朝の稚内駅は人影まばらであった。
わずかに夜行特急“利尻”で到着した人たちが、
ノシャップ岬や宗谷岬行きのバスを待つ。
稚内発名寄行きの普通列車も、乗客は4人ほどであった。
もともと人口の少ない地域であるから、
それほど多くないのも当然であろう。

 7時10分過ぎに南稚内からの回送列車としてやってきたのは、
7時37分発の札幌行特急スーパー宗谷2号である。
入線と同時に改札が始まった。
係員が改札口に立って、入鋏している。
“Tilt261”とある。傾斜261という意味。
曲線区間で車体傾斜制御を行い、
通過速度を引き上げているのである。

 改札が始まった頃には続々と人が集まっていて、
立ち食いうどん屋も盛況であった。
手作りのおにぎりだったので、非常にうまそうに見えた。
2つほど購入してしまう。
しっかりにぎってあるのがわかる。

 地元の乗客は慣れたもので、
車で送られてそのまま改札へ向かっている。
切符は前もって購入しているようだ。
キオスクも開いている。
駅前からちょっと歩いたところの
“セイコーマート”で飲料を調達しておく。

 ステンレス車体の鈍い色に対して
青いドアの一部が黄色に彩られ、引き立っている。
ニッコウキスゲの一種で、利尻や礼文の夏に群生する
エゾカンゾウをモチーフにしたという。
いいアクセントになっていると思う。

 どっしりとしたグリーン車シート。
いかにもコンパクトな客室に入るや目を丸くし、
その高級感にニンマリしてしまった。
革張りで贅沢だが、群青色なので新鮮に感じられる。
しっとりと艶を帯び、枕の高さを調節して体を納める。
肘掛の白木も、無垢の自然があふれる北海道ではことさらに、
素材の持ち味を印象付けているように思われる。
天井全体も群青色で非常に落ち着いている。
デッキには小さな絵画もあり、
贅沢感よりもお洒落といったほうがよい。
歩いて見ている間にホームの客は車内に吸い込まれ、
発車時刻を迎えた。

 発車して次の南稚内を出るまでは、市街地を走る。
その南稚内でまとまった乗客を吸い込んで、
いよいよ宗谷本線を南下する。
抜海丘陵に上ると右手に利尻水道が広がった。
若干曇っていて、利尻富士は見えない。
富士山の上半分をそのまま切って浮かべたような
壮麗な姿を期待していたので、少々残念。
抜海駅を過ぎるあたりで、ドリンクサービスがあった。
ホットコーヒーを注文する。
JR九州と同じように丁寧な接客をする
女性客室乗務員・ツインクルレディというらしい。
コーヒー1つとっても大変そうだ。

 グリーン車はパソコン用コンセントもある。
携帯電話の充電をしておく。電池切れで苦い思い出があるので。
配布されたおしぼりでさっぱりしながら景色を眺めるのも悪くない。
サロベツ原野を快走して豊富に到着する。
コーヒーはインスタントではないようだ。
車販準備室にはアイスクリーム用のストッカーもある。
走行時間5時間の特急列車ではそのぐらいの設備が
必要なのかもしれない。

 幌延を発車すると、さらに原野を走り抜けて天塩川に沿う。
天塩山地の北端近くを切り開いた谷であるが、
これを切り開いたのは天塩川である。
川は交通路の母という言葉の通りであった。
川面は凍結しているが、雄大な眺めだ。
天塩川は日本海に注ぐ川であるから、
その流れを遡って内陸を目指していることになる。

 天候がよければマイカーで突っ走る人も少なくないだろう。
しかし、ブリザードは下手すると命を落とす。
長い冬の利用には鉄道が便利なのは
北の大地では当然のことである。
音威子府では“パーク&ライド”の看板が大きく掲げられていた。
駅に駐車場を設け、マイカーと特急を乗り継いでもらうわけだ。

 北の果てへ向かって緩やかに流れる天塩川に
ていねいに付き合うので、勾配もトンネルも皆無だが、
雪崩除けをくぐりながら山ひだに沿って曲線が続く。
家も道も見えず、人工のものは南北に伸びる
2条のレールだけである。

 音威子府。
時刻表ではじめてみたときに、ひときわ目を引いた。
なんという響きだろうか。
これほど旅情をかきたててくれる駅は他にはないだろう。
かつてはオホーツク海側の浜頓別へ向けて
天北線が分岐していた。
家具から工芸品まで木工細工で有名な音威子府であるが、
そばでも有名である。
しかし、停車時間1分ではどうしようもない。
少し特急というものが憎らしくもなるが、またの機会にする。

 9時58分に美深、10時19分に名寄に到着する。
名寄から先、この列車のために
高規格化された線路を水を得たように走る。
ぐんぐんとスピードを上げ、これまでとは別の列車のように
エンジン音が高鳴る。
トップスピード130kmで疾走。
車体傾斜装置が働いてカーブでの揺れが格段に減っただけでなく
水滴の流れが変わった。

 和寒を出ると、にわかにエンジン音が大きくなって、民家も減る。
北海道の屋根の一角をなす塩狩峠である。
天塩と石狩を分かつ峠だから、この先は石狩地方である。

 北海道第2の都市・旭川に11時12分着。
久しぶりに見る大都会の雰囲気だ。
 函館本線に入ると複線電化で線形もよくなり
カムイコタンの山々をトンネルで貫く。
スーパーの名に恥じず、深川、滝川、岩見沢に
停車駅が絞られている。

 厚別を過ぎたところで稚内行の特急サロベツとすれ違った。
白石で千歳線が現れるとツインクルレディが最後のあいさつを
行なって列車は高架線に上がり、定刻の12時35分、
札幌駅4番線に滑り込んだ。
やはり最北の稚内と比べると、
冷気の厳しさは比べるまでもなく札幌のほうが穏やかだった。





最北の夜行特急

ハイデッカーグリーン車

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