11月13日(日)

 朝5時に起きる。
駅から徒歩0分の宿なので、悠々とチェックアウトを済ませて
駅に向かう。助役どのに顔を見せると三脚バッグを渡してくれた。
三脚が戻ってきたのである。
改めてきちんと礼を言うと、「忘れないようにね。」と
にっこり笑ってくれた。昨日は怪訝そうな顔をしていたのに、
目じりにできたしわが印象的だった。

 1番線に停車中の特急<宇和海2号>に乗る。
この宇和島駅でのことは一生忘れないだろうなと思いながら、
5時38分に発車する。宇和島は闘牛の町田が、いつあるのかは
知らなかったりする。次にくるときは調べてからにしよう。

 外はまだ暗い。
漁船は操業から帰ってきていないらしく、市場のある港も
静まり返ったままに見える。特急だと窓も開かないし、
スピードも出ているからみかんを栽培していることにも
気付かなかっただろう。普通列車で乗り通してよかったと思う。
列車でなければ三脚も戻ってこなかっただろう。

 卯之町、八幡浜、伊予大洲と停まっていく。
昨日普通列車でたどったよりもはるかに速い。
普通列車だけで旅をするのはさすがに時間がかかるぞと
教えてくれているようでもある。自分の土台となっている
日常生活との兼ね合いもある。ならばいっそのこと日常を
捨ててしまえばと思わなくもないが、日常あっての非日常。
棲み分けをきちんとしなくては旅を愛せなくなる。
旅が旅でなくなる気がするのだ。

 もっとも、2ヶ月間も旅をしてそれはそれは
幸福な毎日だったが、終りがくることを知っていた。
日常生活とは自分が死ぬまで終わらないものである。
自分が営まなければならないからこそ旅から帰ってくる。
そしてまた次の旅へ出ようとする。旅と生活とが完全に
重なってしまっては旅の魅力が半減する。すなわち非日常への
逸脱というものの魅力が削がれてしまうことになる。

 何を思ったかといえば、要所要所で特急を使えば
より遠くにいけるし、普通列車も織り交ぜれば旅の印象も
また異なるということである。特急列車を使えば行先での
余裕ができるし、普通列車を使えば道中を楽しめる。
両方を部分的に使えば、片方を最初から最後まで楽しむことは
ないが、今度は時刻表をやりくりしてあれこれ考える時間が増える。
結局のところ、時刻表に帰着するのが鉄道旅行の面白味であり、
原点なのである。

 伊予大洲を出ると予讃線は2つに分かれる。
旧ルートは昨日たどった伊予長浜経由の海線。新しい方は
特急列車が通る内子経由の山線で、沿線人口はこちらが多い。
伊予大洲から新谷と向井原までが元々予讃線として開通した
区間であり、あとから内子〜新谷間が内子線として
開業したのである。

 エンジン音も高らかに、最高速でトンネルを串刺しにしていく。
踏切もない。9分で内子、さらに16分で伊予市に着く。
昨日の普通列車よりも1時間短い。なるほど特急の力は偉大だ。
向井原で伊予長浜経由の予讃線と合流する頃には空も明るく、
左手遠方には伊予灘が見えた。

 伊予市から12分で終点松山である。
今回は鯛めしを食べられなかったが、またの機会にしよう。
松山といえば日本三大古湯で知られる道後温泉がある。
3年前に高校の同窓会を道後温泉で開き、芸姑さんを呼んで
楽しんだ覚えがある。そのときは鯛めし、鯛茶漬け、お頭焼・・・
鯛づくしだった。温泉なら道後温泉本館がある。
夏目漱石も入ったという坊ちゃんの湯は人が多かったが、
すこぶるマナーがよかった。
4階まであり、2階より上は休憩室と茶菓子付き。

 今回は汽車旅ばかりなので松山は素通りする。
琴平電鉄、伊予鉄道、土佐電鉄はお預けなのだ。


17.老兵の挽歌

19.銀色のしおかぜ

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四国周遊切符の旅  18.宇和海の朝
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