静岡で東海道新幹線を降りる。
日本一の大動脈の中にも、旅の楽しみを見つけた1時間だった。

 途中下車印をもらう。
特急券と最長片道切符を女性駅員に見せると
「乗車券はお持ちでないんですか?」
と言われて唖然としてしまった。イレギュラーな切符用の
特別補充券の存在を知らないのである。
対応はすばらしく丁寧であるのに、もっと勉強してほしいなと思う。
知らなくて当たり前であろうか。
それとも最長片道切符はスタンプカードに見えるだろうか。

 ここから東海道本線に乗り換える。
そのまま新幹線で名古屋に運ばれるという流れに抗いたいためだ。
13時36分発の普通電車・浜松行に乗る。
静岡駅を発車した途端に新幹線に追い抜かれる。
つい15分ほど前まで、あれに乗っていたのかと思うと
何をそんなに急いでいたのかと思う。
やはりボックスシートで揺られるのは最高である。
高校生から初老の人まで乗っている。
これが東海道の“普段着”なのである。

 安倍川、用宗と過ぎると海岸が近づいてきてトンネルに入る。
日本平トンネルである。いま走っているのは2代目で、
旧線のトンネルは台風で線路ごと崩壊した。

 御前崎へ伸びる海岸線と離れる場所で焼津に停まる。
「停車時間が短くなっております。ご注意ください。」
と放送がある。もたもたしてないで早く降りろということだろうか。
多分、停車時間が短いから気をつけろという内容そのままの
意図であろう。あるいは、ただ遅れ気味なのか。
悪いほうに解釈してはいけないが、あまり聞こえがよくない。
「お降りのお客様、どうぞご仕度をしてお待ちください。」
と放送するJR東日本のほうがよっぽど乗客のことを考えている
ように聞こえる。

 西焼津、藤枝、六合、島田と停車する。
島田は東海道の宿場町である。この先の大井川は舟で
渡らねばならなかった。そのための船宿が多くあったところである。

 大井川を渡れば上り坂になり、大井川鉄道の線路が見えてきて
金谷に停車。ここからは茶の産地として知られる牧ノ原台地を走る。
斜面は一面の茶畑で、山のほうまで畝が続いている。
昨日見た甲府盆地の果樹園とはまた違った光景である。

 菊川、掛川と停まる間にウトウトしてしまう。
気付いたら磐田や天竜川を過ぎて浜松に着いていた。
14時47分着。寝ぼけ眼のぼくは向かいのホームに停車中の
新快速に乗るのをためらってベンチに座る。

 途中下車印をもらおうと改札へ行く。すると、
「別紙の経由地に押すことはできません。
切符の券面でなければダメです。」
と言われた。なんと頭の堅いことか!
“券面がいっぱいだから”といままでの駅員は柔軟に
対応してくれたではないか。内心少しだけムッとしてしまう。
やむを得ず券面に押してもらった。

 しかしである。
この最長片道切符を他の切符と分け隔てなく扱った場合、
駅員どのの言うことは正しい。“最長片道”であることに
タカをくくっていたのではあるまいかと考え始めた。
柔軟な対応をしてくれてももちろんよかったのだが、別の意味では
最も駅員らしくこの切符と向かい合ってくれた人であったように思う。
新横浜駅の駅員のように、にこやかに経由地と有効期限まで
確認してくれる駅員もいれば、このようにあくまで職務に忠実な
駅員もいるわけである。JR東海も一枚岩ではないらしい。

 そんなことがあったので、少し風に吹かれてみたくなった。
今日はよく考えてみたら、列車の窓を開けていない。
土地の風を感じていないのである。ホームのベンチに座って
コーヒーでも飲んでみようと思う。

 改札前のコンコースには“うなぎコーナー”。
コンビニも“NEW DAYS”から“ベルマート”に変わっている。
すっかり東海エリアである。
ホームのベンチで列車を一本見送った。
名古屋に戻ればやることはあるのだが、それはこの切符の旅から
離れればのことである。豊橋まで急ぐ必要はない。

 天気は雨になっている。
ぼくに寄って来たハトも心なしか元気がない。
列車を見送るぼくに親近感でも湧いたのだろうか。
ハトが去った頃の15時30分、大垣行普通電車で浜松をあとにする。

 高塚、舞阪、弁天島を過ぎた。
浜名湖も渡る。うなぎを食べるべきなのかなと思うがやめる。
新所原では天竜浜名湖鉄道の列車が見えた。
旧国鉄二俣線である。海沿いは艦砲射撃を受けやすいため、
代替ルートを確保しておく必要から建設された路線である。
浜名湖の北側を大きく回っている。
実際に東海道本線が艦砲射撃を受けたこともあり、
そのときは二俣線を迂回して貨物列車が走っている。

 16時04分、豊橋着。
いよいよ名古屋の都市圏である。
これまで57路線を乗った。
盲腸線など、最長片道切符以外では11路線あった。
これでまだ半分くらいなのである。
切符1枚の偉大さに驚かずにはいられない。

 途中下車印をもらう。
普段と変わらぬ対応、別紙のほうに下車印を押してくれた。
こういうものだろうと思う。
名古屋の南のターミナル・金山までの切符を新たに購入して
自動改札をくぐる。駅員が対応してくれる有人改札と違って
なんと味気ないものだろうかと思う。
最長片道切符は機械なんぞで処理できるような
切符ではないことだろうか?
自動改札は確かに速いが、自分が旅に出るための切符が
最も粗末な扱いをされているような気さえしてしまう。

 16時26分発の特別快速に乗って名古屋市内に戻る。
時間にして40分。これまでの行程に比べれば、
立っていても短いものだった。
ここまでは乗ったことのない路線が大半である。
だからどちらかと言えば思い出を作るための旅である。
考えることも少ないかもしれない。
しかし名古屋以西は乗ったことのある路線のほうが多い。
したがっていろいろな思い出がある。
考えるものも多いだろうと思う。
ぼく自身の生活に片足を突っ込みながらの旅になるだろう。
20日間は終わってみれば短いものだったが、
ここから先は長いのだろうなと思った。





46.こだまの五十三次

最長片道切符の旅・16日目
最長片道切符の旅
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47.浜松にて
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