ぼくは旅が好きだ。

 日常から抜け出して、非日常の世界へと抜け出し、自分の知らなかった物事や風景、
文化に触れるのが好きだ。これまでいろんな旅をしてきたが、学生生活の最後に一つの旅をしたい。

 後にも先にもこれ以上ない旅、“最長片道切符の旅”である。
 これは北海道・稚内から佐賀県の肥前山口駅まで、同じ駅を2度通ることのない一筆書きの切符である。
だが、ただ一筆書きをするのではつまらない。旅をする以上、自分の好きな車両・列車、風景、
そして乗ったことのない路線と風景に触れなければ絶対に損である。

 それに、国鉄の分割民営化から20年が過ぎようとしており、
統一された料金体系がいつまで続くかわからないのも事実である。
そんな合理主義の世の中、無駄を省く世の中の流れに反し、
自分でできうる限りの無駄な旅をしたい、思うが侭に列車に揺られていたい。

 そして何より、自分の持つ日本観を変えたい、また確かなものにしたいと思う。
季節に夏を選んだのは他でもない。
四季折々の中で最も草木萌えるこの季節に鉄道で旅をしたことが最も少なかったからである。
 長旅になるのは言うまでもないから、1日のサイクルは午前6時台に出発して日没までにしたい。
あとはいつ出発するかさえ決まれば日程も決まる。

 いかに北海道の稚内に行くか・・・。
もちろん、列車で行かなければならない。
なぜなら“北海道は遠い土地”という気持ちをいつも抱いていたいからである。
飛行機ほど日本列島の形を荒削りにするものはないと思う。
九州へ行くなら福岡でも宮崎でも鹿児島でも1時間でいける。
それでは遠くへ旅をするありがたみがない。
九州へ1時間で行けるなら、大阪まで15分で行けるべきである。
そんなわけで時刻表をめくっていると、長距離夜行列車しかないということになる。
1日のサイクルを上記のように決める以上、夜行列車は使えないし、最長片道切符のルートでは
乗換えが頻繁に発生するため、長距離列車に乗ることもない。
こういうときは長距離夜行列車に徹するべきと考える。

 3段寝台で走る盆の帰省列車・臨時急行<あおもり>に決めた。
ぼく自身が幼き時から憧れ続けてきた、“月光型電車”を使用する大阪発青森行の臨時寝台急行。
下り列車は3日間しか運転されない。
出発日を8月12日に決めて寝台券をとると、最長片道切符を購入するべく
名古屋駅のみどりの窓口に向かった。

 経由地と路線を書いた紙を窓口で提出する。
係員は「えっ?」という顔をする。
大方予想できる反応であったが、求める乗車券に記載するべき経由地と路線を示してあるのだから、
そのまま切符を作ってくれればいいだけである。
運賃計算がいちばん大変だが、それが彼らの仕事。
そんなに戸惑うこともないだろう。
あくせくしながら奥に入り何やらドタバタし始めた。
「経由地の確認をさせていただきます。」と言う。
どうぞとしか言いようがない。

 だが、時刻表に記載されている営業規則にしたがって最長片道のルートを割り出しているのに、
いちいちマルスで叩かなければ「このルートは正しいのか?」という問いに答えられないのは、
プロフェッショナルであるはずの彼らにとって悲しくもある。
自分自身できちんと勉強するべきだ。
乗客の安全を守る彼らですら、機械やシステムの上でしか行動できないのはプロとして本当は
はずかしく思うべきであるのに、そう思っていないようだ。
きつい事を言っているようで甚だ恐縮だが本当に悲しかったことは、
ぼく自身の問いに対してその場ではっきりと答えられる人がいなかったことである。
“鹿児島本線・小倉〜博多”間について非常にもめた。
新幹線は通常、在来線の並行路線として運賃を計算するために在来線と同一路線として扱われる。
が、例外もある。
それは新幹線のみの独立した駅が存在する区間のみは別個の路線として扱われる区間。
例えば、山陽新幹線の新大阪〜西明石間にある、新神戸駅などである。
こういった例外は経験しないと理解できない部分が多いからそこは責めない。
が、山陽新幹線と鹿児島本線の“小倉〜博多”については独立した駅こそないが、
JR西日本とJR九州の運賃計算方法が異なるために経路指定をする必要があるのである。

 すなわち、それを逆手に取れば別線扱いすることができるのではないか?ということになる。
そのことを問いただすと、「時刻表にはそのことについて書いてありません。」とだけ言われる。
本当はJRの運送約款である「旅客営業規則」の第68条4項3号を拡大解釈したものだが、
それを知ってか知らずか、
「個人の解釈の仕方によって違います。」
という答えは返ってこなかった。

結局のところ時刻表上でしか話ができず、
解釈の仕方についてまで係員の頭が回っていないことに気付いたぼくは
1時間半も窓口を占領しているのは非常に迷惑なので、引き下がることにした。
ぼく自身は旅をさせてもらう身だからである。
もう少し突っ込んで話をしてほしかったし、“解釈の仕方による”という
こちらの本意を汲み取ってもらえなかったように思うがやむを得ない。
切符を作るのはぼくではない。
翌日電話がかかってきて、同じ窓口で切符を受け取り「ありがとうございました。」
と立ち上がって深々と頭を下げてくれた。
かえって恐縮してしまい、こちらも頭を下げる。
お互いスッキリした感じで窓口を出る。


有効期限は59日。
稚内→肥前山口・71,980円、経由地は別紙参照の切符。

この1枚から旅が始まる。
10年来の愛機であるカメラ・ミノルタα-9000と三脚、
20年の愛読書である時刻表を携えて旅に出よう。

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