館山は房総のリゾート地らしく、
駅前にはフェニックスやヤシの木が立っている。途中下車印をもらう。
「うわ。すごいなぁ!どこから来た?」
「九州からですが出発地点は稚内です。」
こういうときは遠い地名を言うのがセオリーだと思う。
こんな一場面で出会った人に対する礼儀だとも思う。
自分が旅することで、そして出会うことで、その人の日常に刺激を
与えられるのだから。せっかく驚いてくれていることだし。
落胆させてはいけないのである。

 2番線に下りて普通列車の千葉行に乗る。
先程乗ってきた列車が安房鴨川に折り返していくのが見えた。
階段を降りた付近は立客がいるほどである。
後ろのほうにいくと、ガラガラであった。100mも歩かないのに
空いているほうへ移動しないとは、その心理がわからない。
ちょっと歩けばボックスを占拠できるほどに座れるというのに。

 10時07分に発車。
那古船形、富浦と停まり、これまで同様に海の地名が続く。
スポーツ新聞を持ったおじさんが横のボックスに来た。
昨夜の阪神−巨人戦での金本のホームランが一面トップであった。
そういえばその名が鉄道に縁深きプロ野球チームが一つだけある。
西武ライオンズでも南海だったホークスでも阪神タイガースでもない。
ヤクルトスワローズである。その前身は国鉄スワローズなのだ。
元々国鉄の球団であり、その時代は超特急<つばめ>の時代。
その<つばめ>に由来して“スワローズ”となったのである。
夏の甲子園も終り、一夏が過ぎようそしている。
ハイビスカスとて一夏を終えようというのに、
ぼくの旅はまだまだ続くらしい。

 岩井、安房勝山、安田、浜金谷、竹岡。
どれも海辺の町の小駅であった。上総湊では4分停車し、
千倉行の特急<ビューさざなみ>とすれ違う。
その先、東京湾に沿って走り、コンビナートが現れると君津である。
ぐるっと回ってきたようだ。

 けっこう揺れる。なぜだろうか。
朝食にとパンを食べていたら、開けていた窓に頭をぶつけて
パンを落としてしまう。手に残ったのは袋だけ。
何とも切なさで胸がいっぱいになる。血にも肉にもならずに
土へと還るパンの姿はどこにもなかった。

 海にはタンカーが浮いていて、東京湾らしいと言えば
そうかもしれない。空が青白く見えるのもそのせいだろうか。
11時12分に木更津に着く。
人がたくさん乗ってくるというわけでもない。終点までこのままなら
気が楽だ。そう思っていたら、ウトウトしてしまう。

 “ソガ”と放送された気がしたのであわてて降りる。
蘇我駅は外房線と内房線、京葉線が重なるジャンクション。
その割には小さな駅だなと思ったら、一つ手前の“浜野”だった。
衝撃だった。降りる駅を間違えるとは。
長旅なら多少そそっかしくても大したことはないが、今日は首都圏。
細かいスケジュールは立っていないのであって、かえって命取りに
なるやもしれぬ。どうなることかわからないが、何とかなるとしか
言いようがない。1本遅れなので15分ずれる。
ただ15分間列車を待つのも虚しくなるので、途中下車印をもらう。
腹いせに駅前のコンビニで唐揚を買う。
100円高く請求されて、おや?と思う。1つと注文したのに2つきた。
少し腹が立ったが、今日はおそらくよくない日なのだろう。
そのまま2つ買う。もう流れに任せることにした。
今日は昼飯も抜きにしよう。

 11時56分発の千葉行普通列車で蘇我に着く。
今度こそ蘇我である。そそっかしさも旅の要素に取り込んでしまえば
万事OKとなる。蘇我でも途中下車印をもらって3番線に下りる。
43番目の外房線、44番目の内房線に挟まれて、45番目の路線・
京葉線のホームがある。12時10分発の快速電車・東京行に乗る。

 蘇我を発車した電車は、すぐに高架橋を渡り、
千葉みなと、稲毛海岸と停まる。
ディズニーリゾートに向かうと思しき家族連れが多い。
車窓は大きなコンビナートからショッピングモール、マンションの並ぶ
住宅地とめまぐるしく変化する。港湾地区はどこも似たような
風景らしい。人工の埋立地だから、川ではなく運河である。
高架橋の上を走るので当然踏切もない。

 15分で海浜幕張に着く。
ここから快速運転となる。幕張電車区の横を過ぎて
新習志野を通過し、南船橋に停車する。廃材処理プラントや工場、
卸売市場、運送会社の倉庫群、これだけのものが窓の外に現れて
圧倒する路線は他にないだろう。

 マンション群とデパートのある新浦安に停車。
これはこれで結構乗客がいるものである。さらに港湾をぐるりと回る
高速道路とともに舞浜に停まる。ここで半分ほどが下車する。
どの駅でも他の路線への乗換えがあることが告げられる。
○○臨海高速鉄道云々。田舎者のぼくにはピンとこない。
田舎っぽさがにじみ出る悲しさだろうか。

 それにしても海の色が汚い気がする。
一週間前の日本海ブルーとは比べものにならない。
こんなところで釣りをしている人を見ても羨ましくもなんともない。
新木場を過ぎると大きく右にカーブして高速道路と分かれ、
内陸へ進んでいく。だんだん高度を下げているのがわかり、
そのまま地下へと入ってしまった。
突然テレビの電源を切られた気分である。
八丁堀に停車すると、まもなく終点の東京に着く。



37.房総半島は曇り空

39.摩天楼

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最長片道切符の旅・14日目
38.臨海工業地帯
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