宗谷本線・各駅停車 @
 北海道を乗りまわす旅の続きは昨日と同じ稚内からはじめる。
なぜかと言えば、それは最北の旅情を満喫するべく、
鈍行列車でたどりたいからである。
朝6時過ぎの稚内駅は閑散としている。
利尻・礼文行きの離島フェリーもこの時期は減便されていて
観光客など多いはずがないのだ。
平日の朝だし、タクシーも少ない。

 これから乗る列車は上り1番列車・6時37分発の
名寄行普通列車。もちろんワンマンカーである。
発車・到着時刻表を見てもわかるように、宗谷本線の輸送量は
函館本線などとは比べものにならないほどに小さい。
こんなことを言っては稚内の人たちに怒られるだろうが、
最北の路線の面目躍如といったところだろうか。

 なぜこんな朝早くに最北の稚内にいるのかと言えば、他でもない。
昨日と同じく、稚内行き夜行特急・利尻に乗ってきたのである。
北海道フリーパス(グリーン車用)は、B寝台も乗り放題である。
よって、宿をとるくらいなら夜行列車に乗るほうが安上がりなのだ。

 特急<スーパー宗谷>を満喫したわけだから、
今度は旅情を十分に満喫するべきと考え、
昨日の夜7時で夕張にいたにもかかわらず、
新夕張から特急スーパーおおぞら11号で新得へ。
さらに新得から根室本線で滝川に23時29分着。
そして滝川発0時15分発の稚内行特急<利尻>に間に合う
といった仕掛けである。
根室本線・富良野〜滝川間も乗り潰せたが、夜だった。
島ノ下、野花南付近のダム建設による新線は昼に見るのがよい。
そのダム湖底には雄大なS字カーブで有名な
滝里信号場が沈んでいるのだから。

 稚内は言わずと知れた日本最北端の駅である。
これ以上北に延びるレールはない。
戦前なら樺太にレールがあったけれど、それは遠い昔、
遠い土地のように感じられる。
本土が1本のレールで結ばれたことを考えれば、
その北の果てであるこの線路を見るだけで感慨深い。
周りにマンションやホテルがあるのは正直言って興冷めだが、
それらがある故に稚内駅の少々ひなびたホームと屋根は
いっそう情緒を感じさせる。
雪の夜に旅立つとまた格別なのではないだろうかと、
稚内の人たちに申し訳ないことを考える。

 6時38分、改札に立つ駅員が発車時刻を確認してから放送、
顔を出した運転士に合図を送ってから笛が鳴る。
発車時点での乗客は4人。
これはこれで寂しさがいっそう増す車内である。
鉄道マニアと思しき人もいない。
本当に地元の人たちだけである。

 1両のワンマンディーゼルカーは、市街地を抜けて南稚内駅へ。
ここで高校生を含めた4人が乗車。
これでもこの列車を必要としている人がいるのである。
外は猛吹雪になっているから、車ではだめなのだ。

 利尻富士の見える抜海丘陵の上では、観光客を乗せた
特急列車のように減速はしなかった。
宗谷本線の“普段着”なのだろう。
利尻富士は見えなかったが嬉しくなった。

 抜海丘陵の上では小鹿が飛び出してきた。
ぼくは運転台の横に立っていたから、
びっくりして思わず息を呑んだ。
道内各地ではあのようにエゾシカが飛び出してくるのかと、
急制動をかけて間一髪でシカを跳ねなかった運転士の
反射神経に感心した。
汽笛も鳴ったので乗客は前の方を見ている。

 南稚内から10分で抜海駅に停車。
200km以上もある長大な宗谷本線上で
この駅は1,2を争うほど好きな駅名である。
1度降りて見たいと思う。でも降りたら最後、
3時間以上も待ちぼうけを食らってしまうのでやめておく。
そんな旅は全線を乗ってからしたいと思っている。

 こんな吹雪の中でも定時運行できるのは、
鉄道の大いなる力だと言っていい。
だからこそ冬の北海道を旅したいと思っていた。
北海道は夏だという人が少なからずいる。
そういう人たちは、極寒の北海道を体験せずに
冬をぬくぬくと過ごす。
そして北海道の魅力を語りはじめる。
そんなのは無責任だとぼくは思っている。
観光地としてしか北海道を見ていないのだ。
本当に北海道の情緒に触れるのであれば絶対に冬だと思う。
どんなところにも人々の営みが四季を通じてあることを
思い知らされるだろう。
そんな土地の人たちに巡り会えるのが
鉄道の旅のおもしろさでもある。

 夏はクマザサで覆われるであろう雪原の中を進んで、
7時24分、豊富着。
“気分爽快!!サロベツ”とある。
気分は爽快かもしれない。だがそれ以上に
その土地にある自然と人々の営みに触れるべきだとぼくは思う。
情緒のカケラもない看板を見て、
ずっとサロベツ原野に沿って走ってきたことに気付いた。
何だか批判ばかりしている。
冬の北海道が好きなったからに他ならないのだが・・・。

 乗客のほとんどはここで下車した。
高校生にとっては通学列車であったようだ。
途中駅からの乗車はほとんどない。
もちろん無人駅が大半を占める。
ぽつんと線路脇に貨車が置いてあると思ったらそれが駅だった。
ホームは雪に埋もれているのである。
そんな駅に遭遇することは少なくない。
駅というか、昔は仮乗降場だったものだろうと察しはつく。



栄枯盛衰の炭都

音威子府駅

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