出雲市駅に戻って、3番線に上がる。

 出雲そばを食べようか迷ったが、腹が膨れるか自信がなかった。
やってきたのは特急<スーパーまつかぜ3号>益田行である。
特急なのに2両編成とは短いが、それで十分の乗車率である。
5分遅れで到着したのは大雨の影響だろうが、なかなか発車しない。
出雲市終着の普通列車を待ってからの発車となった。

 10分遅れという詫びの放送が入った。
グンと動き出すと一気に加速する。北海道の特急<スーパー宗谷>に
そっくりである。いままで乗ったどのディーゼルカーよりもパワフルだ。
スピード中にこの車両の力を感じて、思わずワクワクしていたら
西出雲、出雲神西、江南を過ぎていた。

 線路脇には村道らしきあぜ道が沿う。
電柱には黒いトンビが点々ととまっている。田舎の風景だが
白壁に黒い瓦の農家もある。出雲路は白と黒の対照の中にある。

 車内改札があった。
自由席特急券と最長片道切符を見せると
「ふむ、なるほど。これは一番遠回りの切符ですね。
伯耆大山・山陰本線・江津。これですね?ありがとうございます。」
と言った。こんなに速く経由地を見つけた車掌も、この切符の意味を
理解した車掌もはじめてである。
特急列車とはいえ、島根の片田舎に勤務させておくには惜しい
車掌である。ぜひともチケッターで鳥取鉄道部の印をもらっておきたい。

 振子機能をフルに使って小田を通過。
田園は尽きており、曇天の日本海岸に出る。出雲平野の西岸が
弧を描いて島根半島の西端・日御碕へと続いているのが見えた。
朝に美保関を望み、夕べに日御碕を見る。
朝日も夕日もあたらず、景色の主役は灰黒色の暑い冬雲と、
青黒く横たわる島根半島。しかし、それなりの起承転結があるのでは
ないかと思う。

 田儀という海岸の小駅で停車した。
行き違い列車待ち合わせの運転停車で、ドアは開かない。
鳥取行の特急<スーパーまつかぜ10号>が駆け抜けていった。
やはり5分ぐらいは遅れているらしい。
田儀駅は日本海を見渡す丘の上にある駅。運転停車なので
ホームに降り立つことができず、少し恨めしく思う。

 進路が開通して発車すると、石見の国に入る。
ちょうど田儀付近が出雲と石見の国境であったらしい。
石見に入ると屋根瓦の色が黒から赤茶色に変わる。
その違いがはっきりとわかるほどに様変わりした。
赤茶色は石州瓦である。

 <スーパーまつかぜ3号>は再び海に沿う。
海辺に下りることはないが高台の上から眺める磯の風景、港、
そして山陽にはないような曇り空。海岸は険しさを増し、岩礁に砕ける
波を見下ろすかと思うと短いトンネルに入る。それがくりかえされる。
どれをとっても山陰の風景だと思う。
そんな土地ですら、わずかな平地を見つけては小さな水田が
ひな壇のように作られて石州瓦の民家がある。

 この風景を各駅停車でたどるのも悪くないが、如何せん出雲市〜
益田間の普通列車は窓が開かない。だったら、乗ったことのない列車、
それもこの土地にふさわしい名を持つ特急<まつかぜ>に乗った
ほうがいいと思ったのである。ただし、 窓が開くとわかっている
ところではできるだけ普通列車を選ぶようにしている。

 これだけ海に沿う上に高い丘の上だから
隠岐の島影ぐらい見えてもよさそうだが、残念ながら見えない。
晴れていても見えるかどうかは怪しいほどに距離がある。
隠岐は後鳥羽上皇や後醍醐天皇の流刑地として知られる。
山陰本線沿線は、隠岐を脱出した後醍醐天皇がたどり着いた場所を
走る。鳥取県には名和という駅があり、後醍醐天皇を迎え入れた
名和長年に由来するという。

 久手を通過するとスピードが落ちて、港町・大田市に着く。
20人くらいが下車しただろうか。30分前に出雲市を出た普通列車を
追い越して発車する。5分以上の遅れは取り戻せていないままらしい。

 静間、五十猛、仁万と通過する。
大田市で石見銀山の看板もあったし、石見の国に入ったことは
わかっていたのだが、出雲と比べると風景はまったくと言っていいほど
変化した。屋根はほとんど赤茶色の石州瓦である。
列車は土手の上や高台など、街並みを見渡せるところを走る場合が
多いから、屋根瓦の変化はわかりやすい。
道路を走るだけではわかりにくいだろうと思う。

 砂浜が近くにある馬路を通過し、
温泉津で米子行の快速<アクアライナー>とすれ違う。
窓に一瞬だけ映るトンネルのポータルはレンガ積みのものが多い。
山陰本線の歴史の古さを教えてくれる。石見福光、黒松、浅利を
通過して長い鉄橋の江の川を渡るとき、江津到着の放送が流れた。
14時02分、6分遅れで江津駅に着いた。
だいぶ乗客は減ったようで、<スーパーまつかぜ3号>は
雄叫びのようにエンジン音を轟かせて発車していった。

 江津駅。
わかりやすい駅名である。江の川の河口にある港=津だから“江津”。
こんなに名の由来がわかりやすい土地はなかなかないだろう。
途中下車印をもらうと、駅員どのは最長片道切符を見るや否や
驚いてくれた。JR西日本は親しみやすい人たちが多い気がする。
土地柄なのだろうか。東日本や東海にはないものを感じる。

 江津からは江の川に沿って内陸に向かう。



89.星空の食堂車

91.寄らば大河の陰

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最長片道切符の旅・27日目
90.まつかぜ
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