目を開けるとどこかわからなかった。

 広大な貨物ターミナルを抜けて、右手に分かれていく線路があるのを見て、
やっと日高本線と苫小牧貨物ターミナルだとわかった。
時刻は5時過ぎ。
終点の札幌まであと1時間である。

 満席のカーペットカーでは起き上がっても
何となく周囲に気を遣ってしまうので、
ドリームカーのミニラウンジにでも行ってみる。

 先頭の機関車のヘッドライトが闇を切り裂いているのが見えた。

 JRの定期急行列車はいまや、
銀河、きたぐに、能登、はまなすの夜行4列車と、
かすが、つやま、みよしの昼行3列車だけになった。
そして寝台特急以外の客車列車は、銀河とはまなすの2つだけ。
「座席のある客車急行」に絞り込むと、
この“はまなす”が唯一無二の存在になった。

 そう考えると、今乗っている列車は貴重な列車、
この時間は他では味わうことのできない時間となる。
最後となった伝統の夜行客車急行。
それがいまなお多くの利用者に支えられているのは喜ばしいことである。

 5時24分、南千歳着。
自由席からも指定席からも下車があった。20人ほどであろうか。
北海道の空の玄関・千歳空港に向かう人たちが函館から乗っていたようだ。
青森からかどうかは定かではないが、
函館乗車が多かったドリームカーから降りた様子を見ると、そう思われる。
乗ってみなければわからない、急行はまなすのもうひとつの顔である。
入れ替わりに、札幌まで乗っていくと思しき人たちが
自由席に15人ほど乗車した。

 千歳着5時30分。
乗降はほとんどなかった。
ミニラウンジの設備は、テーブルを囲む4つの高椅子が左右で2組。
長時間車内に拘束される夜行列車において、
このような設備は逃げ道としてありがたい。
十分に息抜きができる。

 貨物列車とすれ違ったかと思うとまた続けざまにすれ違う。
札幌貨物ターミナルから本州方面への貨物列車の本数の多さは、
東海道の夜に匹敵するほどとさえ思う。
ディーゼル機関車はスパートをかけるようにエンジンを唸らせて、
終着駅・札幌へと急ぐ。

 4号車・「のびのびカーペットカー」に戻って降りる準備をする。
片側の通路以外が小上がりになっており、そこに枕木方向にゴロ寝する。
フェリーなどの雑魚寝と似たようなものであるが、
通路と反対側の窓側には1人ずつ仕切るカーテンがあり、読書灯も点く。
そしてロフトのような上段区画があり、レール方向に横になる。
小上がりの下段は上段の下に頭を突っ込む形で寝るのだ。
座るのには多少窮屈あるが、横になるのはいい。
「頭隠して尻隠さず」とはよく言ったものである。
リピーターも多いようだ。

 カーペットカーで横になると通路からは丸見えであるが、
枕と毛布が用意されており、
これで急行料金に指定席料金510円を加えるだけで
まっすぐに体を伸ばして眠れるから人気が高い。

 とにかく靴を脱いで過ごせる解放感には代え難いものがありそうな車両だ。
片端の区画は女性専用に仕切られている。
目隠しをされているわけではないだろうが
隣り合う人が女性同士という安心感はあるのだろう。
“はまなす”に根強い需要があるのを見越して、このような車両が投入され、
すっかり定着しているのには正直驚いた。

 深夜にもかかわらず、多くの需要があったこと自体、
“はまなす”を取り巻く条件と役割を象徴している。
北東北一帯や函館と札幌の間は、
大都市発着の主要路線と違って飛行機の便数も限られる。
高速バスも、途中に海峡を挟んでいるため昼夜行を含めてフェリーを介する
本州〜北海道間の直行便は皆無で函館〜札幌便も夜行は1往復。

したがって夜に発ち、朝に着くには
鉄道の夜行列車が最も便利な手段として、存在しているのである。
これが他の夜行列車と最も違う点である。
いまなお北海道連絡の使命が生きているのだ。

 高架線に上がって新札幌に停車した後、車内がにわかに動き出した。
車内等が全車、全光となってもなかなか起きてこなかったのだが、
それも観念したらしく、あわただしく仕度にかかり始めた。
高架線から札幌貨物ターミナルを望みながら函館本線の間へと下りていき、
複々線で最後の区間を快走する。
林立するビルの間からテレビ塔を遠望すると、
定刻の6時07分、終点・札幌駅5番線に到着。

今や多くの夜行列車は他の交通機関との競合の中で、
それらの利用条件が合わなかったり嫌ったりの結果、
最後のふるいに残った人だけが利用している感さえしていたが、
“はまなす”にはもっとずっと、
ポジティブでアクティブな理由でこの列車を選択している人が多かった。

活気を帯びた夜行列車とは、このような姿なのだろう。
多彩な編成内容で乗客に選択肢を与えて、細かい需要にも応える。
いまのJRに求められている夜行列車存続の道なのではないのだろうか?
とさえ思った。



函館駅

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伝統の客車急行・はまなす B

のびのびカーペットカー
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