東舞鶴で普通列車を見送ったのは、ここから特急に乗りたいからである。

 ホームに上がると9時57分に2両編成のディーゼルカーが入線してきた。
特急<タンゴディスカバリー2号>京都行である。これはJRの車両ではなく、
第3セクター北近畿タンゴ鉄道の車両である。北近畿タンゴ鉄道はもうひとつ
特急車両を持っていて、<タンゴエクスプローラー>の名が与えられている。
Tango Discoveryの文字がいたるところにあり、モチーフになっている絵は
おそらく丹後ちりめんであろう。あくまで丹後半島にこだわっているらしい。

 途中の綾部で進行方向が変わることを見越してか、
座席は逆向きにセットされている。乗客も心得ているらしい。
10時15分に発車し、69番目の路線・舞鶴線に入線する。

 舞鶴はその地形・歴史・機能から西と東に大きく分かれる。
東舞鶴付近は市庁舎などの市民生活を営む上で必要なものが多くあり、
西舞鶴付近は舞鶴湾に面した舞鶴港や旧日本軍の施設が数多く残る。
終戦後に大陸から引き上げてきた人の中には、この舞鶴から日本へ上陸した
人たちも多かっただろう。いまでは観光スポットとなっているレンガ造りの
倉庫群も西地区にある。西舞鶴と東舞鶴の間は10分近くかかり、
とても同じ市とは思えない。

 10時24分、西舞鶴駅に着く。
駅のすぐ西側に接して舞鶴城址の石垣がある。小ぢんまりした平地の城だ。
先に到着していた久美浜始発の2両を連結するために一旦停止。
ソロリソロリと近づいてがくんと衝撃がきた。連結完了らしい。
10時29分に4両編成となって発車する。

 この西舞鶴には北近畿タンゴ鉄道の基地がある。
分岐していくのは旧国鉄宮津線こと、北近畿タンゴ鉄道・宮津線である。
京都府が第3セクターの運営に前向きで、辛くも廃止を免れた路線。
「縞の財布が空になる」と言われたほどにぎわった宮津の町へと続き、
由良川に沿って日本海に向かっている。森鴎外の「山椒大夫」の舞台となった
地方であり、やはり行ってみたくもなる。

 丹後半島ではなく内陸へと進んだ<タンゴディスカバリー2号>は
舞鶴線を走る。真倉、梅迫、淵垣と通過。こんな途中駅のホームも、かさ上げ
されていない部分は年月の積み重ねを感じる。わずか29kmの路線ながら
軍事都市舞鶴を目指す路線として敷設されているために歴史は古く、
トンネルはレンガで頑丈に作られている。

 10時46分、綾部に着く。
ここで進行方向を変え、70番目の路線・山陰本線に入る。
3分停車の間に6号車には運転士が乗り込んできた。福知山から接続した
普通列車からは大勢乗り込んできて、一気に満席になる。

 山陰本線に入ると車内改札があった。
車掌どのは「うわー。」と言ったきり絶句する。感心したのか驚いたのか、
経由地の別紙を何度も見返している。はじめてなのだろう。すでに下車印に
埋もれて券面は相当な面相になっている。こんなに黙った車掌どのは
これまでいなかった。こちらこそ、「はじめてですわ。」である。
福知山列車区のスタンプをもらっておく。

 左手に由良川が寄り添ってきて、綾部大橋をくぐる。
山間に分け入っていくと丹波高地である。由良川は上流になっていて、
ところどころ瀬や淵になったところがあり、白いしぶきも見える。
指定席車両には展望スペースもあるのだが、残念ながら立客が出るほどの
盛況なので身動きはとれそうにない。あきらめる。

 山家、立木、安栖里と小駅を通過する。
昼前なのにうとうとし始める。この時間帯に眠くなるのは珍しい。
鉄道の旅の醍醐味の一つに居眠りがある。
せっかくの車窓がもったいないのだが、トロトロとしながら“はっ!”と
目を覚ますと列車が走り続けている瞬間は筆舌に尽くしがたいものがある。
ただ、こう考えることは我田引水であるかもしれない。
あぁ。車窓がもったいない。

 園部からは京都の都市圏に入り、すれ違う列車が増えてきた。
加賀温泉駅からの電話で目が覚める。旅日記のノートが見つかったという
連絡であった。着払いで送ってくれるという旨であったが、<雷鳥4号>の
車掌どのの協力の下、受け取ることができたと告げると「なあんだ」という
口調になった。福井駅と敦賀駅に電話をしてくれたらしい。どうも随分と
お騒がせをしてしまったようで申し訳ない。大変恐縮である。この駅員さんにも
感謝しておかねばならない。

 デッキで電話が終わると亀岡を出たところであった。
馬堀、保津峡、嵯峨嵐山とトンネル区間が続く。この区間の山陰本線は
保津川に沿ってゆっくりと走る非電化の単線であった。京都から20分ほどで
そんなローカル色の濃い車窓へと移り変わる山陰本線の偉大さに
感動したものだったが、現在は複線電化の新線に変わり、旧線は
嵯峨野観光鉄道によるトロッコ列車が運転されている。

 太秦で普通列車を追い越し、高架橋に上がって円街を通過する。
幕末に大政奉還の行なわれた二条城の堀を左手に見て二条駅に着く。
さらに遠くには巨大な京都駅の駅ビルが見えている。
二条を出ると丹波口を通過、巨大な扇形機関庫と多くの蒸気機関車が並ぶ
梅小路蒸気機関車間を見下ろす。

 左にカーブして東海道本線の貨物列車と並んで
京都駅31番ホームに到着した 関空特急<はるか>の発着する
30番ホームと、山陰本線31〜34番ホームは巨大な京都駅ビルの真下になる。
ここからまた乗り換える。



71.若狭湾

73.京都駅

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最長片道切符の旅・23日目
72.タンゴディスカバリー
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