越後湯沢駅4番線に下りる。
17時54分発の上越線・水上行普通電車に乗る。
6分停車の後、定刻に発車すると、いましがたトンネルで
抜けてきた山々に向かって走っていく。
また元の場所へ戻ろうかというのだから普通なら考えられない。
ばかげた話だと思う。

 しかしである。
立ちはだかる山々の険しさは在来線でなくてはわからない。
それをいまから肌で感じてみようということである。
見るからに険しそうな山々の谷に沿って、上越線をたどる。

 すぐに車内改札があった。
乗車券を見せると、「どこですか?いまは。」と言う。
“越後湯沢・上越線・新前橋”の文字を見せると
「確認しました。ありがとうございます。」と言ってくれた。
ここ2、3日は丁寧な駅員、車掌ばかりである。
新潟地区は老若男女を問わずといった感じで、
教育が行き届いているようだ。

 岩原スキー場前、越後中里の順に停まる。
ここまでは1時間に1本、普通列車がある。
すなわち新潟県内ということで人の往来があるのだ。
地図で見ると確かにそうで、県境の駅であった。

 越後中里を出た列車は右にカーブを続ける。
もう何分ぐらい経ったであろうか。450°ぐらい回っている。
トンネルの中にループがあり、ぐるりと回ることで距離を稼いで
勾配を緩和しているのである。ぐんぐんと高度を上げているはず
だが、トンネルの中ゆえにそれを知る術はない。
どうやらサミットを迎えたようで、モーターの唸りも止まった。

 左にカーブした鉄橋の上から谷の深さを知る。
何と峻険たる路かと思う。こんなにすばらしい場所を
トンネルで抜けてしまっては面白みもありがたみもない。
片道でも新幹線を使ったことで、損をした気分になった。
最長片道切符は、はたして何が損なのか、何が得なのかを
十分に考えさせてくれる。

 鉄橋を渡ったあとに土樽駅に着く。
前方に見えているのは谷川岳であろうか。高く険しい山だが、
こちらの谷も深くて全容が見えていない。雲もかかっている。
後方は白い雲が夕日に染まっている。いや、輝いている。
上越国境は越えたらしい。越境前、オレンジ色に染まっていた
入道雲もどこかへ行ってしまった。
雲一つとってもその変化は多彩であるし、見ていて飽きない。

 峠を下っていく途中の土合駅に停まる。
下り線のホームはトンネルの中にあり、改札口から
階段を下りきるまでに10分かかるという。だから下り列車は
到着10分前に改札を終了するらしい。
険しい山越えならではの駅である。

 土合を出ると湯檜曽の手前で利根川を渡る。
いよいよ関東かという気になる。新幹線で高崎に下りたが
それとはまた格別の味わいがある。
そのまま18時32分、終点・水上到着。感無量である。

 谷川岳登山の玄関口だが、この時間ではハイヤーもいない。
その間に途中下車印をもらう。
「うわぁ〜何だこの切符は〜?ずいぶんいろいろ行ったねぇ。
どこに押せばいいの?」
と言う。どこでもいい旨を伝えると、
「どこでもいいの?押したい場所に押しちゃうよ?これ。」
と、いままでで一番きれいな下車印をくれた。
ありがたい。

 18時40分発の高崎行普通電車で水上駅をあとにする。
国境の入口にある駅らしく、広い構内と線路配置、
それに照明等もまぶしい駅だった。雪国の玄関口である。
上牧、後閑と停まるが乗客は増える気配がない。
窓を開けると外の空気は涼しく、心地よかった。
これでは冷房も要らない。
まだ8月なのにこの涼しさは何であろうか?

 吾妻線が合流する渋川で乗客が少し入れ替わる。
ここまで利根川の谷を下っていたようだ。
温泉街らしき灯が見えていたのもそのせいだろう。
19時31分、新前橋に着いて、下車する。

 このまま高崎まで行くことも考えたが、
それでは途中下車印がもらえない。高崎〜新前橋間は
上越線・越後湯沢〜越後川口間とともに乗りつぶすことにする。
19時47分の前橋行普通電車に乗る。
36番目の路線・両毛線である。わずか4分で前橋に着く。

 新前橋駅同様、途中下車印をもらう。
前橋も新前橋も若い駅員で、こちらの言うがままに押してくれた。
その動作には、この切符に対する自分なりの考えはなかった
ようで、ポンと押すだけだった。
水上駅での年配の駅員どのとは対照的だった。
最も、こんな切符は見たことがなくて戸惑ったのだろうけど。。。

 時刻は20時を回ろうとしている。
10日以上旅をしていて20時を過ぎたのは、大雨で遅れた
2日目の新得と、宮古で安い宿がとれなかった5日目・
釜石ぐらいである。
本来ならこの辺りで宿をというところであるが、佐野まで行く。
兄の家に泊めてもらう。
最長片道切符のルート上にあるとは幸いである。

 20時05分発の小山行に乗る。
車内はいっぱいだったが、前橋大島、駒形、伊勢崎と停まると
ガラガラになった。この辺は東武伊勢崎線のエリアである。
桐生で普通列車とすれ違い、足尾方面への
わたらせ渓谷鉄道の車両を見ながら栃木県に入る。
県境を越えるのも、もう何度目かと思う。

 足利に停車しても車内は空いたまま、車窓は暗いままだ。
しかも市街地を走っているというわけでもないので、
彩るものは何もない。駅間距離もけっこうある。
どんな風景が広がっているのかと思う。
21時02分、佐野に着く。

 改札口で兄に出迎えてもらう。ありがたい。
しかしその前に途中下車印をもらう。
「おぉ、すごい!はじめて見ますねぇ。稚内から、新旭川、
ふんふん。網走、釧路・・・・・で、今日は宮内から豊野、直江津。
あぁ、あっち回ってきたの?それから長野、高崎、越後湯沢、
新前橋、おー!あった両毛線!わかりましたご苦労様です。」
と、最初から経由地を確認してくれた駅員どのははじめてだ。
暇なのか。それとも鉄道好きなのか。
意外なところにこういった駅員はいるものである。

 今日は長かった。




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32.鈍行列車・悲喜こもごも

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最長片道切符の旅・11日目
31.上越国境を越えて
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