大歩危からは四国の旅・最後の列車となる
特急<南風20号・しまんと6号>岡山・高松行に乗る。

 この4日間で7度目の特急<南風>だが、
8度目にしてやっと瀬戸大橋を渡ることになる。
8回のうち3回がアンパンマン列車だった。
アンパンマンは嫌いではないが、アンパンマンを
列車に使うことが苦手なのだ。

 実は四国を走る特急列車の中でこの<南風>が
最も好きである。最長列車は5時間かけて岡山と陸の孤島
宿毛を結ぶ。ヤシの木が並ぶ宿毛から乗った場合、
小京都・中村を通り、黒潮の恵み豊かな太平洋沿岸を走る。
カツオの町・土佐佐賀から四万十川の上流・窪川で
土讃線に入り、県都・高知を過ぎて四国山地を越える。
大歩危・小歩危の奇峡を縫って讃岐平野に出ると、
今度は瀬戸大橋を渡って岡山にまで吹き込んでくる。
まさに“南風”なのである。国民休暇県である高知からの
特急にふさわしい名だと思う。この<南風>のように、
列車名と行先となる土地が合致する列車は好きだ。

 高知からこれまで普通列車でたどってきたように
四国山地を越えてきた<南風20号>は15時48分、
定刻に大歩危を発車。まもなく大歩危小歩危峡の
案内放送が流れる。こういうのは旅の道中に刺激を
与えてくれるから何度聞いても飽きることはない。
新鮮味云々の話ではないのである。

 崖の上に集落がある。
祖谷渓とてそうであるが、あんな急斜面で
生活している人がいることに驚かされる。
しかしなぜそんなところに住むのか?
というのは愚問である。なぜなら、この場所が好きだから、
この風景が好きだから住んでいるのに他ならない。
便利だから住む、不便だから住みにくいというのは
都会的な考え方である。
言葉を間違えているかもしれないが、ご都合主義である。
そのような考え方はまったく通用しない。
好きだから住む。この土地が気に入ったから住む。
人間が定住生活を始めた頃のような考え方がここにはある。

 自然の営みは四季という変化はあるが、
1年後毎の変化というのはほとんどない。
その中で生活を営み、齢を重ねていく。
本来人間はそうであったと思う。

 変化することのない自然の中で人間を含めた動物たちが
歳をとる。人間など自然に敵うはずがないのに、
いつからそれを忘れてしまったのか。ここの人たちにとっては
住むことが生きがいであろう。そしてまた、
ここに住む人たちを見て思うこと、何か考えることがあって
はじめて旅の意味がある。

 思想家のようなことを言いたくないが、
この疑問は自分自身にぶつけるために湧いたもの
と言える。人に押し付けることなく自己満足として終えるのが
一番いいだろう。何を最も望むかといえば、
好きなときに好きなところへ、好きになれる土地へ
好きな列車で旅ができたらいい。それで十分だ。

 旅を続けよう。
吉野川を渡ると小歩危峡に入る。見たところ
変化がないように思われるが心なしか大歩危の方が
岩が大きいようにも思う。小歩危駅を通過し、
繰り返されるカーブをスピードを下げることなく貫く。
国道を走る車、トラックをあっさり追い越していくので
気持ちがいい。マイカーども、ザマアミロ!と
叫んでやったら、どんなにか鉄道の鬱憤を
晴らしてやれるだろう。

 マイカーでやってくる観光客はどうも気に入らない。
点と点を楽しむだけで線を楽しまないから、
鉄道で旅する自分とは合わないのだろうなと思う。
鉄道を愛する自分は、せめて鉄道で旅を楽しみたい。

 祖谷口、阿波川口を通過して阿波池田に着いた。


21.四国山地のスイッチバック

23.四国連絡特急の旅路

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四国周遊切符の旅  22.南風
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