橘系の香りがした。

 昨日折り返した北宇和島で、予土線の普通列車に接続すると
19時23分、終点の宇和島に着いた。降りようとしたら
重大なミスに気付く。下灘駅に三脚を置き忘れてきたらしい。
駅の“観光客”のどさくさに紛れた形。宇和島駅に届け出る。
すると、下灘駅は無人駅なので、普通列車の運転士に
頼んでみるという。ありがたい話だが、停車時間が短い
ということもある。無理を言えないので折り合いをつける
覚悟をしておく。列車の車掌どのは気遣ってくれて
いろいろと話し相手になってくれた。若いのにいい人である。
無人駅が多くて車掌の負担は増えたが、
乗客と話す機会も増えたという。

 駅の助役どのに届出を終えた後はスーパーに向かう。
途中、愛媛の郷土料理・鯛めしを扱う小料理屋があったが、
スーパーの惣菜を見てからにしようと思う。掘り出し物が
あるかもしれない。するとカワハギのタタキを発見した。
真っ白な身がおいしそうだ。今日もスーパーで決定だ。
あとはボラの刺身と白ごはん。愛媛の海の幸づくし。
同じ四国でも高知とは海産物がまったく違う。

 駅上にあるビジネスホテルに入ると電話がかかってきた。
三脚の入ったカバンを見つけたとのことだった。
現在松山にあって、特急列車で宇和島に送ってくれるという。
まさに特急便。本当にありがたい。
ぼくよりもさらに3時間長い旅をするらしい。
安心するところで寝ることにする。

 22時半、就寝。


16.下灘駅

18.宇和海の朝

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四国周遊切符の旅  17.老兵の挽歌
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