苫小牧からは日高本線に乗る。
日高本線は苫小牧から日高山脈の麓・様似まで
全長146.5kmの長大ローカル線。
末端が行き止まりの終着駅をもつ北海道の路線の中で、
最も踏破が難しい路線。
なぜ踏破が難しいのかといえば、
27駅という長大な距離に加えて優等列車が走っておらず、
1日7往復の普通列車だけで片道4時間、
往復8時間と1日をつぶす覚悟で
乗らなければならないからである。

 ここまで乗ってきた室蘭本線普通列車の接続を受けて、
14時21分発車した。
しばらく室蘭本線と並んで苫小牧貨物ターミナルを抜けると
南に進路をとる。
やがて勇払原野が広がって勇払、浜厚真、浜田浦と停車。
帰宅途中の高校生を降ろしていくと、立客はいなくなった。

 しかし、次の鵡川で2両編成のうちの1両を切り離すという。
ぼくは前の車両に移動を余儀なくされた。
苫小牧から30分、鵡川に到着すると、7分停車。
乗客下車後に係員が乗ってきて、切り離し作業に入る。
のびのびするはずが、ちょっと悲しくなった。

 鵡川で大量に下車したから座れると思ったのに、
あっさりとその期待は裏切られて
そのまま30分立つはめになる。
途中の富川までの間に1度海に出たがすぐに内陸に移った。
沿線の駅舎には旧国鉄で余剰となった
貨車を用いているものも多く、原っぱにぽつんとある駅舎、
そこから延びるあぜ道の先に民家というのがほとんどであった。
そのあぜ道の途中まで親が車を乗り入れて
迎えに来ているのをよく目にする。
日高門別で最後の高校生が降りる。
発車後、太平洋が見えてきた。
河口を一気に橋で渡る。
どこまでが川で、どこまでが海なのだろうか。

 太平洋が広がる。
今日の午前中に訪れた石狩川の新十津川とは
比べようのないくらい暖かである。
本当に北海道にいるのだろうかとさえ思う。
沿岸には積雪の様子は微塵もない。
厳冬の北海道を象徴する雪景色が、まるで幻のようである。
にぎやかな高校生のしゃべり声もなくなり、
車内は落ち着いた様子。
ボックスはすべて埋まり、
ワンマン運転の普通列車内に乗客は20人ほど。

 広大な太平洋と、丘陵の間を駆ける。
丘陵地帯はなだらかではあるが、
海岸への落ち込み方は険しく、隘路である。
このような丘陵地帯の下を走るのは
日本全国でも日高本線だけ。
根室半島の丘陵地帯は上を走っているから、
こことはまったく風景が異なる。
あちらも日本では唯一の風景ではあるのだが。

 波が荒い時には線路にまで波が押し寄せてくる。
日高本線の車両は塩害に悩まされると聞くが、
その原因はこの風景を見れば一目瞭然。
波をおもいっきりかぶるような路線はなかなかない。

 清畠、厚賀と停まりながら海に迫り出すようにして走る。
波除けのコンクリートの上で
カモメが一休みをしてこちらを見ている。オートバイや車と違って、
彼らにとっては鉄道というものが無害なのであろう。
鉄道は風景に溶け込むことが最大の魅力だと日頃から思っている。
動物たちにとって無害なものとならず、そういった自然から見て、
異質なものではないことの裏付けではないだろうか。

 太陽は傾き始めたようだが、海は輝きを増している。
広がる原野の寂寥とした感じが幻想的でもある。

 国道に沿った内陸部は、桜並木の20間道路、
サラブレッドの里として名高い新冠、静内地方である。
鉄道の沿線はそんなことなど、
まったくと言っていいほど感じさせない。
その新冠で10人ほど下車して、15時59分、静内到着。
なんと29分停車。
やけにのんびりしている。
その間に、苫小牧行普通列車が発車していった。
どうやら旅人はぼくだけらしい。
カラカラというアイドリング音のみが聞こえている。
この29分間にぽつりぽつりと乗客が現れては
車内に吸い込まれていった。
こちらもただ車内で過ごすだけではもったいないので、
ちょっと駅の外に出てみる。

 駅の物産展と土産物コーナー、
それから立ち食いうどん屋を見つけた。
これから今夜の宿の夜行列車まで食べる暇はないだろうから、
かきこんでおくことにする。
えび天うどんを注文。
愛想のよいおばちゃんが作ってくれる。
「列車に持って帰るんでしょ?」と訊くから、
そうだと答えるとおにぎりを一つ付けてくれた。
昼の1時までが賞味期限だから売り物にできないらしい。
そんなことはぼく自身一切気にしないので、
礼を言ってからありがたく頂戴した。

 立ち食いうどん屋でありがたみを味わえるのも、
うどんを買えるのも、長時間停車のある鈍行列車ならではである。
うまいものはその土地で食うのが一番うまいと思う。
それは食材がうまいというだけではなく、
その土地の風情がそうさせているのだと思う。
土地の風情を彩るのは他ならぬ、
その土地の人々だということを忘れてはならない。
土地土地に住まう人たちが、
旅人のために心を込めてくれなければうまいはずはないし、
ぬくもりは生まれないからである。
フタ付の容器に入れてくれたので持ってくるときにこぼれなかった。
天ぷらがふやけていても、うまければいい。
おにぎりもある。
旅の醍醐味のひとつがそこにある。



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