和歌山から北、大阪方面への流れは阪和線へ。
紀勢本線は西へ向かって南海電鉄の和歌山市駅に達する。
これから乗るのは東に進路をとって紀ノ川に沿って走る
和歌山線である。もう72番目の路線なのかと思う。
それでも旅はまだ3〜4割残っていそうだ。
路線が多い首都圏を通過したから、
路線の数がどうしても増えてしまったらしい。

 9時50分発の和歌山線・桜井線経由の普通電車奈良行は
定刻に発車した。和歌山市への線路、阪和線が左に
分かれていくと、和歌山電車区の横を抜けて田井ノ瀬駅に着く。
千旦、布施屋と停まるうちに水田が広がるようになる。
大きな川の下流から中流にかけて山に向かって走るときは
どこも一緒のように思える。両側に山があり、田園風景と民家。
そして国道が垣間見える。

 だが和歌山線は少し違う気がする。
この辺りはみかんのような柑橘系の香りがするときもあれば、
梅の香りがするときもある。春先にはじめてこの和歌山線に
乗ったときは桜が満開だったが梅の香りがしたのを覚えている。
いまは秋、稲が金色の穂を垂れる。
和歌山の名産品はみかんや梅などであるが、
主要な産地は御坊や湯浅などもう少し南だった気もする。
童謡の“みかんの花咲く丘”はここをモデルにして
歌われたと聞いたことがある。

 紀伊小倉、船戸、岩出を出ると和歌山線がたどる川を作った
紀ノ川を渡る。流れの速そうな川だ。船戸という地名があるように、
船はこの川の下流でしか出せなかったのだろう。
岩出から下井阪、打田、紀伊長田、粉川と列車は進む。
粉川までは和歌山の都市圏らしく、区間列車も多数運転されている。
駅員はいたものの、みどりの窓口はないらしい。
紀ノ川の谷を見下ろす山に貼り付いて淡々と走る。

 切通しの中にある無人駅・中飯降で車掌が乗ってきた。
どこかで見たことのある車掌だと思っていたら、半年前に
はじめて和歌山線に乗ったときに青春18切符を見せた車掌である。
そういえばあの時は中飯降で車掌が降りて変だな、と思った。
同じようにして乗車券を発券しながら車内改札をしている。
最長片道切符を見せると
「ほほぉーすごい切符ですな。ありがとうございます。」
とだけ言ってチケッターを押してくれた。
“和歌山支社・橋本車両所”とあった。

 高野口に着く。
高野山への入口かと思うが、それは高野山のケーブルカーが
発着する南海電鉄高野線の極楽橋駅だろう。であれば、
なぜ高野口なのだろうか?
その10分後には件の南海高野線が現れて橋本に着く。
ここで乗り換えて高野山に向かうほうが断然便利である。
8分停車するので、下車客の後ろにくっついて改札で
途中下車印をもらう。
「この切符は何ですか?8月からずっと乗ってらっしゃるんですか?」
と訊きながら経由地を一つ一つ確認していた。
“もっと訊いてくれていいぞ!”と、心の中で思ったが、
話をしていたのでは生憎と発車時間を忘れてしまいそうだ。
「見事な一筆書きですね。よい旅を!」
と言って見送ってくれた。ありがたやありがたや。

 3番線に戻ると車掌どのはホームのベンチに座って
コーヒーを飲んでいる。車内では立ち仕事、折り返しとなる中飯降駅は
無人駅でコーヒーなど飲めない。
ちょっとした停車時間の間に休憩を入れられるのだろう。
のんびりした時間が流れる。

 橋本を出るとだんだんと谷が狭くなってきたような気がする。
列車は河岸段丘の上を走っており、紀ノ川の川面は
かなり下に見える。下兵庫、隅田、大和二見とすすめば
11時20分に橋本着。ここでも途中下車印をもらう。駅弁屋がある。
時刻表には掲載されていないが
吉野口以外にも橋本と五条には駅弁が売られている。
このちほうは柿の葉寿司だが、残念ながら腹は満ちている。
深呼吸したあとに列車に戻る。

 老夫婦がいた。
爺さんは杖をつき、婆さんは薬袋を持っている。手提げ袋から
餅を取り出して爺さんに勧めている。あんころ餅のようだ。
爺さんは手を振り、婆さんが食べた。
ローカル線の風情である。

 発車した列車の中で窓を開けて外の景色を眺めていると、
こちらを見ている女の子に気がついた。
なんだかじろじろ見られているようだ。
おおかた「変な旅人がいる」とか思われているのだろう。
珍しいだろうし。三脚とカメラもしげしげと見ている。
なんであろうか。

 7分で左側にホームが現れて通り過ぎると停車。
本線とは離れた引込み線であり、スイッチバックの
北宇智駅に到着した。ここは関西で唯一スイッチバックが残っている駅。
引込み線で一旦停止した後、バック運転で本線を横切り、
ホームへと入る。ワンマン運転で踏切もあるのに
大丈夫なのかと思っていたが、運転士は窓から顔を出していた。
ホームの乗客も心得ているらしい。

 紀ノ川の谷は吉野のほうへと続く。
しかし和歌山線は吉野へと向かわずに谷の北側の山々を越えて
奈良を目指す。その山越えの途中に北宇智駅があり、
スイッチバック式の交換駅となっているのである。
ホームに進入せずに通過できる配線にもなっている。
昔は急行列車も走っていたという。

 北宇智を発車するとなだらかではあるが山に分け入っていく。
民家が一瞬だけ尽き、再び現れると吉野口に着く。
近鉄吉野線が並んでいる。
五条と違って改札がホーム階段にあるようで、
南海高野線の橋本とも違う。橋本近辺で車掌が乗っていたのも、
改札を設けるよりは区間限定で車掌を乗務させたほうが確実に
徴収できるからと想像がつく。車掌室にまったく出入りせず、
車内放送も行なわない理由がなんとなくわかった。

 その吉野口を出ると掖上、玉手、御所、大和新庄に停まり、
高田に到着。ここで向きを変えて列車は73番目の路線・桜井線に入る。
6分停車の間に途中下車印をもらい、
ホームへ戻ると先ほどの女の子がいた。まだこっちを見ている。
どうせ今日しか会わないので気にするのはやめた。
JR難波行の区間快速に乗っていったらしい。なんだったのだろうか。
こういうのを関西弁で「なんやねん?」というのだろうか。



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