7時24分、枕崎駅をあとにする。

 立ち去るのがこんなに名残惜しい駅は
なかったかもしれない。折り返し列車に乗る。
ディーゼルエンジンの音が恨めしくも思えた。
もと来た線路を戻って、再び開聞岳が近づいてきた。

 最南端の駅・西大山で降りたのはぼくだけだった。
いい駅である。
何がいいかと言えば、周りは畑で生活感が漂い、
農業を営む人たちの声が飛び交う様子を開聞岳が
見守っているのである。
降り立った乗客に“開聞岳を見よ”と言わんばかりに、
ホームの端には「本土最南端の駅・北緯31度11分」
の標柱が建っている。

 線路が目前で尽きる最北の港町・稚内よりも、
住宅地の中で静かにたたずむ東根室駅よりも
ここが好きだと思う。稚内から3126km、
根室から3213km、東京から1550km。
この遠さ、飛行機で来たらわかるまい。
北海道とてそうである。
鉄道で来てこその距離と感動がある。
遠い土地と実感することが大事なのだ。

 ベンチのそばに置いてあった旅ノートに書き込んで、
40分後の指宿行普通列車を待つ。暑い。
汗が噴き出してTシャツににじむ。
さすがに南国鹿児島。日差しが強くて猛暑だ。
8時59分、普通列車がやってきた。
この駅に降り立った感動も、この駅から乗るときの高揚感も、
鉄道でなくてはわからないものである。
降り立ったときに列車を見送るのも、ホームで1人
列車を待つのも1つの醍醐味といえる。

 開聞岳に別れを告げてから、指宿まで戻る。
指宿からは快速<なのはなDX2号>に乗る。
鹿児島湾越しに眺める桜島が近づいてきてから、
谷山に着く。

 いつもと変わりない駅。
改札を抜けて駅前に出て、懐かしい風景の方向へ歩く。
谷山駅のことを卒業アルバムで“レトロなステーション”と
書いたが、後々の雑誌で“モダンなステーション”
と書いてあってあくせくした。

 永田川を渡る。
上流には滝がある。友達が発見して、1度だけ飛び込んだ
覚えがある。そんな無理だってば!と言いたい。
下流には谷山大橋が架かっており、
産業道路沿いにはグリーンベルトと“大島紬の里”がある。
グリーンベルトではジョギングもしたし、“轟天号”と名付けた
ドロップハンドルの自転車でサイクリングにも出かけた。
市バスと同じスピードで走ったりして、
鹿児島市内もウロチョロしていた。谷山大橋というと、
よく海を眺めた場所である。釣りをしていた友人もいる。

 清見橋を渡って谷山電停前に着いた。
小さくてお洒落だったカレー屋はなくなっていて、
コンビニエンス(SPAR)は接骨院になっていた。
それでも、信号のそばのカレーショップ・プラモはあった。
“悲しいときは激辛で”の名文句はここで生まれた。
参考書の多かった有川書店はシャッターが下りたまま。
スーパー・だいわと清見郵便局は変わりなく、
ほっかほっか亭も無事だった。
これ以上進むと先生に会ってしまいそうなので、引き返す。
時間もないし、日を改めて来よう。
フェリーからの桜島も雄大だったが、
学校の屋上から見る桜島が最も好きだったりする。

 谷山電停まで戻って、市電に乗る。
160円の運賃を用意して乗り込もうとすると、
ICカードが導入されていることに気付く。
何ということだろうか。風情がない。
乗換えとなる郡元電停で
「乗換券ください」というのが好きなのに。
ドアが閉まって発車する。
懐かしい音がする。
タナカ温泉がある。
何度か入りに行ったことがある。
ほんの数回なので、同じ下宿の人は
知らないだろうし、知り合いに会ったこともなかった。

 踏切を通過して上塩屋電停に停まる。
最寄の電停だった。スーパー“タイヨー”が見える。
古本屋の横にあった下宿は10階建てのマンションになっていた。
2年住んだあの建物がないのかと思うと胸にぐっとくる。
寿屋に近い笹貫、脇田、宇宿一丁目と過ぎて、
二軒茶屋を過ぎるとたまに世話になる下宿の裏を通過する。
ここのおばさんにやさしくしてもらえたときにはうれしかった。

 指宿枕崎線が寄ってきて南鹿児島駅前、
涙橋から道路の中を走る。「山形屋〜ストア〜♪」
と流れる宣伝を聞きながら郡元電停に着く。
鹿児島の市電は2系統あり、@系統は鹿児島駅前から
交通局前経由で谷山電停まで。
A系統は鹿児島駅前から中央駅前経由で郡元までである。
この郡元(ダイエー前)で@からAに乗り換えて
鹿児島中央駅に向かう。

 たった一人、乗換券をもらってから降りる。
まさかこんなにICカードが普及しているとは思わなかった。
薩摩は江戸の頃からそうであったように、
新しいものに着目してそれを取り込む力が卓越しているらしい。
中郡や工学部前、たばこ産業前、純心学園前を通って
都通を過ぎると鹿児島中央駅前に着いた。

 地下道ができている。
駅前も活気にあふれているのだが、
どこか南国の雰囲気を漂わせていた
旧西鹿児島駅の駅舎が好きだった。
それもいまはなく、九州新幹線の終着駅として
桜島に見守られている。




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